放射線治療は転移治療の標準となりえるか?

目次

1:転移の治療は?
2:多数個転移の治療は?
3:多数個転移の治療における問題点
4:参考文献

転移の治療は?

がん治療において、転移がある状態というのは、たいていステージ4という最も進行した状態に分類されます。

この場合、一般的には治癒を目指すことは難しく、緩和治療を行うか、効果があるかは分からないけれども化学療法を行うかという選択になることが多いと思います。

しかしながら、転移がある状態での化学療法というのは、やはりあまり効果を望めるものではなく、実は転移の治療において効果が期待できるのは手術療法になります。

そして、これは最近の放射線治療におけるオリゴ転移の治療にもつながる話です。

つまり、少数転移(オリゴ転移)であれば手術や放射線治療といった根治的な治療を行うことで、長期生存が期待できるという考え方です。

多数個の転移の治療は?

少数転移の治療については、オリゴ転移という考え方が出てきて、放射線治療における定位照射で治療をすることが一般的になってきました。

では、多数個転移についてはどうでしょうか。

これは以前の記事で書きましたが、将来的に多数個の転移についても放射線治療を適応する未来は十分にあると考えます。

特に放射線治療は複数の臓器に転移が存在する場合に、手術よりも優位です。

手術であればそれぞれの臓器に対して治療をする必要がありますが、放射線治療であれば1回の治療で複数の臓器を照射することが可能です。

また、複数臓器を照射する場合でも、できるだけ性状臓器への影響を少なくすることができます。

そういった意味で、多数個転移の治療において、放射線治療には治療効果を改善することができる十分な可能性があると考えています。

実際にはいくつかの臨床研究の結果を待つ必要はありますが、将来的に多数個転移についても放射線治療を行う未来は充分にあり得ると思います。

多数個転移の治療における問題点

ただ、どのような状態においても放射線治療を勧められるというわけではありません。

実際に適応されるようになるためには議論が必要な問題も存在します。

そのひとつはアブスコパル効果の話です。

以前の記事でも少し触れたことがありますが、放射線治療においてはアブスコパル効果と呼ばれる反応が見られることがあります。

これは照射を行うことで、照射されていない病変についても縮小がみられる反応のことで、照射に伴う腫瘍崩壊が免疫系を亢進することで、照射野以外の病変についても免疫系の細胞が攻撃するというものです。

ただ、これはすべての癌治療で見られるわけではありません。

これまでの研究ではメラノーマや腎細胞癌、リンパ腫でよくみられることが分かっており、一般的な肺癌や乳癌といった癌ではあまり見られないことが分かっています。

転移に対する放射線治療では、このアブスコパル効果を誘発することができればより治療効果を高めることができますが、通常みられることが少ない癌腫において、どのようにその確率を高めることができるのかは今後の課題です。

また、転移の治療の目的には、その後の化学療法をどこまで遅らせることができるかという役割もあります。

化学療法も継続して行っているとだんだんと身体が弱ってきますし、臓器障害も蓄積されます。

また、薬剤じたいにも耐性をもってくるため、効きにくくなってくるという側面もあります。

そのため、薬物治療を遅らせることには重要な意味があります。

多数個転移の治療において放射線治療を行うことで、薬物治療の休止期間を設けることができれば、結果的に治療効果の改善につながると考えられます。

転移に対する定位照射は治療効果の高い治療法ですが、それが実際に生存期間の改善に結び付くのかどうかについても今後、データで示していく必要があります。

転移が制御できても治療期間が延長するなどの効果が見られなければ、治療が無駄になってしまうからです。

まだまだエビデンスの蓄積が必要な領域ではありますが、放射線治療に期待する部分は大きいと考えます。

 

参考文献

Curing Metastatic Disease with Radiation Therapy: Myth or Reality?-Arguing for Reality

Curing Metastatic Disease With Ablative Radiation Therapy: Separating Truth From Wish

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