肺癌の体幹部定位照射は呼吸機能を温存できるのか?

目次

1:肺癌に対する高精度照射
2:体幹部定位照射は肺機能を温存できるのか?
3:体幹部定位照射の有用性
4:参考文献

肺癌に対する高精度照射

近年では放射線治療装置の進歩に伴い、高精度照射が一般化してきました。

肺癌の領域においても、従来であれば3DCRTと呼ばれる三次元照射が一般的でしたが、IMRTや定位照射といった高精度治療に置き換わるケースが増えてきました。

高精度照射はその名の通り、腫瘍に対してより精度を高めた治療ができる方法であり、腫瘍に十分な線量を投与しつつ、周囲の正常臓器への線量を減らすことができるというメリットがあります。

体幹部定位照射は肺機能を温存できるのか?

今回紹介する論文では上記のような高精度照射のメリットを生かすことで、肺癌治療において、呼吸機能を温存できるかどうかを検討した研究です。

肺癌の放射線治療では腫瘍や縦隔に放射線が照射されますが、その際には正常の肺組織にもある程度の放射線があたります。

そして放射線が照射された正常肺組織の一部は機能低下をきたすため、肺機能が治療前に比較すると低下してしまいます。

これは厳密に言えば、少量でも肺組織が照射されれば、呼吸機能がわずかながら低下することは避けられません。

肺癌治療においては、治療後にいかに呼吸機能を保っていられるかというのがその後の生活の質(QOL)に直結するため、非常に大きな問題です。

せっかく肺癌が治療できても、呼吸機能が低下して寝たきりにでもなってしまっては、治療の意味がなくなります。

この研究では101例を対象として、33例は従来の3DCRTで、61例は体幹部定位照射で、7例は無治療となっています。

従来の照射では20-33回を照射しており、体幹部定位照射では3-4回で照射しています。

線量の比較では、BEDと呼ばれる線量の指標で、従来の照射群では65.49Gy相当であったのに対して、体幹部定位照射群では125.92Gy相当でした。

治療後の呼吸機能検査では、3か月後、12か月後の評価で両群に差は無いという結果でした。

体幹部定位照射の有用性

今回紹介した研究では、治療後の呼吸機能は従来の照射と定位照射で有意な差は無いというものでした。

いっぽうで、定位照射を用いることで、短期間により高線量を投与することができており、治療成績の向上が期待できる結果でした。

体幹部定位照射は肺癌において、従来の照射方法と比較して、呼吸機能を低下させることなく、より効果的な線量を投与することのできる有用な治療法と言えます。

今後の関心としては、体幹部定位照射と手術の比較になるかと思います。

これまでも手術が困難な症例においては定位照射が選択される場面は多かったですが、手術可能な症例において、定位照射を選択するメリットがあるのかどうか評価していく必要があります。

参考文献

Comparison of Changes in Pulmonary Function After Stereotactic Body Radiation Therapy Versus Conventional 3-Dimensional Conformal Radiation Therapy for Stage I and IIA Non-Small Cell Lung Cancer: An Analysis of the TROG 09.02 (CHISEL) Phase 3 Trial

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