年間20本査読する専門医が語る 一人で論文を書くということ、そして査読の現実

2017年3月16日

臨床医として働きながら論文を書く。

研究施設に所属していれば研究から論文化までが一連の流れになりますが、病院勤務医にとって論文作成は「通常業務の合間」に行う作業です。

本記事では、

  • 指導者が少ない環境で

  • ネタも豊富とは言えない状況で

  • 単施設・後ろ向き研究を中心に

どのように論文を書いているのか。

さらに、年間約20本査読する立場から、査読の実情と、リジェクトされる論文の共通点についても述べます。

「こうすれば必ず通る」という話ではありません。
現実にどう戦っているのか、その記録です。

1.論文を書く前に必要なもの ― モチベーション

論文を書くには、まず十分なモチベーションが必要です。

  • 一度は書いてみたい

  • 上司に言われた

  • 学位取得のため

  • 業績が必要

動機はポジティブでもネガティブでも構いません。

しかし重要なのは、

アクセプトまで維持できるモチベーションかどうか

途中で折れれば、原稿はゴミ箱行きになります。
十分な動機がないなら、始めない方がいいかもしれません。

2.研究テーマの決め方 ― 単施設医師の現実戦略

論文はよく「料理」に例えられます。

  • 食材=研究テーマ

  • 料理人=研究者

  • 客=読者

理想は
「多施設前向きランダム化試験 × 経験豊富な研究者」

しかし、通常の病院勤務医がその環境にいることは稀です。

後ろ向き研究という現実

研究熱心な協力者がいない場合、前向き研究の立ち上げは困難です。
結果として多くは後ろ向き(遡及的)研究になります。

テーマ設定で最重要なこと

  • 一度決めたら基本的に最後まで走る

  • テーマ設定を誤ると研究全体が無駄になる

理想は「多くの研究者が知りたいテーマ」。
しかし単施設・経験の少ない環境では現実的ではありません。

単施設で狙うべきテーマ

  • ニッチな領域

  • 「まだ報告されていない」点

  • 自施設の強み(症例数が多い疾患など)

症例数が少なすぎれば、投稿前に敗北が決まります。

3.文献検索 ― PubMedを使い倒す

テーマが決まったら徹底的に文献検索します。

  • PubMed

  • Web of Science

確認すべきことは2つ。

  1. 自分の研究と完全に重複していないか

  2. 既存研究はどのような解析をしているか

論文はコピーしてはいけませんが、
書き方・構成・統計の選び方は最大の教科書です。

英語が得意でなくても、良い論文を大量に読むことで文章の型が身につきます。

4.データ収集と倫理申請

可能であればこの時点で倫理申請を行います。

後ろ向き研究の弱点は、

  • データが統一されていない

  • 治療法がバラバラ

  • バリエーションが多い

前向き研究のような「整った野菜」ではありません。

だからこそ、

  • なるべく均質な症例を選ぶ

  • 批判される点を事前に想定する

ことが重要です。

5.統計解析 ― リジェクトを避けるための基礎

医学論文に統計解析は必須です。

高価なソフト(SAS、SPSS)もありますが、
RやeasyRなどのフリーソフトで十分対応可能です。

実際、一流誌にもR使用論文は多数掲載されています。

注意点

  • 解析方法を間違えると即リジェクト対象

  • 基礎統計は必ず勉強しておく

  • 既存論文を参考に解析設計する

6.p値の現実

現在の医学論文は依然としてp値に縛られています。

単施設後ろ向き研究では、

  • p<0.05でなければ通りにくい

  • 症例数不足と判断されやすい

理想的な構成は:

  • 大きな有意結果 1つ

  • 補強結果 2~3つ

結果を増やしすぎると論点がぼやけます。

7.論文の具体的な書き方(実践編)

① 図または明確な結論を最初に定義する

読者が最初に見るのは図です。
結論が図に反映されている必要があります。

② Method(M&M)を書く

最も書きやすい部分。

  • 対象

  • 期間

  • 治療法

  • 解析方法

既存論文を参考に型を使う。

③ Resultを書く

事実のみを書く。

  • 「有意である」はOK

  • 「有用と考えられる」はNG

図表と本文の重複は嫌われます。

④ Introductionを書く

一般論 → 個別論 → 本研究の目的

「なぜこの研究が必要なのか」を論理的に。

⑤ Discussionを書く

唯一、著者の考えを書ける場所。

構成は:

  1. 主要結果の提示

  2. 臨床的意義

  3. 先行研究との比較

  4. Limitation(必ず書く)

  5. 今後の展望

Limitationを書いていない論文は査読で必ず指摘されます。

8.投稿後が本番 ― リビジョン地獄

論文完成はゴールではありません。

  • 投稿

  • 査読

  • Major Revision

  • 再投稿

場合によっては本文より長い返答を書くこともあります。

9.査読の現実(年間約20本)

査読は基本的にボランティアです。
報酬もなく、名前も公表されません。

私が引き受ける基準は:

インパクトファクターが付いているか

粗雑な雑誌は避けます。

10.日本発論文は少ない

査読でよく見るのは中国・韓国からの投稿です。

中国の研究レベルはすでに非常に高く、
投稿数も圧倒的です。

日本は研究分野で遅れていると感じます。

11.査読者の質も様々

他の査読者コメントを見ると、

  • 驚くほど適当なレビュー

  • 表面的な指摘のみ

というケースも珍しくありません。

AI査読の話もありますが、
専門領域ではまだ懐疑的です。

12.Radiomics研究への違和感

Radiomicsは画像から大量の特徴量を抽出する分野です。

問題点:

  • 項目が多すぎる → 有意差が出やすい

  • 臨床的意味が直感的に理解しにくい

  • 研究のための研究になりがち

遺伝子変異を画像から予測できるという主張には
現時点では懐疑的です。

13.英語が悪い論文は通らない

句読点やスペースの誤りが多い論文は、

  • 内容も甘い

  • 共著者が読んでいない

  • 校正されていない

ことが多いです。

最近は英語が粗い時点で
リジェクト目線で読むこともあります。

結論:論文を書く人へ

  • モチベーションを確認する

  • テーマを慎重に決める

  • 文献を徹底的に読む

  • 統計を勉強する

  • Limitationを書く

  • 英語を整える

論文は「才能」ではなく「粘り」です。

そして、査読者は思っている以上に
細かく、そして冷静に見ています。

参考文献

Writing a Research Paper

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