肛門癌の放射線治療 まとめ

肛門癌というのはあまり聞きなれない病気だと思います。

肛門癌はその名の通り、肛門にできる癌です。

肛門は直腸から連続する出口の部分ですが、直腸にできる癌は直腸癌で、肛門にできる癌は肛門癌と明確に区別されます。

それは直腸癌と肛門癌では発生する組織が異なるため、治療法が違ってくるからです。

この項目では肛門癌について説明していきます。

目次

1:肛門癌の一般的事項
2:肛門癌の放射線治療
3:肛門癌治療の将来展望
4:肛門癌治療のまとめ
5:参考文献

1:肛門癌の一般的事項

まず肛門癌についての説明になります。

上に書いたように、肛門癌は直腸と連続している肛門にできますが、直腸癌とは性質が異なります。

直腸癌は組織型として基本的には「腺癌」になりますが、肛門癌は約90%が「扁平上皮癌」が主になります。

そして扁平上皮癌は放射線治療が効きやすい癌のため、肛門癌では放射線治療が適応されることが多いのです。

肛門癌は以前と比較して発生件数は徐々に増加してきています。

アメリカのデータになりますが、2018年時点の件数は20210年時点と比較して1.5倍以上になっています。

そして肛門癌の原因としてパピローマウイルス(HPV)が影響していると言われています。

HPVは子宮頚癌の原因ともなるウイルスで、ワクチン接種が推奨されています。

子宮頚癌は女性の病気ですが、肛門癌は男女関係なく発生する病気になります。

肛門癌は発見時点で、約半数は局所のみにとどまる状態であり、1/3で周囲のリンパ節に転移が見られ、10-15%に遠隔転移が見つかります。

肛門癌はかつては手術での切除が主流でしたが、近年では放射線治療が行われることが一般的です。

これは上にも書いたように、扁平上皮癌に対して放射線治療が効果的であるというのが理由の一つです。

もう一つは、手術で肛門をとってしまうと、便がそのまま出てしまうことになるため、結果的に人工肛門での管理になってしまいます。

人工肛門をつけた状態での生活はQOLを大きく下げてしまうため、可能であれば避けたいものです。

放射線治療であれば肛門を温存することができるため、人工肛門での管理を必要としないことが大きなメリットと言えます。

2:肛門癌の放射線治療

上にも書いたように、現在では肛門癌に対して手術療法を行うのは稀で、標準的には放射線治療を基本として治療を行います。

治療成績は腫瘍のTステージに依存することが報告されており、T1では良好な治療成績ですが、T4になるにつれて治療成績が悪くなっていきます。

また放射線治療と化学療法を同時に行う、化学放射線療法(CRT)も選択されます。

これまでの研究では放射線治療単独に比較してCRTのほうが腫瘍制御が優れており、将来的に手術が必要となった人の割合も少なかったことが報告されています。

放射線治療に関しては、近年では強度変調放射線治療(IMRT)が適応されることも増えてきました。

IMRTは必要な部分には十分な線量を投与し、周囲の正常組織の線量を減らして治療ができる方法です。

IMRTによって、治療中の副作用を低減することができ、副作用によって治療の中断が起こるリスクを減らすことができます。

これまでの研究ではIMRTのほうが、従来の照射方法よりも生存率や局所制御率などの治療成績が優れていたと報告されています。

また、治療期間が長くなると、治療成績が悪化することが報告されており、放射線治療の1回線量を増やすことで、治療期間を短縮するこころみもなされています。

現時点で推奨される治療法としては、5-FU+MMCの化学療法と放射線治療の併用がエビデンスの高い治療法になります。

3:肛門癌治療の将来展望

肛門癌治療の将来展望として、ひとつは免疫療法の可能性があります。

現時点では臨床試験段階ですが、遺伝子検査等で免疫療法により効果的な型が今後発見されれば、より治療効果を高めることが期待されます。

放射線治療については投与線量の個別化も一つの課題です。

患者それぞれにあわせた投与線量の最適化が理想ですが、実現にはまだまだ時間がかかりそうな印象です。

また治療装置ではMRIリニアックを導入する施設も出てきており、より鮮明な画像でリアルタイムに腫瘍を描出しながら治療することが可能となっており、治療成績の向上が期待できます。

4:肛門癌治療のまとめ

・推奨される治療法は5-FU+MMCの化学療法と放射線治療の同時療法である。

・化学放射線治療(CRT)前の導入化学療法は推奨されない。

・放射線治療の線量は50-59.4Gyが推奨される。

・放射線治療はIMRTの利用が推奨される。

・治療効果の評価は治療後8週間以降が推奨される。治療後26週以降での完全寛解も稀ではないため、長期的なフォローが必要である。

・手術治療は再発病変のために選択肢として残しておくべきである。

5:参考文献

Executive Summary of the American Radium Society Appropriate Use Criteria for Treatment of Anal Cancer

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