食道癌治療における最新のエビデンス
目次
1:術前化学放射線療法の有効性
2:投与線量の増加による効果は
3:まとめ
4:参考文献
術前化学放射線療法の有効性
がん治療は日々進化していきますが、食道癌の領域においても例外ではなく、様々な研究をもとに、新たな知見が日々蓄積されていっています。
今回は、食道癌の領域における最新のエビデンスについて紹介していこうと思います。
まず最初はNAC治療の有効性についてです。
NACとはネオアジュバントケモセラピーと呼ばれるもので、具体的には手術治療に先行して、化学療法あるいは化学放射線療法を行うものです。
CROSS試験と呼ばれる大規模試験によって食道癌に対する術前の化学放射線療法(NAC)の有用性が検討されました。
結果として、NACを行うことにより、10年の生存率が25%から38%へと有意に改善しました。
局所制御率にも有意な改善が見られ、遠隔転移についてはNAC群と非NAC群で有意な差はありませんでした。
術前の化学放射線療法の有効性を示唆する重要な結果であると考えます。
いっぽうで、上部あるいは中部食道の症例が少ないことや、T4症例が除外されている点には注意が必要です。
また、食道癌の組織型として、扁平上皮癌と腺癌が存在しますが、この研究では、組織型の違いによる影響については充分に評価できていない点も注意すべきです。
また、術前の化学放射線療法を行う場合に具体的にどのような化学療法を選択するべきなのかについては議論の余地があります。
放射線治療に関してはCROSS試験では3次元照射が用いられていましたが、現在では食道癌に対してもIMRTや陽子線治療と呼ばれる高精度照射を用いるのが一般的であり、より副作用の低減が期待でき、それによる生存率の向上も可能であると考えます。
投与線量の増加による効果は
いっぽうで、放射線治療における線量増加については、あまり局所制御や生存率に寄与しないというのが最近の見解となってきています。
ARTDECO試験とよばれる研究では、標準線量群と高線量群に分けて治療成績を評価しています。
結果として、局所制御、生存率ともに、標準線量群、高線量群で有意な差は見られませんでした。
また、これは組織型である扁平上皮癌、腺癌に分けた場合でも、線量増加による優位性は認められませんでした。
治療に伴う副作用についても両群で有意な差はありませんでした。
以上の結果から、現在は食道癌治療において、線量増加の有用性はあまり無いというのが一般的な見解となっています。
最近では、治療に伴う副作用についても焦点が当たるようになってきており、副作用低減が、その後の予後やQOL改善に少なからず影響することが分かってきています。
そのため、領域によっては、逆に放射線の線量をできるだけ少なくしようという傾向も出てきています。
食道癌においても投与線量は現在の標準線量で十分と考えられ、むやみに線量を増やすべきではないと思います。
まとめ
今回は食道癌治療における最新のエビデンスについて紹介しました。
術前の化学放射線療法(NAC)は10年の長期フォローで、有意に治療成績を改善しました。
また、放射線治療における線量増加は局所制御や生存率の改善にはあまり有効ではありませんでした。
参考文献
CROSSing into New Therapies for Esophageal Cancer
- PMID: 35427559
- DOI: 10.1016/j.ijrobp.2021.12.177
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