2019年度の日本医学放射線学会総会に参加して思うこと

4月11日から14日にかけてパシフィコ横浜で開催された第78回日本医学放射線学会総会に参加してきたので、その感想を書いていきたいと思います。

1:人が多すぎる

まず、なんといっても人が多すぎました。
これは行く前から予想できていたことではあるのですが。
医療界で最近話題になっている新専門医制度への移行が背景にあります。
これは、これまで学会独自に認めていた「専門医」という資格の認定を、専門医機構という新たな組織に管理をまかせることで、専門医のレベルの均質化をはかろうというものです。
学会各々にまかせていると、基準もレベルもマチマチということが起こりえるからです。
まあ、このお題目はしごく当たり前のように感じるのですが、結局は役人に対する天下り機関なのではという批判もあります。

そして、この新しい制度の影響により、今後の「専門医」の取得、継続がこれまでよりも実質厳しくなってしまったのです。
厳しくなったといっても、取れないわけではないのですが、その条件クリアのためにこれまで以上に労力が必要となりました。
その最たるものが学会参加であり、さらには必要な教育講演の受講なのです。
要は、これまでよりもたくさん学会に来て、指定した講演をたくさん受けてね、というお達しです。
この結果、多くの医師が学会に集中することは想像に難くないでしょう。

さらにこの指定された講演というのがクセモノです。
これは同じ時間帯にそこまで数がありません。
同時間帯に開催される講演を10とすれば、2-3程度なのです。
そうすると一部の講演のみに人が集中し、その他の講演はガラガラといういびつな様相を呈していました。
もちろん、人が集まる講演には広い会場が割り当てられていることが多いのですが、それでも席が足りなくなっていました。
立ち見はまだ良いほうで、地面や階段に座っている人もいました。
これではいったい何をしにきているのかと疑問に思わないほうが無理というものです。

そもそも学会というものは、いろんな人が研究の発表をするというのが基礎であり、その中に教育講演がいくつかあるというのが本来の形かと思います。
研究発表がおろそかになることは、研究活動じたいに水をさす行為です。
昨今は中国や韓国といった国に遅れをとっているとさえ感じる現状ですが、さらに悪い方向へ進んでいきかねないと感じます。

お昼についてもひどい状況でした。
学会の昼の講演では多くの場合、スポンサーの協賛でお弁当つきの講演になるのですが、これは整理券制でした。
この整理券をとるためには、朝一の講演よりも早い時間帯に会場に行かないといけませんでした。
これは私が治療の専門ということもあり、10個程度ある講演の中で治療の講演が1-2個しかなく、競争が激しいというのもあったかと思います(他は診断の講演です)。
ただ、お昼の整理券を取るためだけに朝早く学会場に行くのもむなしいものです。
ここは休日のディズニーランドなのかと思うほどです。

とにかく、現状ははっきり言って学会にとって良い形とは言いがたいです。
今後の是正が必要だと強く感じた学会でした。

2:聴きたい講義が聴けない

前の項目ともかぶるところではあるのですが、結局指定された講演ばかり聴きにいくので、同じ時間帯に興味深い発表があっても聴きにいけないという問題がありました。
指定された講演をとらなければ良いという意見もあるでしょうが、そうすると点数が足り無くなってさらに追加で学会に参加しなければならなくなるということもあります。
その場合、学会費だけでもかなりの出費で、場所によっては交通費・旅費もばかになりません。
当然、余分に業務も休まないといけないわけです。
そこまで余裕のある勤務医というのはあまりいないでしょう。

せっかくの学会参加で知見を広められる機会を狭められているというのは本末転倒であると考えます。

3:JASTROの扱いについて

この日本医学放射線学会というのは放射線診断と放射線治療の合同学会です。
しかしながら、実際的には診断の占める割合が非常に大きいのが現状です。
これは医師の数からして、診断専門医が5000名程度であるのに対して治療専門医は1000名程度と大きな違いがあります。
そのため、講演の内容も、治療に関しては2-3割程度となっています。
まあ、このあたりは上記のパワーバランスもあり、仕方が無いのかなとも感じます。

私が不条理に感じるのは以下の点です。
治療部門には放射線治療学会という治療部門の学会も年に1回開かれています。
しかしながら、治療学会で上記の専門医の単位取得に必要な講演は非常に少ないのです。
仮に総会で10点が取れるとして、治療の学会では2-3点程度しか取れないのです。
つまり放射線治療医は自分たちの学会だけでなく、総会にもあわせて出席しないと専門医の取得・更新ができないのです。
じつは放射線学会には秋季大会という秋に開かれる学会もあるのですが、そちらのほうが治療学会よりも多くの単位を取得できます。
いかに治療学会が軽視されているかという部分ではないかと感じています。

4:AIの話題

最近の流行というと人工知能(AI)です。
これは学会でも同様の傾向があり、AIに関連する講演が非常に多かったです。
特に診断領域はAIの得意とする分野でもあるため、議論も活発でした。
いっぽうで、放射線科領域にAIを適用する難しさについて触れられているような講演もありました。
これは放射線画像診断の複雑さに起因するところです。
たとえば病理検査の診断は画像が最終診断に直接結びつきます。
いっぽうで、画像診断は、CTやMRIの画像もそうですが、組織の変化を画像という形で間接的に判断しています。
このため、AIはより高度な処理が必要となるようです。
またAIの学習のために画像情報だけでなく、病理を含めた様々な検査結果を用意することも困難さを増す要因として挙げられていました。

5:がん治療における新たな話題

放射線治療におけるAIの導入

診断に比べると、治療へのAIの導入はまだ先になりそうな印象です。
個人的に期待しているのは、照射前の位置確認CTで臓器の位置を自動で判別して、さらに線量分布もそれにあわせて変えるという機能です。
早ければ数年で実用化されるのではないかと期待していますが、実用化されるのと実際に自分が使えるようになるのはまた違ったり。

個別化治療の推進

以前から言われていることではあるが、患者個々にあわせて治療選択を選択していくという個別化治療の重要性がさらに増してきているように感じました。
遺伝子検査もより身近になり、リキッドバイオプシーという方法も開発され、腫瘍や個々の特徴がより層別化できるようになってきています。
抗癌剤領域では特に個別化が進んでいると感じます。
いずれこの波は放射線治療領域にも及んでくるのではないでしょうか。
すべての患者に対して一律に標準治療という時代が終わる日が来るのかもしれない。

免疫放射線療法について

免疫放射線量については最近ではPACIFIC試験が個人的にはわりと衝撃的な結果でしたが、それ以降はそこまで大きな結果は出ていないかと思います。
ただ、今後は免疫放射線療法も主流の治療法になっていくと考えられるため、動向をチェックしていく必要があります。

オリゴメタに関する新たな流れ

オリゴメタスタシスは放射線治療の領域ではここ最近よく聞くようになった話題です。
今回の学会ではさらに進んだ議論がなされていました。
これまでのオリゴメタはどちらかというと比較的予後良好な疾患での議論が多かったように思います。
特に大腸癌や乳癌といった経過の長い癌腫が多かった印象です。
さらに個数についても以前よりも多数個でも許容されるような流れになってきている気がします。
これはひとつには免疫放射線療法やアブスコパル治療の情報が蓄積されてきて、多発転移を有する進行癌であっても、治癒を目指せる時代になってきたというのも影響しているのかもしれません。
いずれにしても、転移があればすぐに緩和治療というのは現在のがん治療では当てはまらなくなってきていると感じます。
現時点ですべての進行癌を対象に積極的に治療できるわけではないですが、明るい未来が待っていると予感させる話題でした。

6:まとめ

いろいろと思うところの多い学会でした。
まだ始まったばかりの制度であり、今後改善されていくのを期待したいところです。
講演内容は興味深いものが多かったです。
AIに関してはいつか研究に関連してやってみたいとも思っていますが、個人では難しいかな。
治療の講演も刺激的な内容が多く、日常臨床のモチベーションになりました。
たまに参加すると、やっぱり学会は良いなと思いますね。

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