APBIは乳癌術後の放射線治療において標準治療になりえるか
目次
1:乳癌術後のAPBIとは
2:APBIと全乳房照射の成績比較
3:APBIの今後について
4:参考文献
乳癌術後のAPBIとは
乳癌の治療においては、乳房温存術後の放射線治療は標準治療のひとつとなっています。
乳癌術後の放射線治療では、残存乳房全体を照射する全乳房照射を行うのが一般的です。
いっぽうで、最近では病変が存在していた局所に対してのみ照射を行う方法も検討されています。
さらに、加速照射と言って、通常は1日に1回のみの照射を2回に増やしたり、あるいは1回に照射する線量を増やすことによって、短期間に治療を終了するという方法も行われています。
この局所照射と、加速照射を組み合わせたものが、APBI(Accelerated Partial Breast Radiation)です。
日本ではまだまだ一般的ではありませんが、海外ではその有効性についての検討が行われており、その成績をいくつか紹介します。
APBIと全乳房照射の成績比較
Lancetに掲載されたRAPID trialの結果についての検討では、APBIと従来の全乳房照射を比較して、APBIが従来の治療法に成績として劣っていないかを評価しています。
この研究では乳房内再発のリスクは従来法を基準として、APBIでは1.27倍ということで、大きな違いはありませんでしたが、統計的な誤差を考慮するための90%信頼区間で評価すると1.91倍となり、劣っていないという結果は示せませんでした。
つまり、従来法の成績のほうがAPBIよりも良かったという結果でした。
これは無再発生存期間、全生存期間についても同様に1.2倍程度のリスクでした。
また、晩期の皮膚の整容面での副作用はAPBI群のほうが悪かったという結果でした。
この結果から、著者らは1日2回照射については標準治療として積極的には勧めないと結論付けています。
Lancetに掲載された、別の研究(NSABP B-39/RTOG 0413)についても紹介します。
こちらもAPBIと全乳房照射の有効性を比較したものです。
結果としては、上に挙げたものを大きな違いは無く、全乳房照射を基準にして、乳房内再発のリスクはAPBI群で1.22倍でした。
こちらの研究では、この結果をもって非劣性としていますが、これは上に挙げた研究のほうが統計的な誤差を厳しく取っていることによる違いと考えられます。
また、低リスク群において、APBIは全乳房照射と比較して、治療成績に差が出にくかったという結果でした。
つまり、リスクが低い症例においてはAPBIと全乳房照射で治療成績に差が出ませんが、リスクが高くなるほど、APBIの成績が落ちる可能性があるということです。
APBIの今後について
現時点ではAPBIは低リスク症例においては全乳房照射と同程度の治療成績が期待できると考えます。
ただし、1日2回照射を行う場合には、通常の照射と比較して晩期の皮膚有害事象が悪くなる傾向があるため、注意が必要です。
低リスク以外の症例については、最適な線量や治療期間についてはまだまだ検討の余地がある状態であり、積極的に勧められる段階では無いと考えます。
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