転移があっても原発腫瘍に対して放射線治療を行う時代に

2019年12月28日

最近、転移があるような、いわゆる末期の状態に対する放射線治療が変わってきているように感じています。
以前であれば、転移が存在すれば、IV期となって基本的には化学療法(抗がん剤治療)をするか、対症療法のみを行うか、というのが普通でした。
しかしながら、以前に記事にしたことのある「オリゴメタスタシス」のような新しい概念が提唱されるようになり、転移があっても長期生存が期待できるようになってきました。

オリゴメタスタシスに関する記事は以下をご覧下さい。


今回紹介するのは前立腺癌における話題です。

2019 May 1;104(1):33-35. doi: 10.1016/j.ijrobp.2018.12.040.

STAMPEDE: Is Radiation Therapy to the Primary a New Standard of Care in Men with Metastatic Prostate Cancer?

前臨床研究によって、原発腫瘍に放射線を照射することで、その後の転移が抑制されることが報告されています。
そして、いくつかの後ろ向き解析で、転移がある症例であっても、前立腺に放射線を照射することで生存率が改善することが示されています。
しかしながら、これらの研究ではバイアスの影響が否定できず、信頼性が充分ではないという結果でした。
そのため、ランダム研究によって、転移を有する症例における、前立腺への照射の有効性の有無が検討されました。

ひとつの研究はHORRAD trialで、結論からいうと、こちらの研究では放射線を前立腺に照射しても生存期間に明らかな延長は認めませんでした。

もうひとつはSTAMPEDE trialといわれる有名な研究で、転移を有する症例に対する放射線照射という群が新たに導入され、検討されました。
STAMPEDE研究でもHORRAD研究と同様に、生存率には明らかな改善は認めませんでしたが、再発率に関しては、放射線照射群で明らかに優れた結果となりました。
特に、STAMPEDE研究における追加の解析では、転移病巣の体積が小さい群において、より放射線治療の効果が高いという結果が報告されました。
全患者を対象とした解析では生存率に明らかな改善はありませんでしたが、転移病巣が小さければ、生存率じたいにも明らかな改善が見られました。
これは、転移病巣が大きければそちらが、生存に大きく影響するのに対して、転移病巣が小さければ原発病変が生存に影響するためだと考えられます。

今後は、転移の有無のみで治療方針が決まるのではなく、転移病変の状態によって、より治癒を期待した治療法が選択できる可能性が出てくると考えられます。
また、この生存率や再発率の改善効果は放射線治療において見られており、手術によって見られるのかどうかは不明です。

手術と比較して、放射線治療が優れている点のひとつに、治療に伴って患者本人の免疫を活性化できる、いわゆる「アブスコパル効果」というものがあります。
これは放射線治療によって破壊された腫瘍組織を免疫組織が捕食して免疫が活性化されるために起こると言われています。
今回の結果も、もしかするとこのアブスコパル効果が生存率や再発率の改善に影響しているのかもしれません。

アブスコパル効果については、少し専門的ですが以下に記事があります。


以上のように、転移があっても積極的に治癒を目指した治療を行うような時代になってきました。
こういった変化が起きてきている背景には、やはり放射線治療技術の進歩があると感じます。
特に、IMRTや定位放射線治療(SBRT)あるいは粒子線治療により、腫瘍に充分な放射線を照射し、周囲の正常臓器の線量を低減できるようになったのが大きいと思います。
高精度放射線治療の更なる恩恵としては、副作用を低減できるため、腫瘍に1回にたくさんの線量を投与できるようになったことです。
これにより、治療期間の短縮が可能になります。
具体的には1ヶ月以上かかる治療を1~2週間程度で終了することができます。
治療期間を短くすることができれば、次の治療への移行も早くすることができ、本来の治療を妨害せずに放射線治療を行うことが可能となりました。

治療技術の進歩にともなって、治療選択も確実に変わってきていると感じます。
今後は、転移のある方に対しても積極的に放射線治療を行っていくような時代になるのかもしれません。
そして、放射線治療施設じたいも、これまでどおりの照射法のみでは充分ではなく、高精度治療を行えるのが標準という時代にきているのかもしれません。

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