乳癌術後の上肢リンパ浮腫:リスク因子と発症時期について

2019年7月23日

Timing of Lymphedema After Treatment for Breast Cancer: When Are Patients Most At Risk?
McDuff SGR1, Mina AI2, Brunelle CL3, Salama L2, Warren LEG4, Abouegylah M2, Swaroop M2, Skolny MN2, Asdourian M2, Gillespie T2, Daniell K2, Sayegh HE2, Naoum GE2, Zheng H5, Taghian AG6

Int J Radiat Oncol Biol Phys. 2019 Jan 1;103(1):62-70. doi: 10.1016/j.ijrobp.2018.08.036. Epub 2018 Aug 28.

 

乳癌術後のリンパ浮腫は治療後の生活の質(QOL)を低下させる重要な症状です。
報告によって発症頻度はさまざまですが、5%程度の少ないものから、50%程度と報告しているものもあります。
診断の基準によっても頻度は異なってくると思われます。

今回はこの乳癌術後のリンパ浮腫のリスク因子および発現時期を紹介したいと思います。

リスク因子

乳癌の治療は、その状態によって様々な治療法が選択されます。
それらの治療の中で、リンパ腫の発生に影響があると考えられているものが、腋窩リンパ節郭清(ALND)センチネルリンパ節生検(SLNB)所属リンパ節への放射線照射(RLNR)になります。

また、BMI高値(いわゆる肥満)、感染上肢の受傷などもリスクとなることが報告されています。

治療法の組み合わせでは、腋窩リンパ節郭清(ALND)を行い、さらにリンパ節領域へ照射(RLNR)をした群がもっともリンパ浮腫のリスクが高く、5年間の経過観察でおよそ30%の人にリンパ浮腫が生じました。

次にリスクが高かったのは腋窩リンパ節郭清(ALND)を行い、リンパ節領域へは放射線治療を行わなかった群で、5年間でおよそ25%の人にリンパ浮腫が生じています。

その他の、センチネルリンパ節生検(SLNB)のみや、腋窩に対して手術療法を行わなかった群では、大きな差は無く、5年間の経過観察でおよそ10%程度の人にリンパ浮腫が見られました。

つまり、腋窩リンパ節郭清(ALND)は術後のリンパ浮腫にもっとも影響する因子であると考えられます。
また、ALNDを施行された患者にリンパ節領域への照射(RLNR)を行った場合は、さらに浮腫の発生率が上がることが分かります。

リンパ浮腫の発生時期

早期(術後3ヶ月~1年)のリンパ浮腫の発生には、腋窩リンパ節郭清の有無が大きく影響しています。

いっぽうで、晩期(術後1年以降)のリンパ浮腫の発生にはリンパ節領域への放射線照射(RLNR)が影響しているという結果でした。

BMI高値(肥満)は早期、後期の両方のリスク因子となります。

手術によるリンパ浮腫の発生は、手術じたいによってリンパの流れが妨害されるためで、その結果、術後早期に発生すると考えられます。

放射線照射によるリンパ浮腫は、放射線による組織の繊維化がリンパ流を妨害すると考えらます。
組織の繊維化には比較的時間がかかるため、放射線照射による浮腫は、手術よりも遅れて出てくるものと考えられます。

ほとんどの症例は術後5年以内にリンパ浮腫が発生しており、これ以降に発症するものは稀と考えられます。

まとめ

乳癌術後のリンパ浮腫発症のおもなリスク因子は、腋窩リンパ節郭清(ALND)、リンパ領域への放射線治療(RLNR)、リンパ節生検(SLNB)、肥満、感染、上肢の受傷などである。

腋窩リンパ節郭清(ALND)はリンパ浮腫発症にもっとも影響する因子である。

腋窩リンパ節郭清で発症するリンパ浮腫は比較的早期(術後1年以内)に起こることが多い。

放射線治療に伴うリンパ浮腫は遅れて(術後1年以降)に発症することが多い。

治療法は疾患の状態によって決定されるため、リンパ浮腫を避ける目的で、治療法を変更する場面は少ないと考えますが、治療法によってどの程度、副作用が発生するのかを理解しておくのは有用と思います。

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