多数の脳転移を有する症例に対する治療の選択肢は
目次
1:多発脳転移に対する治療
2:多発脳転移に対する定位照射
3:まとめ
4:参考文献
多発脳転移に対する治療
癌が進行すると脳への転移が発生することがあります。
転移が一つだけであったり、少数の場合には、可能であれば手術や定位照射といってピンポイントの放射線治療を行うことがあります。
いっぽうで多数の転移が存在する場合には治療をどのように行うのか悩ましい場合があります。
脳転移の場合には最終的には全脳照射が行われることがあるのですが、全脳照射はその名のとおり、脳全体に放射線を照射する方法です。
全脳照射のメリットとしては、脳を全体的に照射するため、現時点でははっきりとわかっていない潜在的な脳転移についても治療ができる点です。
つまり、今後の脳転移の進展・増悪を予防することができます。
いっぽうで、脳を広く照射するため、副作用の観点からあまり強い線量は当てられません。
このため、全脳照射の目的は、転移の消失というよりも、悪くなるのを予防するという意味合いが強いのです。
また、全脳照射のデメリットとして、認知機能低下が挙げられます。ようは治療を行うことによって認知症のような症状が出やすくなるのです。
認知機能低下は一度出るとなかなか改善が難しいため、その後の生活の質(QOL)が大きく低下する要因となります。
多発脳転移に対する定位照射
今回紹介する研究では、多発脳転移に対して、全脳照射ではなく、定位照射というピンポイントの治療を行った場合の経過を評価しています。
この研究では、通常の経過であれば全脳照射を行うことが多い、5-15個の転移を有する症例を対象として解析しています。
放射線治療については辺縁線量の中央値は18.5Gyで治療されていました。
結果ですが、転移が一つの症例はその他の個数の群いずれと比較しても治療成績が良好でした。
いっぽうで、転移が2-4個の症例と、5-15個の症例では治療成績に大きな差はありませんでした。
また、治療後の新たな脳転移の出現については、転移が1つであった症例がもっともリスクが低く、2-4個の症例と5-15個の症例でも有意にリスクの差が見られました。
治療後に全脳照射が必要となるまでの期間については2-4個の群と5-15個の群で差はありませんでした。
まとめ
この研究では脳転移が2-4個の群と、5-15個の群で、治療成績に大きな違いが無いことから、転移の数によって定位照射か全脳照射かを決めるべきではないと指摘しています。
つまり、全脳照射を行う時期はできるだけあと伸ばしにし、可能な限り定位照射などのピンポイント治療を行っていくのが現実的な流れになるのではないかと考えられます。
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