前立腺癌の放射線治療における副作用 まとめ

2019年4月4日

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このページでは前立腺癌の放射線治療(おもにIMRT)における副作用について解説していきます。
副作用に関しては、おもに排尿障害を中心に書いていくつもりですが、その他の症状についてもあわせて記載しています。

放射線皮膚炎および放射線宿酔については別のページにまとめてありますので、それらも参考にしてください。

目次

1:原因

機序

放射線が体に照射されると、照射された部分の一部の細胞が死んでいきます。
これは腫瘍の細胞が死んでいくのと同じように、正常の組織も死んでいくわけです。
腫瘍の細胞は死んでいくと修復がきちんと起こりませんが、正常の組織はその後修復されていきます。
これが放射線治療が腫瘍に対して効果的であるひとつの要素になるわけですが、やはり正常の細胞も一部死んでいくので影響が出てきます。
また放射線が照射されると、正常組織から炎症物質も同時に放出されます。
これらが放射線治療の副作用になるわけです。

前立腺癌に対する放射線治療でも周囲の正常組織に放射線が照射されます。
影響があるおもな正常組織は以下のものになります。
尿道(前立腺の中を走行)
膀胱
直腸
直腸以外の大腸および小腸
肛門
骨(骨盤や股関節)
皮膚

これらの組織それぞれに放射線が照射されていくため、それに応じた副作用が出てくるということになります。

リスク因子

放射線治療の副作用における一般的なリスク因子としては慢性期のコントロール不良な糖尿病が挙げられます。
これは糖尿病が長期間持続していると血管がボロボロになってしまいますが、放射線照射によってそれがさらにひどくなってしまうからです。
結果として、正常組織の血流が減少し、組織障害が発生します。これが副作用を悪くする要因となります。

喫煙飲酒も放射線治療には良くありません。このため、放射線治療を受けているあいだ、および終わってしばらくの間は、喫煙や飲酒はやめましょう。
「放射線治療が終わったあと、いつまでやめていれば良いのか」という質問をよく受けます。
明確な基準というのはありませんが、私は副作用(おもに排尿障害)が落ち着くのをひとつの基準としてください、とお答えしています。
基本的にはその時期を過ぎてしまえば、副作用が再度悪くなることも少ないですし、影響も限定的と考えられるからです。
ただし、症状については引き続き注意していただき、再度症状が悪くなるようであれば、飲酒・喫煙をやめてください。

また、正常組織によって、放射線への耐性が異なります。
簡単には以下のようになります(治療の方法や状況によっては必ずしも成り立ちませんが)。
骨≒直腸<皮膚≒肛門<膀胱≒尿道

膀胱や尿道などは比較的高い放射線を照射しても耐えることのできる臓器になります。
一方で直腸や骨などは高い放射線が照射されると重篤な副作用が起こる確率が高い臓器です。

前立腺癌じたいもかなり高い線量が必要な疾患で、以前は直腸が放射線に弱いことから十分に治療できませんでした。
近年になり、IMRT(強度変調放射線治療)という治療法が可能になり、直腸を避けながら前立腺に高線量を投与することができるようになり、治すことができるようになったという経緯があります。

副作用のリスクという面からは、従来の放射線治療は、新しい治療であるIMRTに比べて、副作用が強く出る傾向があります。
これは避ける必要がある部分を避けきれていないからで、特に直腸、骨、皮膚といった部分の線量が高くなりがちです。
しかしながら、現在日本で前立腺癌の放射線治療を受ける場合は、ほとんどがIMRTになっていると思いますので、実際にはあまり気にする必要はないと思います。

排尿障害の副作用にしぼってみてみると、治療前から症状がある場合(頻尿や残尿感など)、前立腺肥大がある場合、前立腺の術後、などは副作用のリスクとなります。
また急性期の副作用が強かった人は、晩発性の副作用も強く出る傾向にあります。

抗凝固剤の服用は治療後の血尿や血便のリスクとなります。
治療の際にホルモン剤を併用する場合は治療後の性機能障害や骨折の頻度が高くなります。

まとめ

放射線治療の副作用は、照射に伴う細胞死や炎症物質の放出によって起こる
正常組織の障害がそれぞれの症状となって出現する
コントロール不良の糖尿病は副作用を強くする
喫煙や飲酒も副作用のリスクとなる
正常組織の種類によって放射線への耐性が異なる
治療前の有症状、前立腺肥大、前立腺術後もリスク
急性期の症状が強かった場合は、晩発性の副作用にも要注意

2:症状、頻度

放射線治療の副作用は、その影響をうける組織によって決まります。
影響を受ける組織と症状の関係は以下のようになります。

急性期の症状

尿道(前立腺の中を走行) →排尿障害(頻尿、排尿困難、残尿感、尿意切迫、尿漏れなど)
膀胱           →排尿障害(尿道の症状と同様)
直腸           →頻便、軟便、下痢など
大腸および小腸      →直腸の症状と同様
肛門           →肛門周囲の炎症、排便時痛など
骨(骨盤や股関節)    →骨髄抑制(白血球の低下、貧血など)
皮膚           →皮膚炎
その他          →放射線宿酔(倦怠感、眠気、気分不良など)

急性期の症状はおもに治療中から治療後1ヶ月程度の間の症状を言います。
その間には上記の症状が出現する可能性があります。

急性期の症状は通常、治療開始から1~2週間程度で出現することが多いです。
症状出現後は徐々に症状が強くなっていきます。
このため、治療終了時あるいは終了してから1週間程度が最も症状が強い時期になります。
このピークの時期を過ぎてしまうと、時間経過とともに症状は改善していきます。
急性期の症状については、出現時期や改善時期はそれぞれの症状によって異なるため、一律に出現して一律に良くなるというものではありません。
また個人差もあるため、同じ症状でも人によって経過が違うというのはよくあることです。

急性期の副作用の頻度

AE-GU

上の図は、急性期の排尿障害の頻度を示したものです。
分かりやすいので文献(Dearnaley DP et al. Br J Cancer 2005; 92:488-498)からお借りしました。
週数は治療開始日から始まっています。
ここでは1-6週間の間が治療中、8-18週間の間が治療後になります。
一般的なIMRTでは70-78Gyを照射するため、74Gyのほうを参照してください。
治療が進むにつれて副作用の頻度が上がっていくのが分かります。
ここで集計されている副作用はGrade 1-2という軽度のものになります。
軽度の副作用はおよそ80-90%程度の人が経験していることが分かります。
治療が終了するとこれらの症状も落ち着いてきますが、18週目(治療が終わっておよそ3ヶ月)でも2割程度の人では軽度の副作用が持続しています。

AE-GI

次の図は、急性期の腸管障害の頻度を表したものです。
こちらも軽度の副作用を対象にしており、治療が進むとともに頻度が増えています。
腸管障害の頻度はおよそ60-70%程度で、排尿障害に比べると若干頻度は低くなっています。
治療が終了すると症状も改善しますが、18週時点(治療が終わっておよそ3ヶ月)で2-3割程度の人で症状が残存しています。

晩発性の症状

尿道(前立腺の中を走行)      →尿道狭窄(尿閉)、失禁、血尿
膀胱                                          →血尿
直腸                                          →血便
大腸および小腸                       →腸管癒着、腸管狭窄
肛門                                         →便失禁、瘻孔形成
骨(骨盤や股関節)               →骨折
皮膚                                         →皮膚乾燥、皮膚萎縮、毛細血管拡張など
その他                                     →性機能障害、二次発癌など

治療終了後からおよそ1ヶ月以降に出現してくるものが晩発性の副作用になります。
急性期の副作用は治療終了とともに改善していくのが特徴でしたが、晩発性の副作用はいつ起こってもおかしくない副作用です。
数年後に症状が出てくるということもありえます。
出現時期は個人差もあり、症状によっても異なります。

急性期の副作用と比較すると、晩発性の副作用の頻度は少ないです。
一方で、晩発性の副作用の中にはその後の生活において、影響の大きいものも少なくありません。
また、急性期の副作用と違い、晩発性の副作用はいちど出ると改善することが少ないのも特徴です。
症状が強い場合には手術など侵襲性の高い治療が必要なこともあります。

晩発性の副作用の頻度

報告によって差はありますが、放射線治療後の晩発性の副作用の頻度は、腸管障害で10-50%程度、排尿障害で30-60%程度と報告されています。
これらは比較的症状の軽いものも含まれているため、軽い症状を除いた副作用の頻度はそれぞれ5-30%程度となります。

症状別で見ると、尿失禁は1%程度(術後などのリスクが無い場合)、尿道狭窄や血尿は8%程度と報告されています。
血尿血便は、ワーファリンやクロピドグレルといった、抗凝固剤を服用している場合に頻度が高くなります。

放射線治療後の骨折は約5%程度で発生するという報告があります。
特にホルモン治療の併用で頻度が高くなる傾向があります

放射線治療に伴う性機能障害(いわゆるインポテンツ)の頻度は、もともと性機能に問題がなかった人の30-40%に発生すると報告されています。
一方で、前立腺癌治療においてはホルモン剤も併用される場合があるため、これによる影響も含まれていると考えられます。

二次発癌も放射線治療の晩期の副作用のひとつです。
放射線治療によって膀胱癌や結腸癌の発生がごくわずかに上昇すると報告されています。
しかしながら、発癌に至るまでには数年から十数年が必要で、前立腺癌患者の平均年齢が比較的高いことから、実際に問題となることはほとんどありません。

まとめ

急性期の排尿障害(頻尿や残尿感など)はおよそ70-80%の人が経験する
急性期の排便障害(軟便や下痢など)はおよそ60-70%の人が経験する
治療後3ヶ月経過した時点でも急性期の副作用は20-30%の人で残存している

 

晩発性の副作用は急性期に比較すると頻度が少ない
強い晩発性の副作用は5-30%程度の人に見られる
ホルモン治療や抗凝固剤の併用で発生頻度が増える

3:予防

放射線治療の副作用の予防についても、それぞれの対応する臓器によって異なります。

放射線皮膚炎の予防については別のページにまとめていますので参考にしてください。

排尿障害の予防については、治療前の尿量コントロールが重要になります。
前立腺癌の放射線治療を受ける際には、治療前の一定時間は排尿しないように指導されると思います。
これは、排尿をせずに膀胱内に蓄尿することで膀胱を拡張させるためです。
前立腺癌の治療では前立腺に放射線があたりますが、すぐ上にある膀胱にも放射線があたります。
この際に膀胱が縮小していると大部分の膀胱にも高い放射線が照射されます。
一方で、十分に膀胱に尿がたまって拡張していると、高い放射線があたる部分から離れていくため、膀胱の線量が抑えられて、結果として副作用を軽減できます。
注意点としては、治療が進んでいくと副作用として排尿障害が出てくるため、長時間の蓄尿が難しくなってくる場合があります。
蓄尿量は多いほうが良いですが、日々の量がバラバラでも良くないため、最初の蓄尿量があまり多すぎないほうが一定に保ちやすいと思います。

排便障害の予防も便のコントロールが必要になります。
こちらは逆に便やガスがたまっていないほうが治療には好都合です。
直腸に便やガスがたまっていると、直腸がふくらんで、前方にある前立腺を圧迫・密着するようになります。
そうすると直腸に高い放射線があたってしまい、副作用が強くなります。
治療を受ける前に便やガスが出そうであれば、出してから治療を受けましょう。
この際に、尿も一緒に出してしまわないように注意が必要です。

まとめ

放射線照射前の排尿・排便コントロールが副作用軽減には重要

4:治療

放射線の副作用の治療はそれぞれの症状にあわせたものになります。

皮膚炎については別のページにまとめてありますのでそちらを参照してください。

軽度の(Grade 2)までの副作用については、特別な治療をおこなわずに経過を見る場合もあります。
特に急性期の副作用であれば、治療終了後に改善していくことが多いため、投薬などを行わずに経過観察することもあります。
症状が強く、日常生活への影響が大きい場合には副作用の治療を行います。

頻尿や尿意切迫が強い場合には抗コリン作用のある薬剤(具体的にはブラダロンやポラキスなど)が用いられます。
海外からの報告ですが、アントシアニンを含むクランベリーのカプセルが排尿症状の軽減に有用であったという報告もあります。

特殊な治療法として高圧酸素療法(HBO)というものがあります。
高圧酸素療法は、放射線照射によって障害された末梢血管の再生を促す効果があるとされており、難治性の放射線副作用にしばしば利用されます。
前立腺癌の放射線治療では、難治性の膀胱炎や直腸炎が対象となります。
いっぽうで高圧酸素装置を備えた施設は限られるため、どこでも受けられるという治療法ではありません。

晩期の副作用である血尿は一過性であることが多く、しばしば経過観察のみで改善します。
放射線性の膀胱炎・尿道炎以外での出血の可能性もあるため、膀胱鏡などで他の疾患の有無を確認します。
持続するコントロール不良の血尿がある場合には手術も考慮されます。
その他、稀ですが高度な膀胱萎縮や瘻孔形成も手術治療の対象となります。

性機能障害にたいしてはsildenafil(バイアグラ)やvardenafil(レビトラ)といった薬剤が処方されます。

まとめ

放射線治療の副作用に対する治療はそれぞれの症状にあわせて対応する
軽度のものについては経過観察する場合も多い
難治性の副作用については高圧酸素療法や手術も考慮される

5:放射線治療後の注意点

放射線治療後の注意点について説明していきます。

治療後早期はまだ急性期の副作用が残った状態です。
症状の項目でも説明しましたが、治療後3ヶ月経過しても、2-3割程度の人には症状が残存しています。
その後の経過でさらに症状は改善していきますが、人によってはある程度長く続く可能性があるという認識が必要です。

また、晩期の副作用は治療後ある程度時間が経過してから発生します。
発生時期は平均で治療後3年前後という報告があります。
発生頻度はそれほど高くありませんが、治療後長期間が経過しても症状が起こってくるということを覚えておいてください。
治療後5年程度は外来が続いていると思いますので、副作用かもしれない症状が出現した際には相談するようにしてください。

治療後の効果判定には採血検査であるPSAの数値が用いられます。
治療前にPSAが高かった場合には治療後徐々にPSAが下がっていきます。
ホルモン治療を併用している場合にはもともとかなり低い値になります。
治療後すぐに下がる場合もあれば、ゆっくりと下がっていくこともあるため、治療後すぐの検査であまり下がっていなくてもその後の経過で下がっていけば問題ありません。

経過観察中にもPSAを適宜採血していきます。
この際に注意することは、放射線治療後の経過で、一過性にPSAが上昇することがあることです。
一見すると再発と紛らわしいので注意が必要です。
再発と区別するため、最も低くなった値から2 ng/mLの上昇を再発と定義しています(フェニックスの定義)。
(根治手術を受けた場合の基準は0.2 ng/mL)
経過中のPSAについても多少の波があるため、小さな上昇であれば、あまり心配する必要はないと思います。

まとめ

治療後数ヶ月は副作用が残存する
治療後数年たってから副作用が出てくることがある
経過中のPSAは波があり変動する
PSAの上昇は最低値から2 ng/mLの上昇で再発と診断する

6:参考文献

Dearnaley DP, Hall E, Lawrence D, et al. Phase III pilot study of dose escalation using conformal radiotherapy in prostate cancer: PSA control and side effects. Br J Cancer 2005; 92:488-498

Liberman D, Mehus B, Elliott SP. Urinary adverse effects of pelvic radiotherapy. Transl Androl Urol 2014; 3:186-195

Hofer MD, Gonzalez CM. Management of radiation-induced urethral strictures. Transl Androl Urol 2015; 4:66-71

Medscape Radiation cystitis treatment & management

UpToData External beam radiation therapy for localized prostate cancer

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