肺がんの放射線治療における副作用と注意点 ― 肺炎・呼吸機能・神経障害・心臓への影響まで ―

2024年12月1日

肺がんの放射線治療は年々進歩しています。
IMRTやVMAT、体幹部定位照射(SBRT)などの高精度治療により、腫瘍へ集中的に線量を届けながら正常組織への影響を減らすことが可能になりました。

しかし、精度が向上しても副作用のリスクがゼロになるわけではありません。

本記事では、肺がん放射線治療で重要となる副作用について、
最新の高精度治療に関する研究データをもとに解説します。

1. 放射線肺炎 ― 最も重要な副作用

肺がんの放射線治療で特に注意すべき副作用が放射線肺炎です。

軽度のものから、重症化すると命に関わるものまであります。そのため、放射線治療では「いかに肺炎リスクを下げるか」が非常に重要な課題となっています。

放射線治療開始当初から肺炎リスクは議論され、さまざまなリスク因子が提唱されてきました。しかし近年はIMRTやVMATといった高精度治療が普及し、従来のデータをそのまま適用できるのか十分な検証が必要とされていました。

高精度照射における肺炎リスク(1300例の検討)

1回1.8–2.0Gyの高精度照射を受けた1300例を対象とした研究では、治療後6か月時点での肺炎発生率は以下の通りでした。

  • すべての肺炎:16%(208例)

  • Grade2以上:7%(94例)

  • Grade3以上:1%未満(11例)

リスク因子

多変量解析では:

  • Grade2以上の肺炎 → 肺のV5が有意なリスク因子

  • Grade3以上の肺炎 → MLDおよびV20が有意なリスク因子

  • 併存疾患 → Grade3以上で有意

  • 喫煙者 → 非喫煙者よりGrade2以上の肺炎が少ないという結果

従来重要とされていたV20やMLDに加え、高精度治療ではV5の重要性が示された点が特徴です。

2. 呼吸機能は保たれるのか?

肺がん治療では、治療後の呼吸機能の維持が生活の質(QOL)に直結します。

放射線が正常肺組織に当たると、一部は機能低下を起こします。少量でも照射されれば、わずかながら機能低下は避けられません。

体幹部定位照射(SBRT)の検討(101例)

  • 3DCRT:33例(20–33回照射)

  • 体幹部定位照射:61例(3–4回照射)

  • 無治療:7例

線量(BED換算):

  • 従来照射:65.49Gy相当

  • 定位照射:125.92Gy相当

結果

治療後3か月、12か月の呼吸機能検査では
両群に有意差はなし

つまり、

  • 呼吸機能を悪化させることなく

  • より高線量を短期間で投与可能

という結果でした。

今後の関心は、手術可能症例における定位照射の位置づけです。

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3. 腕神経叢障害 ― 高線量治療での注意点

定位照射では1回線量が高いため、周囲の正常臓器への影響に細心の注意が必要です。

その一つが腕神経叢です。

腕神経叢は頸椎から腕へ伸びる神経の束で、鎖骨近傍を走行します。障害されると、

  • 手のしびれ

  • 運動障害

が生じます。

耐容線量

  • 5回照射:最大32Gy

  • 3回照射:最大25Gy

この範囲であれば、障害発生率は10%以下とされています。

問題点

  • 神経はCTで明瞭に描出できない

  • 周囲構造から推定する必要がある

  • 定位照射では線量勾配が急峻

そのため、わずかなずれでも線量が大きく変化し、評価が難しいのが現状です。

4. 心臓・冠動脈への影響(LAD線量)

近年注目されているのが心臓への線量です。

心臓に放射線が当たると、

  • 不整脈

  • 心不全

  • 予後悪化

の可能性が指摘されています。

特に重要なのが左前下行枝(LAD)です。

非小細胞肺癌 約450例の検討

LADのうち15Gy以上照射される割合で比較:

  • 10%未満:94例(21%)

  • 10%以上:355例(79%)

結果

  • ハザード比:1.43(有意に高い)

  • 全生存期間

    • 10%以上:20.2ヶ月

    • 10%未満:25.1ヶ月

心臓全体の線量では有意差はなし。

つまり、
冠動脈(特にLAD)線量が予後と相関する可能性が高いという結果でした。

5. 放射線性食道炎

肺がんの放射線治療では、腫瘍の位置によっては食道にも放射線が当たります。その結果として起こるのが放射線性食道炎です。

主な症状

  • のどや胸の奥の痛み

  • 飲み込むときの痛み(嚥下痛)

  • 食事がつかえる感じ

  • 食欲低下

多くは治療中から治療終了後数週間以内に出現します。

疼痛が強い場合には鎮痛薬が必要になります。

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まとめ

肺がんの高精度放射線治療において重要なポイントは:

  • 放射線肺炎

    • V5、V20、MLDが重要

    • 併存疾患は重症化リスク

  • 体幹部定位照射

    • 呼吸機能を保ちつつ高線量投与が可能

  • 腕神経叢

    • 正確な線量評価が重要

  • 冠動脈(LAD)線量

    • 予後との関連が示唆

高精度治療は進歩していますが、
どこにどれだけ線量を当てるかの設計が極めて重要です。

今後は、治療効果だけでなく、

  • QOL

  • 心血管リスク

  • 長期予後

まで考慮した放射線治療計画がますます求められる時代になると考えられます。

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よくある質問(FAQ)

Q1. 肺がんの放射線治療で最も注意すべき副作用は何ですか?

最も重要な副作用の一つが放射線肺炎です。
軽度のものから重篤なものまであり、重症化すると命に関わることもあります。そのため、治療計画では肺炎リスクをいかに下げるかが重要な課題になります。

Q2. 放射線肺炎はどのくらいの頻度で起こりますか?

高精度照射を受けた1300例の検討では、治療後6か月時点で

  • すべての肺炎:16%

  • Grade2以上:7%

  • Grade3以上:1%未満

という結果でした。

Q3. 放射線肺炎のリスク因子は何ですか?

高精度照射では、

  • Grade2以上:肺のV5

  • Grade3以上:MLDおよびV20

  • 併存疾患:重症肺炎(Grade3以上)のリスク因子

が有意な因子とされました。

また、喫煙者の方が非喫煙者よりGrade2以上の肺炎発生率が少ないという結果も示されています。

Q4. 高精度照射(IMRT・VMAT)とは何ですか?

IMRTやVMATは、さまざまな方向・強度で放射線を照射し、腫瘍に十分な線量を与えながら正常組織の線量を減らすことが可能な治療法です。
従来の3DCRTよりも精密な治療が可能です。

Q5. 体幹部定位照射(SBRT)は呼吸機能を悪化させますか?

101例の検討では、治療後3か月および12か月の呼吸機能は、従来の照射と定位照射で有意差はありませんでした

定位照射は短期間で高線量を投与できる一方、呼吸機能の低下は従来照射と差がないという結果でした。

Q6. 腕神経叢とは何ですか?なぜ注意が必要なのですか?

腕神経叢は、頸椎から腕に伸びる神経の束です。
放射線により障害されると、手のしびれや運動障害が生じます。

Q7. 腕神経叢の耐容線量はどのくらいですか?

  • 5回照射:最大32Gy

  • 3回照射:最大25Gy

この範囲であれば、障害発生率は10%以下とされています。

ただし、画像で神経を明瞭に描出することが難しく、線量評価は容易ではありません。

Q8. 心臓への放射線は予後に影響しますか?

非小細胞肺癌約450例の検討では、左前下行枝(LAD)に15Gy以上照射される割合が10%を超える場合、全生存期間が有意に短いという結果でした。

一方で、心臓全体の線量では有意差は認められませんでした。

Q9. なぜLAD(左前下行枝)が重要なのですか?

LADは冠動脈の一つであり、心臓の部屋の中で最も重要な左心室を栄養し、心機能に大きな役割を持ちます。
この部位への線量が予後と相関する可能性が示されており、放射線治療計画では注意が必要とされています。

Q10. 高精度放射線治療は安全なのでしょうか?

高精度治療は正常組織への線量を減らすことを目的とした治療法ですが、

  • 放射線肺炎

  • 神経障害

  • 心臓・冠動脈への影響

などへの配慮は依然として重要です。
どこにどれだけ線量を当てるかが極めて重要となります。

参考文献

Hypofractionated Stereotactic Radiation Therapy Dosimetric Tolerances for the Inferior Aspect of the Brachial Plexus: A Systematic Review

Predictors of Pneumonitis After Conventionally Fractionated Radiotherapy for Locally Advanced Lung Cancer

Comparison of Changes in Pulmonary Function After Stereotactic Body Radiation Therapy Versus Conventional 3-Dimensional Conformal Radiation Therapy for Stage I and IIA Non-Small Cell Lung Cancer: An Analysis of the TROG 09.02 (CHISEL) Phase 3 Trial

Left Anterior Descending Coronary Artery Radiation Dose Association With All-Cause Mortality in NRG Oncology Trial RTOG 0617

Affiliations

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