治療技術の進歩に臨床研究が追い付いていない
まとめ
解説
今回は癌治療領域における雑記である。
以前の記事でも少し触れたことがある話題であるが、「治療技術の進歩に臨床研究が追い付いていない」ということを最近感じることがある。
治療方法の中でも薬物療法は臨床研究、つまり実際に患者さんに薬物を投与して治療効果を確認するため、臨床研究が追い付かないということは少ない。
もちろん、コロナワクチンのように長期的な影響が不明な状況でも臨床的に使用していく場合もあるが。
いっぽうで、手術や放射線治療では技術の進歩が先行することがある。
手術で言えば、ダビンチのようなロボット支援技術であり、放射線治療であれば治療装置の技術革新・精度向上などである。
極論を言ってしまえば、これらの技術の進歩は実際に疾患の治療に使用されていなくても、技術的に以前のものと優れているということが明確にわかることが少なくない。
薬物は実際に使ってみないとわからないのと比較すると、技術の差はより明確であるということである。
そして技術の進歩は年単位で飛躍的に向上していく。
いっぽうで臨床研究を行う場合には研究自体が非常に長期間必要となる。
疾患によっては5年や10年の研究期間が必要であり、研究において十分な患者数を集めるのにも時間がかかる。
日本のように医療機関があまり集約化されていない状況であれば、十分な症例数を確保することじたいが非常に困難である。
海外であれば、癌治療のような先進的な治療を行える施設というのはそれほど多くなく、大都市に1つという状況も少なくない。
そうすると自然と患者が集約され、研究を行うにしても症例の集積が容易である。
薬物の開発においても、日本の製薬会社でも臨床実験は海外で行うというのはよく聞く話である。
少しそれたが、臨床研究を行うには準備も含めて、非常に長い期間が必要となるのである。
そうするとその研究の結果が出るころには、すでにより優れた治療法が取って代わっており、研究の成果じたいが意味をなさなくなるケースも出てくるということである。
このため、技術的に優れていることが明確な治療法であっても臨床研究によって十分な裏付けなく、広く行われているという状況が起こってくる。
今後はこのような状況はより広い領域で起こってくる可能性がある問題である。
これまでの医療というのは臨床研究から得られた結果をもとに、標準的な治療法が決められているわけであるが、十分な裏付け無く最新の治療が行われるような状況も起こり得ると考えられる。
実際の臨床現場においても、明らかに優れていると考えられる治療法であっても、臨床研究の裏付けが無い場合に、それを本当に治療の場で適応してもよいのかは悩ましいところである。
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