放射線皮膚炎 :放射線治療中の皮膚炎 まとめ

2019年3月10日

ここでは、放射線治療の副作用のひとつである放射線皮膚炎をできる限りわかりやすく、かつ詳細に説明していこうと思います。
いくつかの項目に分けて書いていますので、必要な部分だけ読んでもらっても大丈夫です。

放射線皮膚炎は多くの放射線治療において経験する症状で、副作用のなかでは一般的なものといえます。
一方で疾患や治療法によって副作用の程度は様々でもあります。

目次

1:原因

機序

あまり難しい機序についてはここでは触れませんので、副作用の簡単な機序だけ説明します。
放射線が体に照射されると、照射された部分の一部の細胞が死んでいきます。
これは腫瘍の細胞が死んでいくのと同じように、正常の組織も死んでいくわけです。
腫瘍の細胞は死んでいくと修復がきちんと起こりませんが、正常の組織はその後修復されていきます。
これが放射線治療が腫瘍に対して効果的であるひとつの要素になるわけですが、やはり正常の細胞も一部死んでいくので影響が出てきます。
また放射線が照射されると、正常組織から炎症物質も同時に放出されます。
これらが放射線治療の副作用になるわけです。

リスク因子

放射線皮膚炎にはいくつか症状を悪くする要因というものが知られています。

放射線治療に関連したものでは、起きやすい疾患、起きにくい疾患というものがあります。
簡単に言うと、皮膚(あるいは皮膚に近い場所)にたくさん放射線をあてると皮膚炎は起こりやすくなります。
具体的な疾患としては、頭頸部癌(中咽頭癌や下咽頭癌、喉頭癌など)や乳癌などが比較的起こりやすい疾患になります。
頭頸部癌も乳癌も治療したい部位が皮膚表面に近いためです。

あと治療法という点で見ると、通常の放射線治療は皮膚炎が起こりやすく、SRTやIMRTと言われるような高精度治療では起こりにくい傾向にあります。
これは高精度治療の多くは、多方向から放射線を照射するため、結果として皮膚にあたる放射線がさまざまな範囲に分散されるからです。
また電子線照射というものがありますが、これは皮膚に放射線をあてることに特化した治療です。このため、皮膚にあたる放射線が強く、皮膚炎も強くなります。

肥満は放射線皮膚炎を悪くする可能性があります。
この原因として、放射線を体の中に到達させるためには、厚みがあるとよりたくさんの放射線を必要とするためです。
結果として皮膚表面の放射線量が高くなります。

また、高齢者女性においても皮膚炎が悪くなりやすいという傾向があります。

喫煙飲酒も放射線皮膚炎を悪くします。このため、放射線治療を受けているあいだ、および終わってしばらくの間は、喫煙や飲酒はやめましょう。

化学療法と放射線治療を同時に行うことも副作用を強めます。
同時に治療を行うのは、より高い治療効果を期待してですが、いっぽうで副作用も単独治療に比べて高くなってしまいます。

膠原病の方は、そうでない人よりも皮膚炎が強くなる可能性があります。
特に、皮膚筋炎は強い放射線の副作用が出るため、基本的に放射線治療は受けられません。

また稀な疾患では、毛細血管拡張性運動失調症といわれる疾患も放射線への感受性が高く、皮膚炎のリスクとなります。

放射線治療中における注意点としては、摩擦や紫外線といったものが皮膚炎を悪くする要因となります。
このため、放射線治療を受けている範囲については、あまり締め付けの強い下着、肌着などは使用せず、ゆったりした服装がおすすめです。
また、外出時には治療部に直接日光があたらないように気をつけましょう。

まとめ

放射線皮膚炎は皮膚の細胞死や炎症物質の放出によって起こる
頭頸部癌や乳癌の放射線治療では皮膚炎が起こりやすい
高精度放射線治療は皮膚炎が起きにくい
肥満、高齢者、女性、喫煙、飲酒、化学療法の併用は皮膚炎のリスクとなる
基礎疾患に膠原病がある場合には注意が必要
治療中は摩擦や紫外線を避ける

2:症状

放射線皮膚炎は急性のものと晩発性のものに分けられます。
急性のものは治療中から治療後数週間程度にかけて見られます。
晩発性の皮膚炎は上記の期間以降に発症し、長期間持続するような症状になります。

急性期の放射線皮膚炎

急性放射線性皮膚炎は治療開始後10~14日ごろから見られます。

症状としては以下のようになります。
発赤
紅斑
皮膚の乾燥
かゆみ
乾性落屑(皮がむける)
湿性落屑(皮がむけて滲出液や血液が出る)
色素沈着 など

また、皮膚に炎症が起こるとともに、皮膚のバリアー機能や、バランスが崩れるため、感染に弱くなったり、アレルギー症状が出やすくなったり、紫外線の影響を受けやすくなったりします。

急性の皮膚炎は、その状態によって3段階に分けられます。

grade 0

上の図はなにも症状が起こっていない状態です(Grade 0)。

 

grade 1

1段階目は皮膚が赤くなるような状態(発赤)です(Grade 1)。
この段階では体に感じる症状はあまりないことが多いです。

 

grade 2

2段階目は皮膚の赤みが強くなり、一部の皮膚の表面がはがれた状態で(乾性落屑)、時に限局的な水ぶくれなどを伴います(Grade 2)。
まだ症状を感じないこともありますが、程度が強くなってくると、かゆみやヒリヒリ感、痛みの症状が出てきます。

 

grade 3

3段階目は広範囲が水ぶくれのような状態になって(湿性落屑)一部に出血を伴うようなものとなります(Grade 3)。
この段階では、2段階目より症状がさらに強くなってきます。痛みが強い場合には痛み止めを使用する場合もあります。

放射線治療をうけた人のうち、およそ90%の人が1段階目以上の皮膚炎を経験し、およそ30%の人が2段階目以上の皮膚炎を経験します。

症状の程度が強くなれば日常生活にも支障が出る可能性があります。

急性の皮膚炎は放射線治療が終われば徐々に落ち着いてきます。

晩発性の放射線皮膚炎

一般的に急性期の放射線副作用というのは、放射線治療が終わってから1ヶ月や、治療開始から3ヶ月のような期間で区切られることが多いです。
一方で、晩発性の副作用については治療後数年、場合によっては10年以上経過してから起こってくるものもあるので注意が必要です。

晩発性皮膚炎の症状は以下のとおりです。
皮膚の色素沈着(あるいは脱色)
皮膚の萎縮、角化
分泌物低下に伴う皮膚乾燥
毛細血管拡張
皮膚の繊維化 など

放射線治療を受けたあとの皮膚は一般的に、硬くなり、乾燥しやすくなります。

急性期の皮膚炎で皮膚が赤くなったあと、炎症が落ち着いてくると、皮膚は少し黒ずんだような色素沈着をきたします。
色素沈着は時間の経過とともに徐々に薄れていき、数ヶ月たつとほとんどわからなくなることが多いです。
ただし、電子線照射を受けた場合には皮膚の変化が強く出やすく、その後も皮膚の色の変化が定着してしまうことがあります。

まとめ

急性の皮膚炎は治療開始後10~14日程度で出現
おもな症状は、発赤、紅斑、乾燥、かゆみ、落屑(皮がむける)、色素沈着など

晩発性の皮膚炎は急性期以降から治療後数年の間に出現
おもな症状は、皮膚の色素沈着(あるいは脱色)、萎縮、角化、皮膚乾燥、毛細血管拡張、繊維化など

3:予防

急性の皮膚炎の予防

急性期の皮膚炎はある程度の放射線が照射されると、かなり高い確率で起こります。
皮膚炎の発症じたいを抑えることは難しいですが、症状を弱くしたり(強い症状が出ないようにする)、発症を遅らせたり、という意味での予防は可能です。

放射線皮膚炎の予防のポイントは以下のとおりです。

皮膚を清潔に保つ
洗浄時には微温水と刺激の少ない石鹸を使用する
保湿剤を使用する
香水やローションといった刺激のあるものは避ける
ゆったりした服装にする
ベビーパウダーは使用しない
紫外線を避ける

急性放射線治療の予防として重要なのは、日々のスキンケアになります。
刺激の少ないスキンケア剤(主に保湿を目的として)を放射線治療の開始時あるいは開始直前から使用することで、その後の皮膚炎を予防することができます。

初期の間は、放射線治療の副作用も出てこないためスキンケアの重要性を理解しにくいですが、最初からケアすることで最終的な症状が違ってくるため、こまめに皮膚のケアをしていくのが重要です。

皮膚を洗浄するときには弱酸性の低刺激な石鹸を使用します。

保湿の際には、刺激の少ない軟化剤等を1日に2回程度使用します。
実際に臨床で使用することが多い薬剤は、ヒルドイドやアズノール、ワセリンなどになりますが、市販薬でも代用できます。

保湿に関して、病院によっては治療直前に軟膏などを皮膚に塗るのを止められる場合があります。
これは皮膚に軟膏を塗布したまま治療を受けると皮膚炎が悪くなるからです。
ただし、実際にはかなり厚く軟膏を塗布している場合なので、通常の塗り方であればほとんど問題となることはありません。
もし、治療の際に止められるようであれば、指示にしたがって、照射直後に軟膏を塗りましょう。

スキンケア剤は様々な種類がありますが、あまりたくさんの成分が含まれていないほうが望ましいです。
多くの成分が配合されていると、そのいくつかが皮膚炎を悪くしてしまう可能性があるからです。
アルコールの含有されているスキンケア剤は避けましょう。
不安があるようであれば、放射線治療医に相談するか、処方された保湿剤を使うほうが良いと思います。

また放射線治療中、皮膚は刺激に弱い状態になっています。
こすれたりするような通常なんともない刺激でも皮膚炎は悪くなってしまいます。
そのため、治療を受けている間、そして治療が終わってしばらくの間は、このような刺激は避けることが望ましいです。
具体的には、締め付けのつよい服装は避けて、ゆったりした服装にしたり、治療を受けている部分が紫外線に直接あたらないようにしたりします。
治療範囲に触れる部分は綿製のものが望ましく、できれば化繊は避けましょう。
治療中には皮膚のかゆみも出てくる場合がありますが、ひっかいてしまうと皮膚炎が悪くなるため注意が必要です。
治療範囲に近い皮膚の髭剃りは避ける、もし使用するなら電気かみそりを使いましょう。
治療中や治療後しばらくは飲酒や温泉などは避けたほうがよいです。

晩発性の皮膚炎の予防

晩発性皮膚炎のリスク因子としては以下のようなものがあります。
高い線量での治療(一般的に50Gy以上の照射で晩発性皮膚炎のリスクが高くなります)
広い範囲に対しての照射
1日2回以上の照射や1回の線量の多い治療(通常は1日1回、1回2Gyの照射が一般的です)
IMRT以外の照射(IMRTは比較的皮膚の線量が低くなります)
ボーラスの使用(皮膚癌や乳癌の術後照射でしばしば使用されます)

その他のリスクとしては、抗がん剤と放射線治療の併用、皮膚疾患の既往、遺伝的要因、体質等が関与しているといわれます。

しかしながら、晩発性皮膚炎のリスクは、どのような治療を行ったかということと相関が強いため、個人が注意をして予防するのは難しいのも現状です。

まとめ

急性放射線皮膚炎の予防にはスキンケアが重要
皮膚を清潔にたもち、保湿をこころがける
皮膚への刺激はできるだけ避ける

晩発性皮膚炎のリスクは治療内容に影響される
患者本人が注意して予防するのは難しい

4:治療

急性の放射線皮膚炎に対する治療法を説明していきます。

炎症が起こった場合でも、治療の基本は皮膚の清潔と保湿になります。
皮膚表面が汚れていると感染の温床にもなるため、乾燥し過ぎない程度に洗浄等で清潔をこころがけます。
保湿については、臨床ではヒルドイド軟膏やワセリン軟膏等が使用されることが多いです。
ヒルドイドにはローションもありますが、炎症を起こしている皮膚にはローションよりも軟膏のほうが適しています。
保湿をする範囲は、症状が出ている部分だけではなく、放射線が照射されている範囲全体になります。
どのあたりに放射線があたっているのかを確認して、広めに塗布するようにしてください。

1段階目の炎症(発赤、紅斑)程度であれば、上記の保湿を継続して行います。

2段階目の炎症(発赤の増悪、乾性落屑)になると清潔・保湿に加えて、ステロイド軟膏(リンデロンなど)の使用を考慮します。
ステロイド軟膏については予防的に投与する場合もあるようですが、効果が十分に確認されているわけではないため、まだ一般的ではありません。

3段階目の炎症(広範な湿性落屑)になると、皮膚面がただれて、出血や滲出液が見られるようになります。
この場合には軟膏の塗布だけでは十分ではなく、また滲出液等により衣服も汚れてしまうため、被覆剤の使用が勧められます。
臨床的にはモイスキンパッドやメピレックスなどが用いられます。
また、アトピーで使われるようなリント布に軟膏を塗布して皮膚を保護する方法も用いられます。

被覆剤で重要なのは、接着力の強いものは避けることです。
これは放射線治療中では、被覆剤を貼っていても毎回の治療の際にははがす必要があるため、接着力の強いものを使用していると、はがす際に周囲の皮膚まで一緒にはがれてしまい、より炎症がひどくなってしまうためです。
これはその他の絆創膏やテープ固定でも同様で、照射野内の皮膚にこういったもので固定しないように気をつける必要があります。
テープで固定する際にはガーゼで覆った上でガーゼに固定するといった対応が必要です。

最後に放射線治療が終了したあとの対応についてです。
放射線治療が終わっても治療中の皮膚炎がすぐによくなるというわけではありません。
皮膚炎が改善していくまでには2~3週間程度かかるため、皮膚炎が落ち着くまでは、程度に応じて上記の対応を引き続き行っていく必要があります。
そして基本は皮膚の清潔と保湿になりますので、こちらもあわせて継続していきます。
その上で、締め付けるような服装や化繊は避け、治療部に紫外線が当たらないように注意します。

まとめ

治療の基本も清潔を保つことと、保湿
炎症の程度にあわせて治療を変更する(ステロイド→ステロイド+被覆剤)
放射線治療が終わってしばらくの間は皮膚炎の治療を継続する

5:放射線治療後に注意すること

放射線治療が終了すれば、皮膚の炎症も徐々に落ち着いてきます。
注意点として、治療が終わって1週間程度はまだ皮膚炎が悪くなる可能性があります。
放射線の照射と症状には少しズレがあります。
この悪くなる期間が過ぎるとあとは良くなるだけです。
時間の経過とともに症状が良くなってくるのを実感すると思います。

急性の炎症は、治療が終わってから2~3週間程度で良くなることが多いです。
これは皮膚が赤くなったり、皮がむけたりするような症状が改善することを意味します。
これらの症状が改善したあとでも、皮膚の乾燥や、かゆみ、色素沈着は残っていますが、これも時間経過とともに改善していきます。
症状によって良くなる時期が違うため、あせらずに様子を見ましょう。

急性炎症の改善後も皮膚の乾燥は持続します。
このため、しばらくの間は治療中と同様にスキンケアを継続してください。
どれぐらいの期間ケアが必要なのかは、治療による差や個人差もあるため、乾燥の程度を見ながら続けてください。
もしスキンケアをやめたあとに、かゆみが出るようであれば皮膚が乾燥している可能性があるので、ケアを再開してください。

放射線照射を受けた部位は刺激に対して弱くなっています。
また、その後に紫外線照射を強く受けると、将来的な皮膚癌のリスクになると言われています。
照射された部位は治療後も紫外線を避けるようにしましょう。

ごくまれに、皮膚炎が改善したあとに、同じ場所に再度皮膚炎が出現する場合があります。
これは化学療法などが誘引となることが多いですが、リコールと呼ばれる現象です。
時間の経過とともに改善することが多いですが、同様の皮膚炎が出現した場合には、放射線治療医や皮膚科医に相談しましょう。

上にも書きましたが、治療後の数ヶ月から数年のあいだに、晩発性の皮膚炎が起こることがあります。
晩発性の皮膚炎は治療で良くするのは難しいため、確立した治療法というのはあまりありませんが、現時点で効果がありそうなものを書いておきます。

毛細血管拡張は見た目にも影響し、精神的にもストレスを感じる症状のひとつです。
皮膚の治療法であるパルスダイレーザーが有効であるという報告があります。

皮膚の萎縮は治療の難しい症状であり、なかなか有効な治療がありません。そのため、精神的なケアや美容面でのケアが重要となります。

いくつかの研究では高圧酸素療法が、リンパ浮腫を含めて、皮膚萎縮の治療に有効であったと報告されています。
十分に立証されているわけではないため、実際に治療を受ける際には注意が必要です。

まとめ

皮膚炎が改善したあとも、しばらくの間はスキンケアを継続する
症状によって良くなる時期は異なる
治療を受けた場所は紫外線を避ける
ごくまれに皮膚炎改善後に、同じ場所に皮膚炎が起こることがある
晩発性の皮膚炎の治療は難しい

6:新しい治療

放射線皮膚炎に対する新しい治療法は、いくつかのものが研究段階で、治療効果が期待されています。

研究段階のものをいくつか挙げておきます。
TGF-β1阻害剤
セレンマンガン錯体
リコンビナントIL-12
Toll-like receptors (TLRs) agonist
サイクリン依存性キナーゼ阻害薬 などです。

これらはまだまだ効果を実証する段階のため、現時点で臨床的に使えるものではありませんが、数年後には実用化されているかもしれません。

また、高度な皮膚炎に対する皮膚幹細胞移植という治療法も研究段階ですが行われています。

7:参考文献

Seite S, Bensadoun RJ, Mazer JM. Prevention and treatment of acute and chronic radiodermatitis. Breast Cancer (Dove Med Press) 2017; 9:551-557

Chan RJ, Webster J, Chung B, Marquart L, Ahmed M, Garantziotis S. Prevention and treatment of acute radiation-induced skin reactions: a systematic review and meta-analysis of randomized controlled trials. BMC Cancer 2014; 14:53

Spalek M. Chronic radiation-induced dermatitis: challenges and solutions. Clin Cosmet Investig Dermatol 2016; 9:473-482

Berkey FJ. Managing the adverse effects of radiation therapy. Am Fam Physician 2010; 82:381-388, 394

UpToData○R Radiation dermatitis

がん・放射線療法2017 秀潤社

放射線治療計画ガイドライン2016年版 金原出版

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