肺癌治療における線量増加の可能性は?

目次
1:肺癌への高線量投与は逆に良くない?
2:肺癌の治療成績を改善するには
3:まとめ
4:参考文献
肺癌への高線量投与は逆に良くない?

放射線治療医は誰しも可能であればできるだけの高線量を投与したいと考えています。
これは高線量を投与したほうが強い治療になるため、局所制御率が上がるからです。
ただ、放射線治療の局所制御は副作用と表裏一体であり、高線量を投与すれば、副作用が増加あるいは重篤化するという側面があります。
このため、様々な研究によって、腫瘍ごとに最適な線量というのが決定されています。
非小細胞肺癌であれば、化学放射線療法で、60Gyというのが一般的な標準の線量になります。
しかしながら、この60Gyではやはり足りないのではないかという意見もあります。
何故なら、局所進行肺癌において、標準の60Gyで治療した際の5年生存率は43%ほどしかないからです。
そして、放射線を照射した範囲における再発の有無が、その後の予後に大きく影響することが分かっています。
つまり、局所制御を改善する余地はまだあり、それによって生存率の改善も期待できるということです。
そこでRTOG 0617という大規模試験が行われました。
RTOG 0617試験では60Gyと74Gyを比較して治療成績が改善するかどうかを調べた研究です。
結果は、74Gyの高線量群で逆に治療成績が悪くなるというものでした。
この結果を受けて、現在は非小細胞肺癌への高線量投与は推奨されないとなっています。
では局所制御を改善する方法は無いのでしょうか?
肺癌の治療成績を改善するには

局所制御を改善する試みとして行われた研究のひとつが、陽子線治療を用いる方法です。
陽子線治療は通常の放射線治療と違って、周囲の正常組織への線量を少なくすることが可能です。
この性質を生かして、腫瘍には高線量を投与するいっぽうで、周囲の組織への副作用を減らすことが可能になります。
この研究によって、肺癌の治療成績が改善することが示されました。
ただ陽子線治療装置はどこにでもあるわけではありません。
通常のX線を用いた放射線治療によって、局所制御を改善する方法が無いかが模索されました。
その一つが、寡分割照射の採用です。
寡分割照射は1回に照射する線量を多くすることで治療期間を短くする治療法です。
放射線治療では、1回線量を多くするほうが、より治療の効果が高くなることが知られています。
そして、この寡分割照射にIMRTと呼ばれる高精度照射を組み合わせることで、陽子線治療と同様に、高線量を投与しつつ、正常組織の線量を減らすことが可能になりました。
この寡分割照射とIMRTを組み合わせた治療法を用いたいくつかの研究では、肺癌の治療成績が改善することが報告されています。
また、いくつかの研究では、化学放射線療法において副作用の一つである血球減少の有無が予後に有意に影響することが報告されています。
そして、別の研究では、寡分割照射を用いた治療では、この血球減少の頻度が少なかったと報告されており、寡分割照射は腫瘍の線量を増やすだけでなく、血球減少の頻度を少なくすることで、治療成績の改善に貢献している可能性が示されています。
まとめ
非小細胞肺癌に対する以前の研究では、線量増加は治療成績を改善せず、むしろ悪化させる可能性が示されていました。
最近になり、陽子線治療あるいは、IMRTを用いた寡分割照射によって治療成績の改善が報告されるようになってきました。
参考文献
Moderately Hypofractionated Proton Beam Therapy for Locally Advanced Non-Small Cell Lung Cancer: A New Way Forward for Dose Escalation?
- PMID: 35772442
- DOI: 10.1016/j.ijrobp.2022.04.023




















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