多発脳転移に対する放射線治療|全脳照射と定位照射の違いと副作用を専門医が解説

2023年8月6日

がんが進行すると、脳へ転移(脳転移) が起こることがあります。

脳転移が見つかった場合、その「数」によって治療方針が大きく変わります。

  • 転移が1つ、あるいは少数の場合

  • 転移が多数ある場合

では、治療の考え方が異なります。

この記事では、
多発脳転移に対する放射線治療の考え方と、全脳照射の副作用はいつまで続くのか を、できるだけ分かりやすく解説します。

脳転移が少ない場合の治療

転移が1つ、あるいは少数であれば、

  • 手術

  • 定位照射(ピンポイントの放射線治療)

が選択されることがあります。

定位照射とは、病変部分だけに集中的に放射線を当てる治療です。
正常な脳への影響を最小限に抑えることができます。

転移が多数ある場合はどうする?

転移が多数存在する場合、治療方針はより慎重に検討されます。

最終的に選択されることがあるのが、

全脳照射(WBRT)

です。

その名のとおり、脳全体に放射線を当てる治療法です。

全脳照射のメリット

全脳照射の最大のメリットは、

まだ画像では確認できていない「潜在的な脳転移」にも治療ができる

という点です。

つまり、

  • 今ある転移だけでなく

  • 将来増えてくる可能性のある転移も

まとめて治療できるため、

脳転移の進展や増悪を予防する効果が期待できます。

全脳照射の目的は「消す」ことではない

ただし重要なのは、
全脳照射は「転移を完全に消失させる」ことが主目的ではないという点です。

脳全体を広く照射するため、
副作用の観点から非常に強い線量を当てることはできません。

そのため、目的は

転移が悪くなるのを防ぐ(進行を抑える)

という意味合いが強くなります。

全脳照射の副作用はいつまで続くのか?

最大の問題:認知機能低下

全脳照射の代表的なデメリットが、

認知機能の低下 です。

いわば、治療後に

  • 物忘れが増える

  • 判断力が落ちる

  • 認知症のような症状が出る

といった状態が起こりやすくなる可能性があります。

いつから出るのか?

認知機能低下は、

治療後およそ6か月程度から出現する可能性がある

とされています。

そして時間が経過するにつれて、発生率は上昇します。

改善するのか?

残念ながら、

一度出現すると改善が難しい

とされており、
その後の生活の質(QOL)を大きく左右する要因になります。

半年以内に認知機能が悪化したら?

一方で注意すべき点があります。

脳転移そのものが原因でも、
認知機能障害が出現することがあります。

しかもこちらは、

放射線治療の副作用よりも早く出る傾向があります。

つまり、

  • 治療後6か月以内に認知機能低下が出現した場合
    → 転移が悪化している可能性が高い

と考えられます。

その他の副作用

全脳照射では以下の副作用も起こり得ます。

  • 皮膚炎

  • 脱毛

  • 中耳炎

  • 白内障

脳全体に照射するため、周囲組織への影響も避けられません。

がん治療の副作用についてさらに詳しく知りたい方には、実際の症状への対処法を分かりやすく解説した書籍も参考になります。

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多発脳転移に対する定位照射という選択肢

近年注目されているのが、

多発脳転移に対しても全脳照射を行わず、定位照射で治療する

というアプローチです。

今回紹介する研究の内容

この研究では、

通常であれば全脳照射が選択されやすい

5~15個の脳転移を有する症例

を対象に解析しています。

治療は定位照射で行われ、
辺縁線量の中央値は18.5Gyでした。

結果はどうだったのか?

① 転移が1個の場合

最も治療成績が良好でした。

② 2~4個 vs 5~15個

ここが重要です。

  • 2~4個の群

  • 5~15個の群

この2群の間で、

治療成績に大きな差はありませんでした。

新たな脳転移の出現について

  • 転移1個の症例が最もリスクが低い

  • 2~4個と5~15個の群でも有意差が認められた

という結果でした。

全脳照射が必要になるまでの期間

2~4個の群と5~15個の群で、

差はありませんでした。

定位照射の線量や副作用について知りたい方へ

多発脳転移に対して定位放射線治療(SRS・SRT)を選択する場合、
どの線量が最適なのか、副作用や脳壊死のリスクはどの程度なのかが重要になります。

5回30Gyのエビデンス、局所制御率、術後照射や再照射の安全性までまとめた解説はこちらで詳しく紹介しています。

放射線治療の費用が気になる方は

それぞれの疾患についての費用をまとめています。

費用を決める要素は何なのかを解説。

放射線治療の期間が気になる方は

疾患ごとに想定される治療期間を解説しています。

まとめ

この研究が示している重要なポイントは、

転移の「数」だけで
全脳照射か定位照射かを決めるべきではない

ということです。

つまり、

  • できるだけ全脳照射の時期は遅らせる

  • 可能な限り定位照射を行う

という流れが現実的である可能性があります。

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参考文献

Initial SRS for Patients With 5 to 15 Brain Metastases: Results of a Multi-Institutional Experience

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