食道癌の術前化学放射線療法では40Gy程度までの線量が望ましい

まとめ

食道癌の術前化学放射線療法において、50Gyの高線量投与よりも40Gy程度の低線量投与群のほうがその後の生存率で優れていた。

 

 解説

食道癌は早期であれば内視鏡でも治療が可能な疾患であるが、ある程度進行すると周囲のリンパ節などに転移しやすくなり、内視鏡のみでは治癒が望めなくなる。

その場合には一般的には手術が選択されることが多いが、より進行した状態では手術切除も難しい場合がある。

その際に選択されるのが、術前の化学放射線療法である。

手術の前に化学放射線療法を行うことで腫瘍の縮小を図り、その後の手術で残存腫瘍を切除するという方法である。

この方法によって手術のみでは治癒が見込めないような症例でも治療することができる。

この治療法の問題点は、放射線治療後の手術は難易度が高いということである。

放射線は腫瘍に対して照射されるが、周囲の正常組織も同様に照射される。

そして、放射線が照射された組織というのは癒着しやすくなるのである。また、照射された組織は傷の治りも悪くなるため、手術において腫瘍を組織から引き離すことが難しく、組織をつないだあとにもうまくくっつかないということが起こり得るのである。

今回の論文では、50Gyまで照射した群と、それ以下の群(48.85Gy以下)で治療成績を比較したものである。

結果として少ない線量で治療した群のほうがその後の生存率が良かった。

単純に考えるとたくさん照射したほうが治療成績が良くなるように思われるが、結果はそうではなかったということである。

これは上記のように、放射線治療に伴うデメリットが影響している可能性があると考えられる。

高線量を照射することで、組織の癒着や解離が起こりやすくなり、結果として治療成績が悪くなったという可能性である。

この論文では40Gy程度が至適線量ではないかと考察している。

注意点として、この論文が参照しているデータには日本からの論文が含まれてはいないことが挙げられる。

食道癌については欧米とアジアでは組織型が異なることが知られており、欧米では腺癌が多く、日本などでは扁平上皮癌が多い。

組織型が異なることで、治療抵抗性も変わり、扁平上皮癌のほうが基本的には治りやすく、腺癌は治療抵抗性である。

また、手術に関しては日本の外科医の技術が優れていることはよく知られている部分であり、これらの要素を踏まえて上記の論文の結果を解釈する必要がある。

私が以前働いていた病院では食道癌の術前には50Gy程度照射しており、手術の合併症が多いという話も聞かなかった。

ただ、この結果は十分に参考となるものであり、過度に高線量を投与するのには注意が必要であるという点には留意しておくべきだろう。

 

参考文献

Comparison of Clinical Efficacy of Neoadjuvant Chemoradiation Therapy Between Lower and Higher Radiation Doses for Carcinoma of the Esophagus and Gastroesophageal Junction: A Systematic Review

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