コロナ禍における放射線治療

目次

1:手探りの中でのがん治療
2:コロナ流行後の放射線治療の変化
3:寡分割照射の適応
4:参考文献

 

手探りの中でのがん治療

コロナ(COVID-19)感染が長期化し、感染発生の当初からは社会のありかたもだいぶ変わってきました。

コロナ感染が社会に及ぼした影響は非常に大きく、それは医療現場、がん治療においても同様です。

コロナ感染という未知の感染症に対応する中で、医療現場ではエビデンスの無い状態で、手探りで最適な治療法を模索する必要がありました。

コロナ感染と対峙するなかで、不明な点も多くあります。

COVID-19に感染した患者は他の感染症と同様に放射線治療を受けることができるのか?

免疫療法を用いることはCOVID-19感染のリスクとなりえるのか?

その他の化学療法に伴う免疫抑制状態はCOVID-19感染にどのように影響するのか?

COVID-19感染は癌に対する術後合併症に影響するのか?

がん治療後のフォローアップはリモートで十分なのか?

COVID-19感染によるパンデミックによって、治療リソースが限られる中で、患者をどのような優先順位でトリアージすべきなのか?

 

これらの疑問点については症例、データが蓄積していくなかで、今後徐々に明らかになっていくでしょう。

 

コロナ流行後の放射線治療の変化

COVID-19の流行が起こり、放射線治療においてもさまざまな変化が起きました。

以前にも書いたかもしれませんが、放射線治療領域で起こった大きな変化としては寡分割照射を導入することが増えたということです。

寡分割照射とは、通常の放射線治療よりも1回線量を多くして、治療の回数を減らし、結果的に治療期間を短縮する方法です。

COVID-19の流行期においては通院じたいに大きなリスクがあります。

病院という環境じたいがコロナ感染がおこりやすいため、通院期会が増えれば、それだけ感染のリスクが上がります。

また、もし通院する患者本人がコロナに感染している場合には、病院で感染を広げてしまうリスクもあります。

仮に医療従事者にコロナ感染が広がれば、最悪、その病院での放射線治療じたいがストップしかねないという危険性があります。

そういった意味で、治療期間を短縮できる寡分割照射というのは、特にコロナ禍において非常に大きな役割を持つようになったのです。

 

寡分割照射の適応

ただ、すべての放射線治療において寡分割照射が適応できるわけではありません。

もともとの標準治療が存在し、それはこれまでの大規模研究から有効性が確立されているものです。

寡分割照射は比較的まだ新しい治療のため、領域によっては有効性が十分に示されていないものもあります。

このコロナ禍で寡分割照射が急速に進んだ領域は、やはり乳癌の治療でしょう。

コロナ以前には通常の25回で治療していた病院も多かったですが、このコロナ流行を期に16回の寡分割照射に移行した病院もかなり多いと思います。

また、骨転移に対する照射でも寡分割照射を行う場合があります。

通常の姑息照射であれば10回程度で治療するのが一般的ですが、寡分割照射では5回や4回、場合によっては1回で治療が終了する場合もあります。

病院によっては前立腺癌についても寡分割照射を行っているところもあります。

通常であれば、前立腺癌の治療は35回以上が必要となりますが、寡分割照射であれば20回程度で終了します。

期間で言うと、2-3週間程度の短縮になります。

その他、頭頚部癌や肺癌などでも寡分割照射を採用する病院はありますが、これらはまだまだ一般的ではありません。

今後、エビデンスの蓄積とともに、より寡分割照射が浸透していく可能性は高いと考えます。

 

参考文献

Adapting Head and Neck Cancer Management in the Time of COVID-19

Practice Recommendations for Lung Cancer Radiotherapy During the COVID-19 Pandemic: An ESTRO-ASTRO Consensus Statement

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