乳房温存術後の放射線治療は省略可能なのか?
目次
1:術後の放射線治療の副作用
2:術後の治療選択の傾向
3:乳房温存術後の追加治療の有効性は?
4:参考文献
術後の放射線治療の副作用
早期乳癌に対する標準治療は乳房温存術とその後の放射線治療です。
この放射線治療の意味合いとしては、手術によって腫瘍は切除されているものの、その後起こり得る再発を予防するという目的です。
いっぽうで、近年ではこの術後の放射線治療に伴う副作用についてもスポットが当たるようになってきました。
特に長期的な副作用である、心血管障害や二次がんの発生などはその後の生活の質(QOL)や生命予後への影響も少なくありません。
そのような風潮の中で、高齢者の中でも、特に予後が良好と思われる症例において、術後の放射線治療が省略可能なのかということが検討されました。
術後の治療選択の傾向
今回紹介する研究では、13000例以上のデータベースを用いて、66歳以上、ステージI、エストロゲン受容体陽性の乳癌患者で、乳房温存術を受けた症例を対象とした検討です。
この症例を全部で4群に分け、術後にホルモン療法および放射線治療を行われた群を対象例として、ホルモン療法のみ、放射線治療のみ、どちらも行わない群に分類しています。
この研究の観察期間の中で、2007年には放射線治療のみの群は49%を占めていましたが、2012年時点では30%に減少していました。
いっぽうでホルモン治療のみの群は5.4%から9.6%に、またホルモン治療+放射線治療の群は38%から51%に増加していました。
また、80歳以上の高齢者の群で、なにも追加の治療を行わない群やホルモン治療のみ、放射線治療のみの群の割合が増える傾向にありました。
乳房温存術後の追加治療の有効性は?
その後の経過観察の結果についてです。
今回の研究では、経過観察中に発生した新規の乳癌あるいは乳癌の再発をイベントとしてカウントしています。
解析の結果では、ホルモン治療と放射線治療を併用した群を対象として、何も追加治療を行わなかった群および、ホルモン治療のみの群で、治療後の乳癌の発生が有意に多かったという結果でした。
いっぽうで放射線治療のみの群では乳癌の発生は対照群と比較して有意な差はないという結果でした。
その他の乳癌発生にかかわる因子としては、HER2陽性あるいはT1cのステージでした。
以上の結果から、乳癌術後の追加治療において、何も治療を行わない、あるいはホルモン治療のみは、新規あるいは再発の乳癌の発生という観点からはお勧めされないと考えられます。
参考文献
Radiation Without Endocrine Therapy in Older Women With Stage I Estrogen-Receptor-Positive Breast Cancer is Not Associated With a Higher Risk of Second Breast Cancer Events
- PMID: 33974886
- DOI: 10.1016/j.ijrobp.2021.04.030
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