マヌカハニーの臨床での効能・効果・安全性・副作用について:がん治療での適応も含めた まとめ
ハチミツは古代より利用されてきた自然由来の食品です。
ハチミツは単なる食品としてだけでなく、薬に近い形でも利用されてきました。
おもには創傷治癒や歯肉炎の改善、胃腸系の改善を目的として使用されていました。
ハチミツの医学的効果については以前から様々な研究がなされてきました。
最近では、ハチミツに含まれるフラボノイドやフェノール酸といった抗酸化物質による効果に注目が集まっています。
ハチミツの抗酸化作用により、細菌やウイルス、真菌感染に対して有効であり、さらには抗腫瘍効果や糖尿病を改善する効果があると言われています。
また、心血管や神経、呼吸器、消化器といった組織を保護する効果も期待されています。
こういった様々な効果が期待されるハチミツの中でも、特に抗菌作用が強いといわれているのが、マヌカハニーになります。
マヌカハニーはニュージーランドに自生するマヌカの木(Leptosprmum scoparium)の花の蜜を蜂が集めることによって作られます。
マヌカハニーの高い抗菌効果はメチルグリオキサール(methylglyoxal)という成分に由来しています。
このメチルグリオキサールの含有量によって、マヌカハニーはクラス分けされており、抗菌効果が担保されるというシステムになっています。
マヌカハニーはその優れた抗菌効果、抗酸化効果により、医療の面からも注目されている素材です。
このページでは、マヌカハニーの臨床における効能・効果を、がん治療における利用も含めてまとめてあります。
目次
1:創傷治癒効果
2:抗酸化効果
3:がん治療における利用
4:安全性について
5:参考文献
1:創傷治癒効果
古代よりハチミツは創傷治癒という面において頻繁に用いられ、その効果は充分に認識されていました。
ハチミツの創傷治癒効果は、その抗酸化作用、抗菌作用に由来しています。
そしてまた、ハチミツは創傷部を湿潤環境で被覆・保護することにより、治癒をより促進する効果があります。
傷害された皮膚や粘膜面における感染防止は、治癒の遅延につながるためコントロールが重要です。
いっぽうで、安易な抗生物質の利用などは耐性菌発生などの新たな問題を生み出します。
ハチミツやアロエベラといった自然由来の抗菌物質の利用はこういった耐性菌の問題を解決するという側面もあります。
また、ハチミツの利用によって、創傷治癒の期間が短縮することが知られています。
これには2つの要素が関係しています。
1つ目は、ハチミツには傷害された皮膚・粘膜面において炎症物質、炎症細胞が長期間存在することを阻害する効果があります。
炎症物質や炎症細胞は治癒の過程に必要なものですが、逆にこれらが長期間存在してしまうと結果的に治癒が遅れることになってしまいます。
ハチミツにはこういった状態をより早期に正常化する効果があると考えられています。
2つ目は、ハチミツには線維芽細胞や表皮細胞といった、表皮治癒に重要な細胞を誘導する効果があります。
これらの効果が、ハチミツが創傷治癒期間の短縮に貢献していると考えられており、これはマヌカハニーにおいても同様に見られます。
ハチミツの創傷治癒効果は通常の傷だけでなく、火傷のような状態においても有効であると言われています。
ハチミツの利用によって火傷の範囲の縮小や、壊死領域の拡大を予防する効果があります。
ハチミツの抗菌効果には様々な要素が関係しています。
その要素とは、ハチミツに含まれるフェノール酸や、H2O2(過酸化水素)、ハチミツのpH、浸透圧などです。
いっぽうで、マヌカハニーの抗菌効果は、メチルグリオキサール(MGO)が大きく影響しています。
マヌカハニーは非常に多くの細菌において有効であることが示されています。
さらには、通常抗生物質が効きにくいとされているMRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)に対してもマヌカハニーは有効であるとされています。
マヌカハニーは多剤耐性となった細菌に対しても有効に利用できるという大きな可能性を秘めているのです。
また、マヌカハニーのpHは3.5-4.5程度と比較的低いことが知られています。
低いpHの環境は細菌の増殖を抑えるとともに、マクロファージによる細菌の貪食を促進し、繊維芽細胞の活性化や酸素化といった、抗菌効果・治癒促進に有効にはたらきます。
マヌカハニーは潰瘍性大腸炎における炎症環境の改善においても有効であることが報告されています。
これはマヌカハニーの有する抗炎症効果によるものです。
2:抗酸化効果
ハチミツには抗菌効果とともに抗酸化作用があることが知られています。
マヌカハニーには多くのフェノール化合物が含まれており、これらがフリーラジカルの発生を抑制し、その結果、抗酸化作用を発揮します。
自然界には様々な抗酸化作用を有する物質が存在しますが、マヌカハニーはその中でも最高レベルの抗酸化作用と言われています。
フリーラジカルが存在すると周囲の組織を傷害していきますが、抗酸化作用を有することで、そういった組織傷害(いわゆる酸化ストレス)を抑制することができます。
現時点では、マヌカハニーの抗酸化作用による人体への効果といった臨床研究はほとんど無いようです。
多くは細胞を利用したものや動物実験の研究になります。
今後、研究が進めば実際の人体への効果も解明されてくるかもしれません。
3:がん治療における利用
これまでの抗菌効果や抗酸化作用は以前から良く知られてきたハチミツの効果になります。
最近になり、ハチミツの腫瘍細胞に対する増殖抑制効果に注目が集まるようになってきています。
ハチミツの腫瘍細胞に対する効果にはいくつかの作用があると言われています。
腫瘍細胞のアポトーシス(プログラムされた細胞死)を誘発する
含有されるH2O2(過酸化水素)による細胞傷害
腫瘍の増殖過程の阻害
活性酸素の除去 など
マヌカハニーを用いたい研究では、悪性黒色腫や結腸癌、乳癌細胞に対する抗腫瘍効果が報告されています。
ただし、注意が必要なのは、これらは細胞や、動物実験の結果であり、実際の臨床現場で用いられた結果では無いということです。
マヌカハニーの抗腫瘍効果はまだ基礎実験の段階であり、現時点ですぐに臨床で利用できるというものではありません。
現在、がん治療の領域でマヌカハニーの利用が進んでいるのは、治療に伴う副作用を軽減する目的での使用です。
これはこれまでに述べてきたマヌカハニーの性質である創傷治癒の側面を利用したものです。
がん治療の副作用の軽減に関する研究は臨床研究であり、細胞や動物実験ではなく、これらはすでに臨床の現場で行われているものになります。
ここでは2つの研究を紹介します。
1つは、放射線治療に伴う咽頭粘膜炎に対するマヌカハニーの効果の研究です。
(Hawley P, et al. Support Care Cancer 2014; 22:751-761)
耳鼻科領域における放射線治療において、粘膜炎は日常生活レベルを下げる重要な因子となります。
この研究では、なにも使わない群では重篤な副作用が75%に見られたのに対して、マヌカハニー使用群では20%にしか重篤な副作用が見られなかったと報告しています。
この研究の注意点としては、放射線治療のみを行った場合は以上の結果でしたが、化学療法を組み合わせた場合には差が出ていないということです。
この原因として、化学療法によって誘発される嘔気や食思不振などによって、マヌカハニーを充分に使用することができなかった可能性があることが考察されています。
もう1つの研究は、以前にこのサイトでも紹介しましたが、肺癌に対する化学放射線療法における食道炎の軽減効果の有無を調べたものです。
(Fogh SE, et al. IJROBP 2017; 97:786-796)
この研究では、マヌカハニーの使用群と非使用群の比較で、食道炎の症状に明らかな差は見られなかったと報告されています。
いっぽうで、鎮痛薬の使用に関しては、マヌカハニー使用群で少ないという結果でした。
現時点では、マヌカハニーが放射線食道炎の症状軽減に有効であるとは言えないと考えられます。
この記事を記載した時点では、がん治療における副作用に対するマヌカハニーの有効性は、まだ充分に示されたとは言えないと考えます。
しかしながら、今後も同様の研究は行われると考えられ、近い将来に新たな研究結果が発表される可能性は充分にあると考えます。
4:安全性、副作用について
マヌカハニーはこれまでの研究において安全性についても評価されてきました。
その使用によって、アレルギーが生じたり、腎疾患や糖尿病、心臓疾患などが悪くなったりということもありません。
腸内細菌の恒常性についても保たれることが示されています。
マヌカハニーは健常成人において充分にその安全性が確認されている食品です。
調べた限りでは、マヌカハニーの副作用に限定して言及した論文というのは見つかりませんでした。
蜂蜜じたいが食品としても使用されるものなので、副作用もそれほど多くないものと考えられます。
しかしながら、まったく副作用がないというわけでも無く、いくつかの副作用について報告されていましたので紹介しておきます。
アレルギー反応
蜂に対してアレルギーがある人の場合には、ハチミツの摂取によってアレルギー反応が出現することがあります。
血糖値の上昇
経口摂取によって、血糖値が上昇する可能性があります。
ハチミツは血糖値が上昇しにくい食品とは言われていますが、過剰摂取には注意が必要です。
他の薬物との相互作用
経口で摂取する場合、一部の抗凝固薬や抗痙攣薬と相互作用する可能性が示唆されています。
このため、このような薬剤を服用されている場合には、念のため主治医に確認してから摂取したほうが安全でしょう。
ハチミツの注意点としては以下のものがあります。
酵母菌によってハチミツが汚染されてしまうことがあります。そうすると本来の抗菌作用が失われてしまいます。
また、稀ではありますが、命に関わる危険性としてボツリヌス菌による汚染があります。
特に低温殺菌されていないハチミツを使用する際には注意が必要です。
まとめ
マヌカハニーの創傷治癒効果や抗酸化作用は、これまでに多くの研究が行われており、その有効性が実証されています。
いっぽうで、がん治療におけるマヌカハニーの有効性については、まだ充分に実証されているものではありません。
マヌカハニーの抗腫瘍効果については基礎実験の段階であり、臨床への応用はまだ先になると考えられます。
がん治療に伴う副作用の軽減効果も期待されますが、まだ充分な研究結果は得られていないのが現状です。
マヌカハニーは様々な効果を有する自然由来の食品であり、今後も臨床応用にむけて研究が進んでいくものと思われ、臨床分野における更なる進展に期待したいと思います。
5:参考文献
Alvarez-Suarez JM, Gasparrini M, Forbes-Hernandez TY, Mazzoni L, Giampieri F. The Composition and Biological Activity of Honey: A Focus on Manuka Honey. Foods 2014; 3:420-432
Cianciosi D, Forbes-Hernandez TY, Afrin S, et al. Phenolic Compounds in Honey and Their Associated Health Benefits: A Review. Molecules 2018; 23
Hawley P, Hovan A, McGahan CE, Saunders D. A randomized placebo-controlled trial of manuka honey for radiation-induced oral mucositis. Support Care Cancer 2014; 22:751-761
Fogh SE, Deshmukh S, Berk LB, et al. A Randomized Phase 2 Trial of Prophylactic Manuka Honey for the Reduction of Chemoradiation Therapy-Induced Esophagitis During the Treatment of Lung Cancer: Results of NRG Oncology RTOG 1012. Int J Radiat Oncol Biol Phys 2017; 97:786-796
Fernandez-Cabezudo MJ, El-Kharrag R, Torab F, et al. Intravenous administration of manuka honey inhibits tumor growth and improves host survival when used in combination with chemotherapy in a melanoma mouse model. PLoS One 2013; 8:e55993
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