乳房温存術後の陽子線治療は臨床的に受け入れられるのか?
まとめ
解説
通常の放射線治療というとX線を用いた治療であるが、最近では陽子線や重粒子線といった粒子線で治療ができる施設も増えてきている。
粒子線治療は通常のX線治療では十分に効果が出ない腫瘍に適応がある。
また、粒子線治療ではターゲット周囲の正常組織にあたる線量を少なくすることができることから、深部の腫瘍の治療に向いている。
今回の話題は粒子線治療のひとつである陽子線治療を、乳房温存術後に用いることについて検討したものである。
乳房温存術後にX線ではなく、陽子線を用いて治療をするメリットとしては深部線量を下げられるという点があるであろう。特に心臓や肺への線量である。
昔から乳房温存術後の放射線治療における長期の副作用として心疾患リスクは議論されてきたところであり、いかに心臓への線量をさげるかという技術もさまざま検討されている。
陽子線治療はその特性を生かして、X線治療に比較してより心臓線量を下げることができるというメリットがあるが、いっぽうでデメリットもある。
陽子線治療の大きなデメリットは費用であろう。現時点では乳房温存術後の陽子線治療に保険適応は無いため、個人負担が問題となるが、仮に保険適応となれば国の医療財政にも影響が出てくる。
今回、取り上げた論文では、仮に陽子線治療が高額であったとしても、将来的な心疾患リスクが低減することで、このデメリットは相殺されるとしている。
しかしながら、注意しておきたいのは、まずこのデータは主に欧米人を対象としたデータとなっていることである。
もともと日本人よりも肥満率が高く、また心疾患リスクじたいが高いと考えられる背景を持っていることになる。
そして、肥満率が高いということは放射線治療においてもよりたくさんの放射線を照射する必要があるということで、日本人と比較するとベースの心臓への線量がそもそも違うと考えられる。
また、心臓線量が問題となるのは通常左側の乳癌であり、右側の乳癌であれば特に心臓線量を気にする必要はないのである。
さらに言えば、実際に医療費が抑制されるのかどうかの検証はこれからの話であり、現時点では推測の域を出ない議論でもある。
以上の点から、今後陽子線治療が乳房温存術後の照射に導入されていく可能性は十分にあるが、少なくとも現時点では(特に日本人に対して)積極的に支持する状況にはないと考える。
ディスカッション
コメント一覧
まだ、コメントがありません