放射線科の画像診断所見を他科の医師は確認していない問題

2017年11月1日

今回は時事的なネタを。

「膵臓がんの疑い」5か月放置、男性患者が死亡

自分は現在は放射線治療に専従しているが、以前は放射線診断業務もしていたため、放射線診断科の観点からこの件に関して触れたいと思う。

 

今回の件は、横浜市の市民総合医療センターにおいて、心臓血管外科の医師が血管病変の検索目的でオーダーしたCT画像で、放射線診断医が膵癌の疑いを指摘していたが、心臓血管外科医が所見を確認せずに、放置していた問題である。

 

放射線科医師から言わせていただくなら、こういったケースは必ずしも稀とは言えないであろう。

実際に読影業務をしていても、「所見を全然見ていないな」と感じることは決して少なくはない。

もちろん、オーダーした医師が自分自身で確認していれば大きな問題はないのであろうが、一般的に外来をこなす医師は忙しく、放射線科医のように画像を見ることだけに十分な時間をとることは困難である。

そういった十分に画像を見れない状況を肩代わりするのが放射線科の役割である。

特に専門科に分化していけば、そこの領域にはものすごく強いけれども、他の領域に関しては自信がないということもよくある。放射線科医師は、専門の医師があまり見慣れていないであろう領域に関しても読影して所見をつけているわけである。

であるから、せめて自分がオーダーした画像検査の所見ぐらいは確認してもらいたいというのが放射線科の思いである。

(あくまで個人的な意見であるが、外科の先生のほうが、放射線科の所見を確認しない傾向があるのではないかと感じている。特に外科の医師は、自分の領域においては絶対的な自信があるため、そこに関してはあまり放射線科の所見を重要視しない傾向にあり、それが結果的に他の領域においても画像所見の軽視につながっているのではないかと感じている。もちろん、しっかりと所見を見てくれている医師のほうがおおいのだけれども。)

 

放射線科のサイドにも問題がないとは言えない。

ひとつは他科との信頼関係の構築が十分であったのかどうかということである。

端的に言ってしまえば、放射線科の所見が信頼されていない場合である。

結局、自分で画像をみるのとレベルが変わらないのだから、放射線科の所見を確認するのも無駄である、と思われていないかということである。

このあたりは地道な信頼関係の積み重ねが重要であり、これが破綻していれば、せっかく病気をみつけたとしても臨床にまったく生かされないという悲しい状況が生まれうる。

また、放射線科が重要な所見があると感じたのであれば、主治医が確認したかどうかチェックすればよいのではないかという意見もあるかもしれない。

ただ、放射線科も多忙である。特に最近では機器の進歩により、同じ部位での撮影でも、より細かい画像が取得できるようになった反面、業務の量はうなぎのぼりになっている。また、1日に何件もある重様所見をすべてチェックしていくのは現実的ではないであろう。

 

患者サイドでこのような事態を回避することが可能かというと、実際には難しいのではないだろうか。

上に書いたように所見を確認しない医師は、どちらかというとプライドが高い可能性が高く、そういった医師に患者側から意見するのは難しいであろう。

もし可能なら、「画像の所見をもらえますか」と提案することだろうか。そうすれば自分自身で、放射線科医師の所見を確認することができる。

ただし、施設によっては、画像所見は医師に対する情報のため、患者に渡すのを原則禁止している場合もあるため、どこでも可能というわけではないが。

 

放射線科医師にできることは、他科との連絡を密にするとともに、日々の所見のレベルアップにより、良好な信頼関係を構築することが今回のような事態を未然に防ぐことになるであろう。

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