中絶と放射線治療について②
目次
1:妊娠とがん治療②
2:中絶という問題の難しさ
3:参考文献
妊娠とがん治療②
前回の記事では、妊娠中のがん治療は非常に難しいと書きました。
もし、胎児がある程度生育していて、体外で生存可能な状況であれば帝王切開などを行って早めに分娩をするという選択肢もあります。
しかしながら、すべての症例においてそのような選択が取れるわけではありません。
その場合、妊娠を継続するのか、中絶をして癌治療を行うのかという、非常に難しい選択を迫られる形になります。
日本であれば、週数による制限はあるものの、中絶は可能ですが、前回の記事で触れたように、アメリカにおいては州によって完全に中絶が禁止されている場合もあり、妊娠継続以外の選択肢が無い状況も起こり得ます。
仮に中絶が認められないような状況であれば、出産するまで癌治療が行えないため、その間に癌が進行してしまうことになります。
場合によっては、癌に伴う緊急性のある状況というのも発生する可能性があります。
具体的には子宮頚癌に伴う出血が止まらない場合などです。
そういった場合でも中絶が禁止されているのであれば、できる対応というのは非常に限られてしまいます。
中絶の禁止は胎児の人権を守るという観点では非常に重要ですが、それによって母体を危険にさらしてしまっているのは本末転倒ではないかという気がします。
中絶という問題の難しさ
中絶というのは昔から非常に難しい問題をはらんでいます。
どこからが生命と考えられるのか、という生命倫理の議論が必要な領域であり、一律にこうだと決められる問題ではありません。
また、母体保護の観点からは、やはりすべての中絶を禁止すべきでもないと考えます。
状況にあわせて柔軟な対応が求められますが、明確な基準を作りにくいのも現実であり、可能であれば多くの意見を参考にしながら意思決定を行っていくことが望ましいと思います。
幸いにも日本ではアメリカのような極端な状況にはなっておらず、選択肢のひとつとして考え得る状況ではあります。
中絶を勧めるという立場ではありませんが、母体の健康も十分に考慮して議論していく話題であると考えます。
参考文献
Limiting Access to Abortion Will Potentially Harm Patients With Gynecologic Cancers
- PMID: 35963471
- DOI: 10.1016/j.ijrobp.2022.07.1845
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