乳癌術後の放射線治療において心臓線量の低減はやっぱり大事

まとめ

アジア人であっても心臓に低線量が照射されれば将来的な心疾患リスクが上昇するため、心臓線量の低減は重要である。

 

 解説

最近、左乳癌の方の術後放射線治療が続いたときがあり、心臓線量を気にされている方がいた。

その時には、わずかに当たりますがそこまで気にしなくて良いですよと返事をしていた。

これは自分の認識の中で、日本人においては左乳房への放射線治療で、そこまで心臓に照射されることはないだろうし、もともとの心疾患リスクも高くないため問題にはならないだろうと考えていたからである。

左乳癌術後の放射線治療における心疾患リスクはかなり昔から議論され、研究も重ねられてきた部分である。

ただ、これらのデータは昔の放射線治療をベースにしており、現在ではCT画像を用いてより精密に照射が可能となっている。

また、これらのデータの多くは欧米人を対象としたもので、体格も良く、心疾患リスクも日本人に比べると高い患者群であるという認識であった。

このため、現在の放射線治療において、日本人への照射であればそこまで心疾患リスクを気にする必要もないだろうという認識だったのだ。

今回、紹介する論文は以上の考え方が必ずしも当てはまらないということを示したものである。

対象はアジア人女性で、乳腺の放射線治療において心臓への線量が、将来的な心疾患リスクにどこまで影響するのかを調べたものである。

結果として、心疾患のリスク因子としては、心臓の線量のほかに、高血圧、糖尿病がリスクとなっていた。

いっぽうで、リスクを下げる因子としては定期的な運動習慣であった。

このリスク因子に関して、0-1個の低リスク群では5年および10年後の心疾患の発生率はそれぞれ1.5%、4.7%であった。

これに対して、2-3個の高リスク群では、5年および10年後の心疾患発生率はそれぞれ5.7%、10.2%であった。

もちろん、放射線治療以外の要因で発生する心疾患も含まれている可能性があるが、心臓の線量は明確なリスク因子となるため、下げられるに越したことはない。

特に高リスク群になれば10人に1人は心疾患が発生していることになるので、決して見過ごせない数字である。

この文献の中で定義されている心疾患とは、狭心症や心筋梗塞、心不全、心房細動などで、比較的重篤な有症状のもを定義しているのも注意したい点だ。

アジア人であれば心臓線量についてはそこまで気にしなくても良いのではないかという自分の考えを改める必要があると考えさせられた興味深い結果であった。

参考文献

Risk of Cardiac Disease in Patients With Breast Cancer: Impact of Patient-Specific Factors and Individual Heart Dose From Three-Dimensional Radiation Therapy Planning

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