限局性前立腺癌における治療選択肢(アクティブサーベイランス、手術、放射線治療)
N Engl J Med. 2016 Oct 13;375(15):1415-1424. doi: 10.1056/NEJMoa1606220. Epub 2016 Sep 14.
10-Year Outcomes after Monitoring, Surgery, or Radiotherapy for Localized Prostate Cancer.
Hamdy FC1, Donovan JL1, Lane JA1, Mason M1, Metcalfe C1, Holding P1, Davis M1, Peters TJ1, Turner EL1, Martin RM1, Oxley J1, Robinson M1, Staffurth J1, Walsh E1, Bollina P1, Catto J1, Doble A1, Doherty A1, Gillatt D1, Kockelbergh R1, Kynaston H1, Paul A1, Powell P1, Prescott S1, Rosario DJ1, Rowe E1, Neal DE1; ProtecT Study Group.
限局性前立腺癌を対象とした、ランダム化比較試験の報告である。
雑誌はNEJMで医療界では非常に権威ある雑誌の一つである。
NEJMは癌治療のみでなく、医療全般を対象としているため、購読者も多く、それだけ影響力も絶大である。
この雑誌にのるだけで、十分なエビデンスを有するといっても過言ではないであろう。
今回の論文は、表題のように限局性前立腺癌を対象とした、大規模なランダム化比較試験である。
限局性前立腺癌は予後の良い疾患であり、それゆえに複数の治療選択肢が提案されている。
癌治療で一般的なのは手術や放射線治療、化学療法であるが、初期前立腺癌においてはアクティブサーベイランスという方法がある。
アクティブサーベイランスは厳密には治療法ではなく、病気の進行が見られるまでは、定期的に経過観察を行い、仮に進行した場合には手術や放射線治療に移行するという方法である。
これは特に前立腺癌が進行のゆっくりした癌腫であるために可能な方法であり、場合によっては不必要な侵襲的治療を回避できるというメリットを持っている。(医療経済的な側面からは、手術や放射線治療を行わないため、安価ですむという指摘もあるが、実際にはそれらを上回る可能性もあると報告されているため現時点では定まってはいない)
今回の研究はこのアクティブサーベイランスと手術、放射線治療の3群に、ランダムに群わけしたうえで、長期的な成績を評価している。
結論から言うと、この3群において、前立腺癌における生存率および全ての疾患を含めた生存率で有意差は見られなかったと報告している。
一方で、アクティブサーベイランス群では癌の転移などの病気の進行が見られた。(もちろんその性質上、進行が見られるまでは治療を行わないため、予想されうる結果ではある)
アクティブサーベイランス群においては10年間の観察期間で、病気の進行が見られたのは約20%程度であった。
逆に考えると10年の経過で残りの約80%は根治的な治療は必要なかったということである。
今回の研究結果から、限局性前立腺癌の治療選択がただちに決定されるというわけではないが、一つの指標になりえると考える。
アクティブサーベイランス群では、病気の進行(転移を含めて)が見られるケースが多かったことから、その後の生存期間の長い若年患者にはあまり向かないであろう。
一方で、80歳以上などの高齢者においては手術や放射線治療は侵襲がつよいため、アクティブサーベイランスを選択するという考え方ができると思われる。
もちろん、これはあくまで私見であり、状況によっては異なる方針となることも十分にあると思われるが。
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