高リスク前立腺癌に対して手術を勧めるのは正しいのか?②
低リスク前立腺癌の治療成績
中リスク前立腺癌の治療成績
高リスク前立腺癌の治療成績
解説
前回からの続き。
(いちおう断っておくが、前回と同様にこの記事は個人の見解が大きく反映されている。もちろん、可能な限りでエビデンスのあるデータを参照しているが。)
高リスク前立腺癌の治療成績を参照するに、手術を選択するというのはあまりお勧めできないのではないかと個人的には考える。
その一方で最近、高リスク前立腺癌の手術症例をよく経験するというのはどういうわけだろうか。
その要因の一つとしては、前立腺癌患者の治療選択肢を決めるのは泌尿器科医である場合が多いということである。(もちろん最終的な決定は患者自身によってなされるものであるが、その決定を恣意的に誘導することは可能である、泌尿器科医には怒られるかもしれないが)
もし仮に、治療選択の場に放射線治療医も同席するのであれば手術を積極的に選択するということは起こらないと思うのだが、現実的には放射線治療医と共同で治療方針を決定する場合はほとんどないであろう。
そして、泌尿器科医が治療方法を選択する場合、手術を優先するというのはわからないでもない。
仮に放射線治療医に治療選択権があるのであれば、放射線治療を優先的におすすめするだろう。
泌尿器科医が手術をすすめたい理由は考えられる。それはロボット手術装置であるダビンチの存在である。
近年、ロボット手術が進歩し、ダビンチを導入する病院も増えてきている。
ここで注意が必要なのは、機器を導入した以上、減価償却をしないといけないということである。つまり、機器の費用以上に稼がないといけないのである。
そうなると必然、手術件数を増やす圧力になることは想像に難くない。
ロボット手術装置をいれた以上、手術をしないといけないのである。
このため、一見治療成績が良好とは言えない手術を高リスク前立腺癌の患者に対して勧めるという結果になるのではないだろうか。
泌尿器科にも言い分はあるであろう。ロボット手術によって治療成績が向上すると。
しかしながら、個人的にはロボット手術の利点はおもに副作用の軽減だと考えている。本来、開腹手術では損傷の大きかった神経などの重要組織を安全に残すことができるようになったのがロボット手術の恩恵だと考える。
これは前立腺癌の診療ガイドラインから抜粋したものである。一般のかたでも参照できる内容である。
前立腺癌の診療ガイドラインにはロボット手術はこれまでの手術と比較して同程度の治療成績が期待できると記載されている。
つまり、ガイドラインにもロボット手術が治療成績において優れているとは書かれていないのである。
いっぽうで、副作用の点についてはロボット手術が優れていると書かれていることから、ロボット手術の利点は副作用の低減の面が大きいことがわかる。
ロボット手術の導入によって治療成績が向上するとは言えないと個人的には考える。さらには高リスク前立腺癌になると切除する組織も広範囲になるため、逆にロボット手術が適さない可能性もあるのではないだろうか。
次回に続く
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