食道癌に対する放射線治療の最新エビデンスまとめ ― 線量は増やすべきか?陽子線は有効か?照射範囲は? ―

2022年7月3日

まとめ:食道癌の放射線治療で分かっていること

現在のエビデンスから言えることは以下です。

  • 術前化学放射線療法(NAC)は生存率を有意に改善する

  • 放射線の線量を増やしても生存率は改善しない

  • 術前線量は40Gy程度が適切な可能性がある

  • 陽子線治療はX線IMRTと比較して明確な優位性は示されていない

  • 予防的リンパ節照射は不要な可能性がある

つまり、「多く照射すれば良い」という時代ではないというのが現在の考え方です。

1. 術前化学放射線療法(NAC)は本当に有効か?

CROSS試験の結果

食道癌治療を大きく変えたのが「CROSS試験」です。

この大規模試験では、

  • 手術単独

  • 術前化学放射線療法+手術

を比較しました。

結果

  • 10年生存率

    • 手術単独:25%

    • NAC群:38%

有意な改善が認められました。

局所制御率も改善しましたが、遠隔転移には差はありませんでした。

注意点

  • 上部・中部食道癌の症例が少ない

  • T4症例は除外

  • 組織型(扁平上皮癌と腺癌)の詳細解析は十分ではない

食道癌は

  • 欧米:腺癌が多い

  • 日本:扁平上皮癌が多い

という違いがあります。

扁平上皮癌の方が治療感受性が高いことが知られており、結果の解釈には注意が必要です。

2. 放射線の線量は増やすべきか?

線量増加の理論

一般的に放射線治療では、

線量を増やせば腫瘍制御率が上がる

と考えられています。

しかし、食道癌では事情が異なります。

ARTDECO試験

標準線量群 vs 高線量群を比較。

結果

  • 局所制御:差なし

  • 生存率:差なし

  • 副作用:差なし

  • 扁平上皮癌・腺癌ともに差なし

つまり、

線量を増やしてもメリットは示されませんでした。

なぜ線量増加が有効でないのか?

食道は縦隔に位置します。

周囲には

  • 心臓

  • 気管

といった重要臓器があります。

線量増加により、

  • 晩期副作用

  • 致死的合併症

  • QOL低下

が起こり、生存率を打ち消してしまう可能性があります。

現在は

標準線量で十分

というのが一般的見解です。

3. 術前照射は50Gy必要か?40Gyで十分か?

ある研究では、

  • 50Gy群

  • 48.85Gy以下群

を比較しました。

結果

低線量群(約40Gy)の方が生存率が良好

という結果でした。

その理由として考えられること

放射線後の手術は難易度が高くなります。

放射線照射後は:

  • 組織が癒着しやすい

  • 創傷治癒が悪くなる

  • 吻合不全が起こりやすい

高線量照射により手術合併症が増え、
結果として予後が悪化した可能性が示唆されています。

論文では40Gy程度が至適線量ではないかと考察されています。

日本との違い

  • 日本のデータは含まれていない

  • 日本は扁平上皮癌が多い

  • 日本の外科医の技術は高いとされる

私が勤務していた施設では50Gy照射していましたが、
手術合併症が多いという印象はありませんでした。

それでも、

過度な高線量には注意が必要

という示唆は重要です。

4. IMRTで線量増加は可能か?

従来は3DCRTが主流でしたが、
現在はIMRTが広く用いられています。

IMRTでは正常組織への線量を低減できます。

そこで、

  • 高線量群(59.4Gy)

  • 通常線量群(50.4Gy)

を比較しました。

結果

  • 生存期間中央値

    • 高線量群:28.1ヶ月

    • 通常群:26.0ヶ月

  • 有意差なし

IMRTを用いても線量増加の有効性は示されませんでした。

5. 陽子線治療は有利か?

局所進行食道癌に対し、

  • 陽子線

  • X線IMRT

を比較したランダム化比較試験があります。

結果

  • 3年局所制御:約50%(差なし)

  • 全生存率:44.5%(差なし)

  • QOL:差なし

陽子線は理論上、

  • 心臓

への線量を減らせる利点があります。

しかし、

治療成績やQOLの優位性は示されませんでした。

今後の長期追跡が必要です。

6. 予防的リンパ節照射は必要か?

従来、食道癌では

頸部〜心窩部まで広範囲に照射することが一般的でした。

理由は:

  • 早期からリンパ節転移しやすい

からです。

IFI(Involved Field Irradiation)

最近は病変部のみを照射する方法が広まりつつあります。

研究結果では:

  • リンパ節再発は少ない

  • 予後も問題なし

化学療法の進歩により、
予防的照射が不要になってきている可能性があります。

照射野縮小は

  • 心臓・肺への線量低減

  • 副作用軽減

  • QOL向上

につながります。

放射線治療の費用が気になる方は

それぞれの疾患についての費用をまとめています。

費用を決める要素は何なのかを解説。

放射線治療の期間が気になる方は

疾患ごとに想定される治療期間を解説しています。

総まとめ:現在の食道癌放射線治療の方向性

✔ 術前化学放射線療法は有効
✔ 線量増加は有効性なし
✔ 術前は40Gy程度が適切な可能性
✔ IMRTでも線量増加の優位性なし
✔ 陽子線は明確な優位性なし
✔ 照射野は縮小傾向

現在の重要な考え方

これからの食道癌治療は

「多く照射する」から
「適切に、必要最小限に照射する」へ

と変化しています。

副作用低減が
生存率や健康寿命に影響する時代になっています。

直腸癌の記事はこちら

同じく消化器がんのひとつである直腸癌についてまとめています。

肛門癌の記事はこちら

肛門癌は直腸癌と場所は近いですが、性質はだいぶ違います。

口腔ケアに

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食道癌の放射線治療に関するよくある質問(FAQ)

Q1. 食道癌に対する術前化学放射線療法(NAC)は本当に有効ですか?

はい。
CROSS試験では、手術単独と比較して術前化学放射線療法を行った群で10年生存率が25%から38%へ有意に改善しました。
局所制御率も改善しています。ただし遠隔転移については有意差はありませんでした。

Q2. 食道癌では放射線の線量を増やせば治療成績は良くなりますか?

現在のエビデンスでは、線量増加による生存率の改善は示されていません。

ARTDECO試験では、標準線量群と高線量群で

  • 局所制御率

  • 生存率
    に有意差は認められませんでした。

Q3. なぜ線量を増やしても効果が上がらないのですか?

食道は心臓や肺など重要臓器に囲まれています。
線量を増やすことで副作用や合併症が増え、それが生存率に影響している可能性が考えられています。

Q4. 術前照射は50Gy必要ですか?40Gyでは不十分ですか?

ある研究では、50Gy群よりも約40Gy群のほうが生存率が良好という結果が示されました。
高線量照射により、手術時の癒着や創傷治癒遅延が増え、治療成績に影響した可能性が考えられています。

Q5. IMRT(高精度放射線治療)なら線量を増やしても大丈夫ですか?

IMRTを用いて

  • 59.4Gy群

  • 50.4Gy群
    を比較した研究では、生存率に有意差は認められませんでした。

高精度照射を用いても、線量増加の有効性は示されていません。

Q6. 陽子線治療はX線IMRTより優れていますか?

局所進行食道癌におけるランダム化比較試験では、

  • 3年局所制御率

  • 全生存率

  • QOL

いずれも有意差は認められませんでした。

現時点では、陽子線治療の明確な優位性は示されていません。

Q7. 食道癌では広い範囲に放射線を当てる必要がありますか?

従来は予防的リンパ節照射を含め広範囲照射が行われてきました。

しかし、最近の研究では病変部のみに限局した照射(IFI)でも良好な治療成績が得られることが示されています。

Q8. 予防的リンパ節照射は不要になる可能性がありますか?

研究では、IFIでもリンパ節再発は少なく、予後も問題ありませんでした。
化学療法の進歩により、予防的リンパ節照射が不要になる可能性が示唆されています。

Q9. 日本と欧米では結果は同じですか?

食道癌は

  • 欧米では腺癌が多く

  • 日本では扁平上皮癌が多い

という違いがあります。

組織型の違いにより治療感受性が異なるため、海外データの解釈には注意が必要です。

Q10. 現在の食道癌放射線治療の考え方は?

現在の方向性は、

「多く照射する」から
「必要最小限を適切に照射する」へ

と変化しています。

線量増加よりも、副作用低減やQOLの維持が重要視されています。

参考文献

Comparison of Clinical Efficacy of Neoadjuvant Chemoradiation Therapy Between Lower and Higher Radiation Doses for Carcinoma of the Esophagus and Gastroesophageal Junction: A Systematic Review

High-Dose Versus Standard-Dose Intensity-Modulated Radiotherapy With Concurrent Paclitaxel Plus Carboplatin for Patients With Thoracic Esophageal Squamous Cell Carcinoma: A Randomized, Multicenter, Open-Label, Phase 3 Superiority Trial

Affiliations

CROSSing into New Therapies for Esophageal Cancer

Affiliations

Randomized Phase IIB Trial of Proton Beam Therapy Versus Intensity-Modulated Radiation Therapy for Locally Advanced Esophageal Cancer

Involved-Field Irradiation in Definitive Chemoradiotherapy for Locoregional Esophageal Squamous Cell Carcinoma: Results From the ESO-Shanghai 1 Trial

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