早期乳癌に対する乳房切除術は、乳房温存術に比べて成績が劣る可能性がある

2019年8月22日

これまでに多くの研究で、乳房温存術(+放射線治療)の、乳房切除術に対する非劣性(治療成績として劣っていないこと)は示されてきました。

しかしながら、より最近の研究では、温存術のほうが乳房切除術に比べて、より優れている可能性があることが示唆されています。
※ここでの治療成績とは局所制御ではなく、治療後の生存率をさしています。
これはひとつの研究だけでなく、複数の、そして医学的に権威のある雑誌の数々に報告された論文で示唆されているもので、以下に示しておきます。

Lagendijk M, et al. Int J Cancer2018;142:165-175.

Agarwal S, et al. JAMA Surg2014;149:267-274.

Chen K, et al. Oncotarget2015;6:40127-40140.

Hwang ES, et al. Cancer2013;119:1402-1411.

Fisher S, et al. Ann Oncol2015;26:1161-1169.

Hartmann-Johnsen OJ, et al. Ann Surg Oncol2015;22:3836-3845.

van Marren MC, et al. Lancet Oncol2016;17:1158-1170.

乳房切除術と乳房温存術

なぜこのようなことが起きるのでしょうか。
乳房切除術は乳房全体を切除するため、一般的には腫瘍の根治性がより高いと考えられます。
いっぽうで、温存術は腫瘍とその周囲の組織を切除しますが、乳房の大部分は温存されます。
そして温存術では手術のあとの放射線治療が必須となっています。
温存術で放射線治療が必須なのは、残存乳腺組織のなかに、微小な腫瘍細胞が残っている可能性があるからです。
実際に以前の研究で、放射線治療をした群のほうが、しなかった群よりも治療成績が良かったことが示されています。

以上のような状況を考えると、温存術が切除術に比べて同程度の治療成績となることはあっても、優れた結果になるというのはあまり考えにくいです。
しかしながら、繰り返しますが、最近の研究では、温存術のほうが優れているかもしれないという結果なのです。

温存術+放射線治療の成績が優れる理由

この状況を説明するひとつの可能性としては、局所制御がかならずしも生存率の向上に結びつかない、というものです。
これは日常臨床でも経験されることですが、比較的良好な局所制御(つまり治療した領域における治癒)が得られているにも関わらず、それが長期生存につながらないことがあります。
原因は様々ですが、ひとつには、より高い局所制御を得るためには、より強い治療が必要となり、結果として治療による副作用の面が大きくなり、逆に生存率を低下させてしまうというものです。
あるいは、癌じたいが全身の病気と考えるべきであり、局所だけをおさえていても、結局ほかの場所に転移などが出てきてしまえば、生存率が悪くなってしまいます
以上のように、局所制御の改善が必ずしも生存率の改善に結びつかない場合は考えられます。

その他の可能性として、手術と放射線のそれぞれの治療範囲の違いが挙げられます。
じつは、放射線治療で照射される領域は、手術で切除されるよりもより広い範囲を含んでいます
特に影響が大きいと考えられるのは、腋窩のリンパ節領域です。
腋窩のリンパ節は乳癌においてもっとも転移が起こりやすい場所と考えられています。
このため、放射線治療の際には、リンパ節に転移が無い場合でも、腋窩のリンパ節領域はできるだけ含めるようにして照射を行っています。
放射線治療における手術よりも広い照射領域というのが、局所制御だけで無く、生存率の改善に潜在的に寄与している可能性があります。

特殊な状況になりますが、リンパ節の検査で偽陰性(転移があるけれども検査は陰性)となる場合があります。
温存術ではその後の放射線治療によって、腋窩のリンパ節領域にも照射されますが、手術の場合には陰性となると追加の治療は行いません。
少ない可能性ですが、こういった状況も生存率の差に影響している可能性があります。

また、近年の画像検査の発達や、遺伝子異常の検出によって、患者それぞれでのリスクをより詳細に評価できるようになってきたのも大きな要因と考えられます。
特に、乳房温存術においては、腫瘍切除時の安全な切除マージンの設定にこれらの情報が大いに寄与しています。
放射線治療の進歩も治療成績の向上の一因であると考えます。
以前の放射線治療は、レントゲン画像を元に作られていましたが、最近ではほとんどの場合、CT(特殊な場合はMRI)を元に作られています。
また、放射線の計算じたいも改善していることから、目的の領域により効果的に放射線を照射することが可能になっています。

いっぽうで、新しい手術の術式の応用が、治療成績の低下につながる可能性があることも示唆されています。
乳房切除の際に問題となるのは、その後の見た目(整容面)になります。
整容面の向上のために、乳房切除の際に皮膚や乳頭を切除せずに、残したままにする場合があります。
この場合、組織が残ることによって、その部分に乳癌が再発する可能性が出てくるわけです。
どのような患者において安全に皮膚や乳頭を残せるのかは充分に検討する必要があります。

乳癌治療の今後は

近年の化学療法や遺伝子解析の進歩には眼を見張るものがあります。
放射線治療や手術はがん治療における重要なツールですが、いっぽうで副作用も考慮する必要があります。
温存術と放射線治療の組み合わせは、切除術と比べると一見低侵襲にも見えますが、上で書いたように治療範囲じたいは広いため、必ずしも低侵襲とも言えません。
もし安全に省略可能であるのならば、省略するという選択肢も考慮されるべきです。
今後、個別化治療の進歩により、患者それぞれのリスク評価がより正確に行われるようになれば、今まで必要と考えられていた治療も省略することが可能になるかもしれません。
少なくとも現時点においては、乳癌術後の放射線治療は生存率の向上に寄与する重要な治療と言えます。

 

参考文献

2019 Jan 1;103(1):78-80. doi: 10.1016/j.ijrobp.2018.07.2021. Epub 2018 Dec 12.

Mastectomy May Be an Inferior Oncologic Approach Compared to Breast Preservation.

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