乳房切除術後の胸壁照射においてボーラスは不要かもしれない
まとめ
解説
放射線治療においてはボーラスと呼ばれるゲル状のものを体表面において照射を行うことがある。
これはX線の特性として、体表面では線量が下がってしまうという性質があるからである。
体表面に対して十分な線量を照射したいときには、ボーラスを置くことで、線量が低下する部分はボーラスの領域になり、表面には十分に照射できるようになる。
早期の乳癌であれば腫瘍のみを切除する部分切除が標準治療となるが、ある程度進行した症例では乳房じたいを切除する場合があり、症例によってはそのあとに放射線治療を行うことがある。
この際に、乳房が切除されているために胸壁が非常に薄い状態となり、普通に放射線を照射しても、上記のように表面に十分に放射線が照射されないという状況が生じる。
このため、乳房切除術後の胸壁照射においてはボーラスを置いて照射を行うというのは比較的広く行われている方法である。
いっぽうで体表面に放射線が十分に当たることで、副作用である皮膚炎の頻度・重症度が高くなるというデメリットが生じる。
ボーラスを置いた症例では、置かない症例と比較して皮膚炎の程度が一段階高くなるイメージである。
治療による再発予防効果と、副作用のバランスが重要な部分である。
今回の研究では、実際にボーラスを置いた群とおいていない群での治療成績を比較したものである。
対象のほとんどはなんらかの化学療法あるいはホルモン治療を受けている状態であった。
結果として、乳癌の再発はボーラス群とそうでない群でともに低く、ボーラスを置いたことで治療成績の改善は認められなかった。
乳癌に伴う生存率についても両群で有意な差は認められなかった。
上記のように、ボーラス使用にともなう皮膚炎というのは重要なデメリットであり、治療成績に差が無いのであれば、ボーラスの使用は強く勧められるものとはいいがたい。
特に今回の研究のように、化学療法やホルモン治療を行う症例であれば、もともとの再発率が低いため、ボーラスの使用は控えるべきであろう。
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