高リスク前立腺癌に対して手術を勧めるのは正しいのか?③

低リスク前立腺癌の治療成績

 

中リスク前立腺癌の治療成績

 

 

高リスク前立腺癌の治療成績

 

 解説

前回からの続き。

(いちおう断っておくが、前回と同様にこの記事は個人の見解が大きく反映されている。もちろん、可能な限りでエビデンスのあるデータを参照しているが。)

前回はロボット手術が必ずしも治療成績の向上に寄与しないのではないかというところまで書いた。

今回はホルモン治療+手術の話題である。

実はこれまで示している図においては手術の項目はあるが、ホルモン治療を先行したあとの手術の成績は示されていないのである。

最近、経験するほとんどの術後症例はホルモン治療を先行している。

このため、今回示している図が現状を示していないともいえるのである。

ただ、この図に示されているデータというのは10年やそれ以上経過した蓄積されたデータになる。

ホルモンを先行したのちの手術治療のデータが十分に蓄積されていないため反映されていない可能性がある。

これは、ホルモン先行後の手術治療はこれまでよりも優れた治療成績を残す可能性があるいっぽうで、まだ十分にエビデンスが出ていない治療法を広く行っている可能性もあるということである。

極端な話をすれば、そこまで効果が無いかもしれない治療を、多くの患者に勧めているということもあるわけである。

最近であればコロナワクチンの話題がそれに近いであろう。是非はともかくとして、効果や副作用など十分にエビデンスが蓄積されているわけではないが、臨床使用に踏み切っている現状があり、この結果は今後明らかにされていくであろう。

これは近年の医療技術の進歩に臨床研究が追い付いていないという現状も影響していると考えられる。

医療技術は数年単位で進化していくが、前立腺癌のように10年や15年といった長期で成績を評価する必要がある疾患も少なくない。

長期間の臨床研究を組んでいると、結果が出るころにはすでに新しい治療法が主流となっており、結果が陳腐化してしまっている危険性もあるわけである。

かといって臨床研究をおろそかにすべきではないと考える。現在行われている治療はすべてこのような臨床研究にもとづいて淘汰・洗練されてきたものだからである。

エビデンスが十分ではない治療法を研究目的ではなく、臨床で広く適応するのは危険性があるということである。

この話題はまた別記事でも触れたいところである。

 

以上、長々とではあるが、最近の高リスク前立腺癌に対する手術治療のありかたについて自分なりの意見を書いてみた。

泌尿器科医からすると納得のいかない部分もおそらくあるであろうし、こちらが把握していない最新のデータもあるとは考える。

そして医療は日々進歩していくものであり、ここに書いた内容が陳腐化していくのもそう遠くはないであろう。

また日常診療で気になる話題があれば今回のように書いてみたいと思う。

 

広告