小細胞肺癌に対する放射線治療の最新動向 ― 1日2回照射から1日1回照射へ?将来の標準治療は変わるのか ―
小細胞肺癌は、肺癌の中でも進行が早く、治療戦略が特殊な疾患です。
放射線治療の分野でも「1日2回照射」という他のがんではほとんど行われない治療法が標準となっています。
しかし近年、治療法を大きく変える可能性のある研究結果が報告されています。
本記事では、
現在の標準治療(1日2回照射)
1日1回の寡分割照射の可能性
線量増加の試み
免疫療法の導入
予防的全脳照射の費用効果
について、順を追って解説します。
1.現在の標準治療:1日2回照射とは?
通常、放射線治療は1日1回照射が基本です。
しかし小細胞肺癌では例外的に、1日2回照射(朝と夕、6時間以上あけて照射)が標準治療となっています。
標準的な治療内容
1回 1.5Gy
1日2回
計30回(15日間)
この方法が標準になった理由は、過去の研究で
1日1回照射よりも1日2回照射のほうが治療成績が良かった
と示されたためです。
現在では、1日2回照射が行われる疾患は非常に限られており、小細胞肺癌はその代表例です。
1日2回照射の課題
1日2回照射は有効ではありますが、
- 通常は入院
通院になると負担が大きい
医療体制への負担も大きい
患者・医療者ともに手間が2倍
という明確なデメリットがあります。
そのため、
もし1日1回で同等以上の成績が出せるなら、そちらに移行したい
と考える医療者は少なくありません。
2.1日1回の寡分割照射は有効か?
近年注目されているのが、1日1回の寡分割照射です。
寡分割照射とは?
1回あたりの線量をやや増やし、回数を減らす方法です。
今回紹介されている研究では、
65Gyを25回
1回 2.5Gy
1日1回照射
という方法が検討されています。
研究結果
結果は、
1日1回の寡分割照射のほうが局所制御に優れていた
副作用は1日2回照射と同等
というものでした。
つまり、
1日1回照射でも、治療効果は劣らない可能性がある
ことが示唆されています。
今後の可能性
まだ標準治療が変更されたわけではありませんが、
通院負担の軽減
医療体制の効率化
患者QOLの向上
を考えると、将来的に1日1回照射が広まる可能性は十分あります。
3.照射線量の増加というアプローチ
もう一つの動きが線量増加です。
従来の標準は
1回1.5Gy × 30回(計45Gy)
今回報告された内容では、
1回1.5Gy
1日2回
計40回
合計60Gy
まで増量し、標準治療より治療成績が改善したと報告されています。
過去にも線量増加の試験は行われましたが、明確な改善は示されていませんでした。
しかし現在は
照射技術の進歩
副作用軽減技術の向上
により、以前より線量増加の恩恵を受けやすくなっている可能性があります。
4.免疫療法の導入
薬物療法の分野では、免疫療法の進歩が目覚ましいものがあります。
非小細胞肺癌ではすでに標準治療が変わっています。
肺癌領域は薬物療法の研究が非常に進んでいる分野であり、
小細胞肺癌でも今後、免疫療法の導入が進む可能性は高い
と考えられています。
現時点では標準治療ではありませんが、近い将来、治療戦略が変わる可能性があります。
5.小細胞肺癌における予防的全脳照射(PCI)
小細胞肺癌では、治療後に**予防的全脳照射(PCI)**を行うことがあります。
これは、
まだ脳転移はない
しかし将来発生する可能性が高い
それを事前に抑制する目的
で行われる治療です。
これまでの多くの研究で有効性は示されています。
予防的全脳照射の問題点
最大の問題は
認知機能低下
です。
全脳照射では記憶に関わる「海馬」も照射されるため、
記憶力低下
認知機能障害
が起こることがあります。
これは改善しない可能性がある副作用であり、QOLに大きく影響します。
6.予防的全脳照射の費用効果
研究では、
MRIサーベイランスのみ:生存期間 10ヶ月
予防的全脳照射あり:生存期間 12.5ヶ月
という結果でした。
しかし、
認知機能低下は予防的全脳照射群で有意に多い
費用効果の面では劣る可能性
が示されました。
海馬回避照射の可能性
海馬を避ける照射方法により、
認知機能低下の軽減
費用効果の改善
が期待されています。
ただし、
脳転移が海馬周囲に発生するリスク
もあり、まだ議論のある領域です。
脳転移に対する定位照射の記事はこちら
少数の脳転移であれば定位照射という強い放射線を当てる方法で治療することが可能です。
多数の脳転移が存在する場合の治療は
脳転移が多数存在する場合には全脳照射が必要になります。
まとめ:小細胞肺癌治療は変わる可能性がある
現在の標準治療は1日2回照射ですが、
1日1回の寡分割照射
線量増加
免疫療法の導入
海馬回避全脳照射
などにより、近い将来、標準治療が変わる可能性があります。
現時点ではいずれも標準治療ではありませんが、
研究の進展によって小細胞肺癌治療は大きく変化する可能性があります。
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よくある質問(FAQ)
Q1. 小細胞肺癌ではなぜ1日2回の放射線治療が標準なのですか?
過去の臨床研究で、1日1回照射よりも1日2回照射のほうが治療成績が良かったことが示されたためです。
その結果、1回1.5Gyを1日2回、計30回(15日間)行う方法が現在の標準治療となっています。
Q2. 1日2回照射のデメリットは何ですか?
1日2回照射は有効な治療法ですが、
入院が必要
患者の身体的・時間的負担が大きい
医療体制の負担も大きい
といったデメリットがあります。そのため、1日1回照射で同等の成績が得られるなら変更したいという考えがあります。
Q3. 1日1回の寡分割照射とは何ですか?
寡分割照射とは、1回あたりの線量を増やし、照射回数を減らす方法です。
紹介されている研究では、65Gyを25回(1回2.5Gy)で1日1回照射する方法が検討されています。
Q4. 1日1回照射は1日2回照射より効果が劣るのですか?
今回紹介された研究では、
1日1回の寡分割照射のほうが局所制御に優れていた
副作用は同等程度
という結果でした。
今後の研究次第では、1日1回照射が広まる可能性があります。
Q5. 小細胞肺癌で線量を増やす治療は行われていますか?
従来の標準治療よりも線量を増やす試みが報告されています。
1回1.5Gyを1日2回、計40回(合計60Gy)照射する方法で、標準治療より治療成績が改善したという報告があります。
Q6. 小細胞肺癌に免疫療法は使われますか?
非小細胞肺癌では免疫療法により標準治療が変わっています。
小細胞肺癌においても、今後免疫療法が導入される可能性が高いと考えられていますが、現時点では標準治療ではありません。
Q7. 予防的全脳照射(PCI)とは何ですか?
小細胞肺癌では、脳転移が確認されていなくても、将来の発生を抑える目的で全脳照射を行うことがあります。
これを予防的全脳照射といいます。
Q8. 予防的全脳照射の副作用は何ですか?
最も重要な副作用は認知機能低下です。
記憶に関わる海馬も照射されるため、治療後に認知機能障害が生じることがあり、改善しない場合もあります。
Q9. 予防的全脳照射は本当に必要ですか?
研究では、
MRIサーベイランスのみ:生存期間10ヶ月
予防的全脳照射あり:生存期間12.5ヶ月
という結果が示されています。
ただし、認知機能低下の増加や費用効果の観点からは慎重な検討が必要とされています。
Q10. 海馬を避ける全脳照射とは何ですか?
認知機能低下を軽減する目的で、記憶に関わる海馬を避けて照射する方法です。
ただし、海馬周囲に脳転移が発生する可能性もあり、有効性についてはまだ議論が続いています。
放射線治療の費用が気になる方は
それぞれの疾患についての費用をまとめています。
費用を決める要素は何なのかを解説。
放射線治療の期間が気になる方は
疾患ごとに想定される治療期間を解説しています。
参考文献
Moderately Hypofractionated Once-Daily Compared With Twice-Daily Thoracic Radiation Therapy Concurrently With Etoposide and Cisplatin in Limited-Stage Small Cell Lung Cancer: A Multicenter, Phase II, Randomized Trial
Fast and Furious: New Data Examining Accelerated Radiation Therapy for Limited-Stage Small Cell Lung Cancer
Cost-Effectiveness of Prophylactic Cranial Irradiation Versus MRI Surveillance for Extensive-Stage Small Cell Lung Cancer
- PMID: 33984410
- DOI: 10.1016/j.ijrobp.2021.04.049
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