前立腺癌の治療選択 ― リスク別に考える最適な治療法 【放射線治療医の視点から】
前立腺癌は「治療法が非常に多い癌」です。
手術、放射線治療、ホルモン治療、アクティブサーベイランス、粒子線治療、小線源治療――。
選択肢が多いことは良いことですが、
一方で「どれを選べばよいのか分からない」という悩みも生みます。
本記事では、
世界的権威ある医学誌のランダム化比較試験
大規模データベース研究
診療ガイドライン
長期追跡データ
をもとに、リスク別に治療選択を整理します。
※本記事の後半には筆者の個人的見解も含まれますが、可能な限りエビデンスに基づいて解説します。
結論:治療選択は「リスク」で大きく変わる
前立腺癌は以下の3つに分類されます。
低リスク
中リスク
高リスク
この分類は、
PSA値
病理結果(グリソンスコア)
病期(ステージ)
などを総合して決定されます。
リスクが上がるほど、治療成績は治療法によって差が出やすくなります。
前立腺癌のリスクについて詳しくはこちら
前立腺癌のリスク分類について、表を使いながら、分かりやすく解説しています。
まずはこちらでご自身のリスクを確認してください。
【重要エビデンス】NEJM掲載の大規模ランダム化比較試験
限局性前立腺癌を対象とした大規模ランダム化比較試験が
世界的権威誌 NEJM(New England Journal of Medicine) に掲載されています。
この研究では、
アクティブサーベイランス
手術
放射線治療
の3群を無作為に割り付け、長期成績を比較しました。
結果
前立腺癌特異的生存率:有意差なし
全生存率:有意差なし
ただし、
アクティブサーベイランス群では転移などの進行が多かった
10年間で約20%が進行
逆に言えば約80%は10年間根治治療が不要だった
何が重要か?
低リスクの限局癌では
「すぐに治療しなくてもよい患者が多数いる」という事実です。
低リスク前立腺癌の治療選択
超低リスクの場合
積極的治療は推奨されません。
理由:
治療によるデメリットがメリットを上回るため。
選択肢:
アクティブサーベイランス
経過観察
アクティブサーベイランスとは?
PSA定期測定
MRI
再生検
を行い、悪化したら治療へ移行します。
重要なのは「途中で自己判断で通院をやめないこと」です。
低リスクで余命10年以上
選択肢:
アクティブサーベイランス
手術
放射線治療(外照射)
小線源治療
ポイント
治療成績に大きな差はありません。
そのため、
通院可能か
入院できるか
性機能温存を重視するか
尿失禁リスクをどう考えるか
といった生活スタイルで決めることになります。
中リスク前立腺癌
中リスクはさらに
favorable(予後良好)
unfavorable(予後不良)
に分かれます。
favorable 中リスク
余命10年以上なら
手術
放射線治療
小線源治療
アクティブサーベイランス(症例により)
が選択肢です。
unfavorable 中リスク
ここから治療差が出てきます。
推奨
放射線治療 + ホルモン治療
手術(リンパ節郭清含む)
小線源治療 + 外照射
データ上は、
放射線治療 + ホルモン治療
小線源治療
の方が手術より成績が良好な傾向があります。
「手術の方が後の選択肢が多い」は本当か?
よく言われるのが、
手術後に再発すれば放射線治療ができる
一方、
放射線後は手術が難しい
これは事実です。
しかし注意点があります。
手術後に放射線治療を行うと
高確率で尿失禁が起こるという問題があります。
単に「選択肢が多い」だけで決めるべきではありません。
前立腺癌治療の副作用をまとめた記事はこちら
前立腺癌の放射線治療でおきる副作用の原因・頻度・予防・治療を詳しく解説しています。
高リスク前立腺癌
ここが最も重要です。
データ上の傾向
高リスクになると、
手術の治療成績は大きく低下
放射線治療 + ホルモン治療の方が良好
小線源治療(特にHDR)はさらに良好
という傾向があります。
10年奏効率では
手術は30–60%程度というデータもあります。
放射線治療医の個人的見解
高リスクで余命5年以上なら、
放射線治療 + ホルモン治療が第一選択と考えます。
特にHDR小線源治療は有力ですが、
実施施設が限られます。
ロボット手術(ダビンチ)は成績を向上させるのか?
診療ガイドラインでは
治療成績は従来手術と同等
副作用はやや少ない可能性
とされています。
つまり、
治療成績が向上すると明記はされていません。
ロボット手術の主な利点は副作用軽減であり、
特に高リスク癌で成績が劇的に改善するとは言えません。
ホルモン先行手術は有効か?
近年、
ホルモン治療 → 手術
という症例が増えています。
ただし、
長期データが十分に蓄積されていない
10年以上の成績はまだ明確でない
というのが現状です。
医療技術の進歩が臨床研究を追い越している可能性があります。
放射線治療の進歩と課題
IMRT vs 3DCRT(大規模データベース研究)
消化管副作用:IMRTで有意に減少
泌尿器副作用:大差なし
理由:
尿道は前立腺内部を通るため線量が変わりにくい。
費用対効果の議論は今後の課題です。
小線源治療の位置づけ
前向き研究では
手術より尿失禁が少ない
性機能障害も中期では軽い傾向
長期副作用が比較的少ない
総合的に有力な選択肢です。
ただし実施施設が少なく、技術継承が課題です。
定位照射(SBRT)
治療期間が短い
患者負担が少ない
ただし長期エビデンスは十分でない
陽子線治療
理論上優れる
しかし通常放射線より明確に優れるエビデンスは十分でない
費用対効果が課題
治療選択が複雑化している理由
ロボット手術
ホルモン併用戦略
小線源
SBRT
粒子線治療
選択肢が増えた結果、
専門医でも判断が難しいケースがあります。
将来的には
遺伝子検査
新規画像診断
が層別化に役立つ可能性があります。
治療法をまとめた記事はこちら
複雑化する最新の前立腺癌の治療法について、詳細にまとめた記事になります。
なぜ放射線治療医の意見が重要か
前立腺癌では多くの場合、
最初に受診するのは泌尿器科です。
治療選択はその時点でほぼ決まることが多く、
放射線治療医と直接話す機会は限られています。
しかし、選択肢を知ることは患者の権利です。
尿漏れが気になる方へ
ライフリー 【大容量】 さわやかパッド 男性用 20cc 少量用
治療後の軽い尿漏れが気になる方へ。薄型で目立ちにくく、少量のモレをしっかり吸収。外出時や長時間の会議などでも安心感をサポートする男性用パッドです。
不足しがちな栄養素の補充に
ホルモン療法中は骨密度低下に注意が必要です。カルシウム・マグネシウム・亜鉛・ビタミンDをまとめて補えるサプリメント。日々の食事で不足しがちな栄養素を手軽にサポートします。
まとめ
低リスク:治療差は小さい。生活スタイル重視。
中リスク:放射線+ホルモンや小線源が有力。
高リスク:放射線+ホルモンが有力。手術は慎重に検討。
小線源治療は優れた選択肢だが実施施設が限られる。
新規治療(SBRT・陽子線)はエビデンスを見極める必要あり。
前立腺癌は「正解が一つではない癌」です。
だからこそ、
リスク分類を理解する
各治療の長期データを知る
副作用と生活の質を考える
ことが重要です。
本記事が、治療選択の一助になれば幸いです。
参考文献
Comparative Effectiveness Research in Localized Prostate Cancer: A 10-Year Follow-up Cohort Study
10-Year Outcomes after Monitoring, Surgery, or Radiotherapy for Localized Prostate Cancer.
National Population-Based Study Comparing Treatment-Related Toxicity in Men Who Received Intensity Modulated Versus 3-Dimensional Conformal Radical Radiation Therapy for Prostate Cancer.
Evolving Brachytherapy Boost in Prostate Cancer in the Era of Hypofractionation
Photons, Protons, SBRT, Brachytherapy-What Is Leading the Charge for the Management of Prostate Cancer? A Perspective From the GU Editorial Team
- PMID: 34171236
- DOI: 10.1016/j.ijrobp.2021.01.003




















ディスカッション
コメント一覧
まだ、コメントがありません