前立腺癌の放射線治療の期間は今よりも短縮できる?
前立腺癌の治療方法は?
限局した前立腺癌の治療にはさまざまな選択肢があります。
手術(開腹、腹腔鏡、ロボット手術)、放射線治療(X線、粒子線)、小線源治療(LDR、HDR)、焼却療法など。
特に非常に早期の前立腺癌であればアクティブサーベイランスという方法もあります。
治療技術の進歩はすさまじく、それぞれの治療法も日々進化していっています。
いっぽうで、技術の進歩にエビデンスが追い付いていないという現状があります。
一般的に癌の標準治療を決定する際には臨床研究の結果が必要ですが、この結果が出るのに5年~10年、場合によってはもっとかかることもあります。
つまり治療技術が進歩して新しい治療法が可能となっても、その治療法が臨床応用されるには少なくとも5年以上が経過して症例が蓄積されないといけないのです。
最近では技術の進歩のスピードが速く、臨床試験がそのスピードに追い付いていないという解離が起こっています。
放射線治療の回数を減らすことは可能なのか?
前立腺癌における一般的な放射線治療である体外照射は、放射線治療の中でも治療期間の長い治療です。
標準的な回数は35回~39回程度となっており、7~8週間かかるのが一般的です。
これに対して、近年では1回の照射線量を増やすことで、治療期間の短縮をはかる、寡分割照射という方法が検討されてきました。
短期照射のメリットは言うまでもなく、治療期間を短縮できることで、患者自身にもメリットがありますし、治療施設にとっても、短期で終わるため同じ期間でより多くの患者を治療できるという利点があります。
いくつかの臨床試験で標準治療と寡分割照射の治療成績の比較が行われました。
これは通常8~9週間かかる治療と、回数を減らして4~5週間の治療を比較したもので、結果として急性期の副作用は短期照射でやや強く出るものの、長期の副作用は変わらないというものでした。
治療効果じたいも両群で変わりませんでした。
この結果、4~5週間程度で照射を行う寡分割照射は臨床的に十分許容できるものであると判断されました。
さらなる治療期間の短縮は?
ここからさらに治療期間を短縮することは可能なのでしょうか。
いくつかの臨床試験において、その可能性が検討されています。
この超短期照射では治療は4~7回程度で終了します。
そのぶん、1回の照射線量が5Gy以上とかなり強い放射線を照射しています。
ランセットに掲載されたランダム比較試験では、1200人の患者を標準照射群と超短期照射群(42.7Gy/7回)に割り付けています。
結果として、治療成績は両群で同等で、急性期の副作用は短期照射で強く、長期の副作用は両群で差が無いというものでした。
これは、上に書いた4~5週間かかる治療における臨床研究と同じような結果でした。
この結果から、超短期照射についても前立腺癌の日常診療において受け入れられる治療と考えられるでしょうか。
注意すべきなのは、短期照射を行うと急性期の副作用は増えるということです。
これはどの臨床試験でも指摘されています。
このため、この急性期の副作用をいかに軽減できるかを考慮する必要があります。
まず1つはIMRTの採用です。
これまでの3DCRTに比較して、IMRTは治療医が意図したように直腸や膀胱の線量を下げやすいという特徴があります。
次に直腸スペーサーの利用です。
スペーサーは前立腺と直腸のあいだに挿入するジェルのようなもので、これを入れることで前立腺に大線量を照射しても直腸が守られるというものです。
最後により優れた画像誘導の導入です。
画像誘導とは実際に放射線を照射する際に、CTやMRIなどを用いてリアルタイムの画像を取得し、位置のずれが無いか確認する技術です。
近年ではMRIと一体となった放射線治療装置も登場しており、より明瞭な画像を得ることができるようになってきています。
これらの新たな技術の導入により、前立腺癌の超短期照射についても標準治療となる日はそこまで遠くないかもしれません。
ただそれまでにはもう少しエビデンスの蓄積を待つ必要があります。
参考文献
SBRT for Localized Prostate Cancer: Is it Ready for Take-Off?
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