MRI画像を用いた放射線治療は今後普及していくと思われる

まとめ

MRI画像を用いた放射線治療には大きなメリットがあり、治療の正確性の向上が期待できる。骨盤領域が特に治療に向いており、前立腺癌や婦人科癌での適応が広がっていくものと考えられる。

 

 解説

MRI画像のみを用いた放射線治療が現実のものになりつつある。

まず、現在の放射線治療の多くはCT画像をもとに行われている。

歴史的には、当初はレントゲン画像のみを参考に照射を行っていた。

レントゲン画像ではいわゆる2次元の情報のみであり、骨構造はわかりやすいものの、内臓などは明瞭には判別できなかった。

CT画像が一般的になるにつれて、CT画像を用いた放射線治療が普及することになった。

CT画像は3次元情報であり、内臓についても明瞭に区別することができ、放射線治療の精度・正確性は飛躍的に向上した。

そして、近年ではMRI画像を用いた放射線治療が始まりつつある。

日本においてもMRリニアックと呼ばれる、MRIと放射線治療装置が一体となった装置がすでにいくつかの施設で導入されている。

MRI画像のメリットはその解像度の高さである。

MRI画像はCTと同様に3次元の画像であるが、臓器ごとの濃度分解能が優れている、要はそれぞれの臓器の境界がより明瞭に描出されるのである。

このメリットは大きく、CTで撮影してもなかなか臓器や腫瘍が判別しにくいことは少なくない。

特に骨盤領域においてはMRI画像のメリットは大きい。

いっぽうで、MRI画像を放射線治療に用いる場合には超えるべきハードルも少なくない。

まずMRI装置は強力な磁性体である。

聞いたことがあるかもしれないが、MRI装置に金属を近づけると非常に強い力で引き付けられる。

ベルトやボールペンのような、金属がそこまで無いものでも引き寄せられるのである。

仮に時計を持ち込んでしまえば、磁力によって使い物にならなくなってしまう。

この強力な磁性体と治療装置が一体となっているため、治療装置じたいにも対策が施されている。

また、通常の放射線治療においてはCT画像をもとに組織にあたる線量を計算している。

これはCT画像から得られる数値が線量計算に適しているからである。

いっぽうでMRI画像で得られる情報は単純に線量を計算するのには適していない。

専門的になりすぎるので割愛するが、仮にMRI画像のみで線量の計算を行う場合には、計算しやすい形に変換する手間が必要となる。

その他の問題として、MRIで得られた画像は歪みが生じるということである。

CT画像は比較的正確に物体を描出するが、MRIはその性質上歪みが生じやすく、特に画像の辺縁にいくほど歪みが強くなる傾向にある。

放射線治療を行う際には正確性が非常に重要であり、この歪みをできるだけ小さくなるように補正する必要がある。

また、MRI画像の撮影には時間がかかるのも問題である。

検査を受けた人ならわかるが、CT撮影は数十秒程度で終わることが多いが、MRI撮影になると数分~数十分という時間がかかる。

MRIは動きに弱い撮影でもあるので、撮影中に動いてしまうと画像が不鮮明になってしまう。

このため、肺のような呼吸によって動いてしまうような領域はMRIにとっては不得意な部分になる。

ざっと大きな問題点を挙げてみたが、これらのハードルがあったとしても、MRI画像を用いた放射線治療によって得られるメリットもまた大きく、適応が広がってきているわけである。

最も進んでいるのは前立腺癌治療である。

通常の放射線治療であればCT画像をもとに治療を行っていくが、実は前立腺はCTでの判別が難しい臓器でもある。

このため、治療計画にはそれなりの経験が必要となるのだが、MRI画像を用いれば、より正確に前立腺や周囲の臓器が判別可能であり、治療の正確性も向上することとなる。

その他の骨盤内疾患についても、今後適応が進んでいくことが期待される。

具体的には直腸癌や膀胱癌、肛門管癌、婦人科癌などである。

これらは前立腺癌に比べると治療範囲が広くなる傾向にあるため、上に挙げたようないくつかの問題点をクリアしていく必要があるが、徐々に普及していくものと考えられる。

放射線治療は治療装置のみでなく、付随するさまざまな機器の進歩によって精度や成績が向上していく治療であり、MRリニアックの登場により、さらなる治療成績の改善が期待できると考える。

 

参考文献

A Systematic Review of the Clinical Implementation of Pelvic Magnetic Resonance Imaging-Only Planning for External Beam Radiation Therapy

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