治療の強度を弱くしていくことは本当に正しいのか?

目次

1:最近の治療選択の傾向
2:治療技術の進化という側面
3:まとめ
4:参考文献

最近の治療選択の傾向

前回の記事と関連する内容になります。

前回は乳癌に対する乳房温存術後の放射線治療を省略することは有用であるかどうかを検討した論文を紹介しました。

結果として、放射線治療を省略した群では、経過観察中の新規あるいは再発乳癌が有意に増えたため、放射線治療の省略はお勧めされないという内容でした。

ただ、最近ではこれまでの治療を修正して、より強度を下げた治療法の有効性を検討する研究も増えてきました。

これは、病気の治癒のみでなく、その後の生活を考えたうえで、いかに生活の質(QOL)や生命予後を両立させるかという点が重要視されているからだと感じます。

仮に病気が良くなったとしても、その後寝たきりになってしまっては意味がないですし、副作用で逆に生命予後が短くなってしまっては本末転倒です。

そのような風潮の中で、さまざまな選択肢が検討されているのだと思います。

治療技術の進化という側面

いっぽうで、治療技術の進歩というのも重要なファクターになると思います。

放射線治療の領域で言えば、以前は2次元あるいは3次元照射が一般的でしたが、最近ではIMRTといった高精度照射がかなり一般的に普及してきています。

また、乳癌における放射線治療では心臓線量が重要な問題となりますが、これに対しては深吸気息止めという、深く息を吸った状態で息を止めて照射を行うことで、心臓への線量を低減するという治療も可能な施設が増えてきています。

つまり、以前の放射線治療では問題となった副作用も、新たな照射法を適応することで、副作用の発生率や重篤度を低減することが可能になってきているということです。

現在の高精度照射が可能な状況であれば以前の副作用の発生率を基準に議論することはできません。

特に乳癌術後においては追加の放射線治療はすでに有効性が確立された治療法であり、照射法が進歩している現在において、副作用の低減目的で安易に省略すべきではないと言えます。

まとめ

今回の結果から、従来の治療の省略がよくないことであると言っているわけではありません。

これからも、最適な治療選択については議論していく必要があります。

いっぽうで、治療法は日々進化していくものであり、特に昨今の進化のスピードは目を見張るものがあります。

十分にエビデンスが確立される前に新たな治療法が開発されることも少なくない状況です。

常に最新の情報を取り入れつつ、エビデンスが充分でない状況で、どのような選択肢が最適なのか、慎重に判断していく必要があります。

参考文献

Improving the Therapeutic Ratio Among Older Women With Early Stage Breast Cancer by Reevaluating Adjuvant Radiation Therapy and Hormone Therapy

Affiliations

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