内胸リンパ節領域への照射は乳癌の予後を改善する
目次
1:内胸リンパ節領域への放射線治療
2:予後への影響は
3:今後の治療についての考察
4:参考文献
内胸リンパ節領域への放射線照射
乳癌術後、特に乳房温存療法後に放射線治療を行うのは標準治療となっています。
通常の術後の放射線治療であれば、乳房全体あるいは追加で鎖骨上窩とよばれる部分を照射するのが一般的です。
最近では、上記に加えて内胸リンパ節領域への照射を行う場合もしばしばあります。
内胸リンパ節領域は胸骨と呼ばれる胸の真ん中にある骨の両側沿って上下に存在するリンパ節領域です。
つまり胸の真ん中周囲に上下に存在する部分になります。
この領域にもしばしばリンパ節転移をきたすことがあるため、放射線を照射することは再発をおさえるという点で意味があります。
ただ、この領域への照射で難しいのは、照射範囲がかなり広くなってしまう点です。
照射範囲が広くなると肺や心臓といった周囲の正常組織にも放射線が照射されてしまうため、その後の副作用が大きな問題となります。
予後への影響は
今回紹介する研究では、この内胸リンパ節領域への照射が治療成績にどのように影響しているかを検討したものです。
この研究が対象としているのはステージ2-3の乳癌で、手術前に全身化学療法を受けている症例になります。
放射線は中央値で50Gyが照射され、内胸リンパ節領域へ照射された群と、されていない群に分けられました。
結果として、5年間の無病生存率は、内胸リンパ節領域を照射した群で76.8%、していない群で63.4%でした。
全生存率は、内胸リンパ節領域を照射した群で88.9%、していない群で84.1%でした。
全生存率についてはわずかに有意ではありませんでしたが、無病生存率については両群間で有意な差が見られました。
今後の治療についての考察
今回の結果のみでただちに内胸リンパ節領域への照射が乳癌術後に有効であるとは言えませんが、今後の研究結果によっては、内胸リンパ節領域への照射が標準となっていく可能性もあります。
ただし、上で書いたように内胸リンパ節領域への照射を行う場合は広範囲に照射されるため、それに対する対策が必要不可欠となります。
特に、最近では心臓への照射については、将来的な心疾患のリスクという観点から重要視する流れにあり、すべての症例に内胸リンパ節領域への照射を適応するのも現実的ではないと考えられます。
今回の研究ではステージ2-3で、術前に全身化学療法を受けている症例が対象となっていましたが、どのような症例でより恩恵があるのかも十分に検討されていく必要があります。
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