前立腺癌の治療選択 ― リスク別に考える最適な治療法 【放射線治療医の視点から】

2017年12月11日

前立腺癌は「治療法が非常に多い癌」です。
手術、放射線治療、ホルモン治療、アクティブサーベイランス、粒子線治療、小線源治療――。

選択肢が多いことは良いことですが、
一方で「どれを選べばよいのか分からない」という悩みも生みます。

本記事では、

  • 世界的権威ある医学誌のランダム化比較試験

  • 大規模データベース研究

  • 診療ガイドライン

  • 長期追跡データ

をもとに、リスク別に治療選択を整理します。

※本記事の後半には筆者の個人的見解も含まれますが、可能な限りエビデンスに基づいて解説します。

結論:治療選択は「リスク」で大きく変わる

前立腺癌は以下の3つに分類されます。

  • 低リスク

  • 中リスク

  • 高リスク

この分類は、

  • PSA値

  • 病理結果(グリソンスコア)

  • 病期(ステージ)

などを総合して決定されます。

リスクが上がるほど、治療成績は治療法によって差が出やすくなります。

前立腺癌のリスクについて詳しくはこちら

前立腺癌のリスク分類について、表を使いながら、分かりやすく解説しています。

まずはこちらでご自身のリスクを確認してください。

【重要エビデンス】NEJM掲載の大規模ランダム化比較試験

限局性前立腺癌を対象とした大規模ランダム化比較試験が
世界的権威誌 NEJM(New England Journal of Medicine) に掲載されています。

この研究では、

  • アクティブサーベイランス

  • 手術

  • 放射線治療

の3群を無作為に割り付け、長期成績を比較しました。

結果

  • 前立腺癌特異的生存率:有意差なし

  • 全生存率:有意差なし

ただし、

  • アクティブサーベイランス群では転移などの進行が多かった

  • 10年間で約20%が進行

  • 逆に言えば約80%は10年間根治治療が不要だった

何が重要か?

低リスクの限局癌では
「すぐに治療しなくてもよい患者が多数いる」という事実です。

低リスク前立腺癌の治療選択

超低リスクの場合

積極的治療は推奨されません。

理由:
治療によるデメリットがメリットを上回るため。

選択肢:

  • アクティブサーベイランス

  • 経過観察

アクティブサーベイランスとは?

  • PSA定期測定

  • MRI

  • 再生検

を行い、悪化したら治療へ移行します。

重要なのは「途中で自己判断で通院をやめないこと」です。

低リスクで余命10年以上

選択肢:

  • アクティブサーベイランス

  • 手術

  • 放射線治療(外照射)

  • 小線源治療

ポイント

治療成績に大きな差はありません。

そのため、

  • 通院可能か

  • 入院できるか

  • 性機能温存を重視するか

  • 尿失禁リスクをどう考えるか

といった生活スタイルで決めることになります。

中リスク前立腺癌

中リスクはさらに

  • favorable(予後良好)

  • unfavorable(予後不良)

に分かれます。

favorable 中リスク

余命10年以上なら

  • 手術

  • 放射線治療

  • 小線源治療

  • アクティブサーベイランス(症例により)

が選択肢です。

unfavorable 中リスク

ここから治療差が出てきます。

推奨

  • 放射線治療 + ホルモン治療

  • 手術(リンパ節郭清含む)

  • 小線源治療 + 外照射

データ上は、

  • 放射線治療 + ホルモン治療

  • 小線源治療

の方が手術より成績が良好な傾向があります。

「手術の方が後の選択肢が多い」は本当か?

よく言われるのが、

手術後に再発すれば放射線治療ができる

一方、

放射線後は手術が難しい

これは事実です。

しかし注意点があります。

手術後に放射線治療を行うと
高確率で尿失禁が起こるという問題があります。

単に「選択肢が多い」だけで決めるべきではありません。

前立腺癌治療の副作用をまとめた記事はこちら

前立腺癌の放射線治療でおきる副作用の原因・頻度・予防・治療を詳しく解説しています。

高リスク前立腺癌

ここが最も重要です。

データ上の傾向

高リスクになると、

  • 手術の治療成績は大きく低下

  • 放射線治療 + ホルモン治療の方が良好

  • 小線源治療(特にHDR)はさらに良好

という傾向があります。

10年奏効率では
手術は30–60%程度というデータもあります。

放射線治療医の個人的見解

高リスクで余命5年以上なら、

放射線治療 + ホルモン治療が第一選択と考えます。

特にHDR小線源治療は有力ですが、
実施施設が限られます。

ロボット手術(ダビンチ)は成績を向上させるのか?

診療ガイドラインでは

  • 治療成績は従来手術と同等

  • 副作用はやや少ない可能性

とされています。

つまり、

治療成績が向上すると明記はされていません。

ロボット手術の主な利点は副作用軽減であり、
特に高リスク癌で成績が劇的に改善するとは言えません。

ホルモン先行手術は有効か?

近年、

ホルモン治療 → 手術

という症例が増えています。

ただし、

  • 長期データが十分に蓄積されていない

  • 10年以上の成績はまだ明確でない

というのが現状です。

医療技術の進歩が臨床研究を追い越している可能性があります。

放射線治療の進歩と課題

IMRT vs 3DCRT(大規模データベース研究)

  • 消化管副作用:IMRTで有意に減少

  • 泌尿器副作用:大差なし

理由:
尿道は前立腺内部を通るため線量が変わりにくい。

費用対効果の議論は今後の課題です。

小線源治療の位置づけ

前向き研究では

  • 手術より尿失禁が少ない

  • 性機能障害も中期では軽い傾向

  • 長期副作用が比較的少ない

総合的に有力な選択肢です。

ただし実施施設が少なく、技術継承が課題です。

定位照射(SBRT)

  • 治療期間が短い

  • 患者負担が少ない

  • ただし長期エビデンスは十分でない

陽子線治療

  • 理論上優れる

  • しかし通常放射線より明確に優れるエビデンスは十分でない

  • 費用対効果が課題

治療選択が複雑化している理由

  • ロボット手術

  • ホルモン併用戦略

  • 小線源

  • SBRT

  • 粒子線治療

選択肢が増えた結果、
専門医でも判断が難しいケースがあります。

将来的には

  • 遺伝子検査

  • 新規画像診断

が層別化に役立つ可能性があります。

治療法をまとめた記事はこちら

複雑化する最新の前立腺癌の治療法について、詳細にまとめた記事になります。

なぜ放射線治療医の意見が重要か

前立腺癌では多くの場合、

最初に受診するのは泌尿器科です。

治療選択はその時点でほぼ決まることが多く、
放射線治療医と直接話す機会は限られています。

しかし、選択肢を知ることは患者の権利です。

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まとめ

  • 低リスク:治療差は小さい。生活スタイル重視。

  • 中リスク:放射線+ホルモンや小線源が有力。

  • 高リスク:放射線+ホルモンが有力。手術は慎重に検討。

  • 小線源治療は優れた選択肢だが実施施設が限られる。

  • 新規治療(SBRT・陽子線)はエビデンスを見極める必要あり。

前立腺癌は「正解が一つではない癌」です。

だからこそ、

  • リスク分類を理解する

  • 各治療の長期データを知る

  • 副作用と生活の質を考える

ことが重要です。

本記事が、治療選択の一助になれば幸いです。

参考文献

Comparative Effectiveness Research in Localized Prostate Cancer: A 10-Year Follow-up Cohort Study

2016 Oct 13;375(15):1415-1424. doi: 10.1056/NEJMoa1606220. Epub 2016 Sep 14.

10-Year Outcomes after Monitoring, Surgery, or Radiotherapy for Localized Prostate Cancer.

2017 Dec 1;99(5):1253-1260. doi: 10.1016/j.ijrobp.2017.07.040. Epub 2017 Sep 1.

National Population-Based Study Comparing Treatment-Related Toxicity in Men Who Received Intensity Modulated Versus 3-Dimensional Conformal Radical Radiation Therapy for Prostate Cancer.

https://www.prostatecancerfree.org/

Evolving Brachytherapy Boost in Prostate Cancer in the Era of Hypofractionation

Photons, Protons, SBRT, Brachytherapy-What Is Leading the Charge for the Management of Prostate Cancer? A Perspective From the GU Editorial Team

Affiliations

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