放射線治療医の偏在について

目次

1:アメリカでの研究結果
2:治療医の偏在による影響
3:まとめ
4:参考文献

アメリカでの研究の結果

今回の話題は放射線治療医の偏在についてです。

アメリカのデータになりますが、2013年と2017年でそれぞれデータを取得して、放射線治療医が所属するグループ(原文ではpractice)の傾向を調査した研究を紹介します。

この研究では単独で行っている場合、2-10人程度の小規模のグループ、11人以上の大規模なグループに分類しています。

結果として、全米全体で見ると、グループの数は2013年から2017年にかけて約4%ほど減少していました。

いっぽうで放射線治療医じたいは約9%程度増加していました。

グループの規模としては、単独で活動する放射線治療医は11%程度減少し、11人以上の大規模グループは50%増加しているという結果でした。

放射線治療医じたいは増えているものの、多くの医師が、大規模グループに属する形に移行していっており、結果としてグループの数が減っているという傾向が見られました。

そして放射線治療医の約3分の1は、この大規模グループのいずれかに属しているという結果でした。

そしてこの医師が大規模グループに統合されているという傾向は、他のどの診療科よりも放射線治療において顕著にみられるというものでした。

治療医の偏在による影響

放射線治療が他の診療科と比較して統合・集約が進んでいるというのは興味深い結果でした。

たしかに、放射線治療は治療機器じたいも高価なものが多く、多数の病院で個別に持っているよりも、1ヶ所にある程度集約したほうが、コスト的にメリットがあるという側面もあります。

医師としては、集約されていると、大学病院で行うような特殊な治療も習得できる可能性があります。

また、がん治療の研究においては、やはり症例数が重要となるため、そういう面からも1つの施設に集約するほうが、症例数も増やしやすいというメリットがあります。

いっぽうで、当然ながらデメリットも存在します。

集約されるということは競合する施設が無くなるということなので、極端な話、適当な治療を行っていても、患者は集まってくるということになります。

日本では保険診療のため、どこで治療を受けても基本的には費用は同じですが、アメリカのように診療の費用が国によって規定されていない場合には、競合施設が無くなれば、病院の設定した高い治療費を払わざるを得ないという状況も生まれます。

費用面の影響はそれだけでなく、施設が1ヶ所に統合されてしまうと、通院の距離も必然的に伸びるため、通院のための交通費あるいは宿泊費が追加の負担となってのしかかります。

まとめ

こうしてみてみると、放射線治療医の偏在・統合というのは、病院や医療者側にはある程度のメリットがありますが、実際に治療を受ける側でのメリットはそこまで大きくないように感じます。

逆に患者側のデメリットの面が目立つように思います。

アメリカでは医師の偏在・統合が進んできていますが、この傾向は日本でも進む可能性があります。

ご存じのように医療費は年々増え続けており、その影響で保険診療点数を挙げるということも難しく、多くの病院は厳しい経営を余儀なくされています。

そういった中で、放射線治療部門あるいはがん治療部門じたいが統合されていく未来というのも否定しきれないと思います。

良い医療の提供のためにはある程度の多様化も必要であり、画一的な治療しか行われなくなることで、治療の進歩が止まる可能性もあります。

極端な集約化が進むことには注意が必要だと思います。

参考文献

Practice Consolidation Among U.S. Radiation Oncologists Over Time

Affiliations

Does Bigger Practice Size Mean Better for Patients and Providers?

Affiliations

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