非小細胞肺癌に対する放射線治療の最前線 ― 高精度照射・免疫療法・線量戦略・再発評価まで徹底解説 ―

2024年12月29日

非小細胞肺癌(NSCLC)の放射線治療は、この20年で大きく進歩しました。
従来の3次元照射からIMRT・VMATへ、そして免疫療法との併用へと治療は進化しています。

本記事では、

  • III期非小細胞肺癌の標準治療

  • IMRT・VMATは本当に有効か?

  • 高線量投与は有利か不利か?

  • 寡分割照射・陽子線治療の可能性

  • 中枢型肺癌の「no fly zone」

  • SBRTの線量と成績

  • 再発の見分け方(CT・PET)

  • Durvalumab維持療法の実臨床

  • PD-L1と予後の関係

  • 予防的全脳照射の是非

  • 巨大腫瘍への定位照射

  • 縦隔病変へのSBRT

  • nimotuzumab併用

まで網羅的に解説します。

III期非小細胞肺癌の標準治療

III期の非小細胞肺癌では化学放射線療法が選択されることが多いです。

従来は3次元照射(2方向・4方向照射)が一般的でしたが、現在はIMRTやVMATといった高精度放射線治療が広く用いられています。

IMRT・VMATは、体の全方向から複雑な形状で照射できるため、

  • 腫瘍には十分な線量を投与

  • 心臓・肺・食道などの重要臓器は回避

が可能です。

その結果、治療効果を保ちながら副作用を減らせるという利点があります。

IMRT・VMATで生存率は改善するのか?

約4000例を対象とした研究では、

  • 通常照射:生存期間中央値 21.2か月

  • IMRT:23.9か月

  • VMAT:24.9か月

と延長傾向が見られました。

しかし統計学的有意差は認められませんでした(p=0.06)。

結論として、

  • 明確な優位性は証明されなかった

  • しかし正常組織線量を下げられる

  • QOL改善に寄与する可能性がある

ため、単純に「不要」と判断するのは早計です。

高線量投与は本当に有効か?

放射線治療では「高線量=強い治療」と考えられます。

III期NSCLCの標準線量は60Gyですが、

5年生存率は約43%であり、改善余地があると考えられていました。

そこで行われたのがRTOG 0617試験です。

60Gyと74Gyを比較した結果、

74Gy群で逆に治療成績が悪化しました。

このため現在は高線量増量は推奨されていません。

治療成績を改善する別のアプローチ

① 陽子線治療

陽子線は正常組織への線量を低減可能で、
腫瘍へ高線量投与が可能です。

この方法で治療成績改善が報告されています。

ただし装置は限られます。

② IMRT+寡分割照射

寡分割照射とは、1回線量を増やし治療回数を減らす方法です。

  • 1回線量が高いほど効果が強い

  • IMRT併用で正常組織線量を抑制

いくつかの研究で治療成績改善が報告されています。

さらに、

血球減少の頻度が少ない
→ 予後改善に寄与する可能性

も示唆されています。

中枢型肺癌と「no fly zone」

かつて中枢型肺癌は「no fly zone」と呼ばれていました。

縦隔近くへ高線量照射すると、
気道出血など致死的副作用のリスクがあったためです。

しかし現在は、

「fly-with-caution zone」へ概念が変化

しています。

HILUS試験

  • 56Gy/8回

  • PTV最大線量150%(84Gy)

主気管支から10mm以内でも
56Gy/8Fr(EQD2 80Gy)までは安全と報告。

ただしPTVマージンが広く、治療期間中の腫瘍変化未考慮という注意点あり。

RTOG0813

  • 10~12Gy ×5回

  • PBT重複部は処方線量105%まで

38か月追跡で重篤副作用は少数。

PBT線量は処方線量100%以内が目安

と考えられます。

SBRTと最大線量の関係

大船中央病院の報告では、

SBRTにおいて最大線量が高い群で

  • 再発率・生存率が有意に良好

  • 副作用差なし

という結果でした。

高線量群では最大BED 222Gy、
低線量群では140Gyでした。

局所制御は有意差なしでしたが、
高線量投与の有効性を示唆する結果です。

5cm以上の巨大肺癌への定位照射

5cm以上の腫瘍にSBRTを行った研究では、

  • 隔日照射のほうが副作用が少ない

  • 中枢・末梢で副作用差なし

という結果でした。

巨大腫瘍では隔日照射が望ましいと考えられます。

縦隔病変へのSBRT

縦隔は重要臓器が多く高線量投与が困難な部位です。

35Gy/5回(中央値)での治療では

  • Grade3以上副作用:約11%

  • 1例Grade5

  • 局所制御は良好

35Gy/5回は現実的な選択肢

と考えられます。

再発をどう見分けるか?

CT所見(3項目以上で再発疑い)

  • 辺縁膨隆

  • 12か月以降の増大

  • 新規腫瘤

  • CT密度増加

  • リンパ節増大

  • 不均一造影 など

PET所見

  • 12か月後SUVmax低下5%未満

  • SUVmax ≥5

  • SUVmean ≥3.44

炎症との鑑別に注意が必要です。

化学放射線療法後のDurvalumab維持療法

PACIFIC試験で有効性が示された治療です。

約2000例の解析では、

  • Grade2肺炎:1.45倍に増加

  • Grade3-5:有意差なし

  • Grade3は予後悪化因子

  • Grade2は予後に影響なし

有用性は維持される結果でした。

PD-L1発現と予後

312例の解析では、

  • PD-L1 50-100%:HR 0.44

  • 1-49%:HR 0.64

  • 1%未満:有意差なし

PD-L1発現は予後と有意に相関しました。

予防的全脳照射(PCI)は有効か?

ハイリスク群(若年・腺癌・EGFR/ALKなど)で

25Gy/10回照射を実施。

結果:

  • 脳転移減少

  • 生存率改善

  • QOL・認知機能低下に有意差なし

海馬回避照射も行われています。

非小細胞肺癌でも
ハイリスク群では有効と報告されています。

脳転移に対する定位照射の記事はこちら

少数脳転移であれば、強い放射線治療である定位照射を行うことで治癒させることが可能です。

全脳照射と定位照射の違いについて解説

脳転移が多数存在する場合には全脳照射が必要になります。

nimotuzumab併用

局所進行肺扁平上皮癌126例の研究。

  • 生存率差なし

  • 脳転移は有意に減少

  • 副作用差なし

フェーズ2段階であり今後の検証が必要です。

まとめ

非小細胞肺癌の放射線治療は、

  • IMRT・VMATの普及

  • 寡分割照射

  • 陽子線治療

  • 免疫療法併用

  • PCIの再評価

など、大きく進歩しています。

単純な線量増量は有効ではありませんが、
高精度化と適切な線量設計が鍵となっています。

今後も治療成績改善の可能性は十分にあります。

肺癌の放射線治療における副作用をまとめています

肺炎のリスクや呼吸機能への影響などを詳しく説明しています。

小細胞肺癌のまとめ記事はこちら

小細胞肺癌の放射線治療は、1日に2回照射する特殊な方法で行います。

小細胞肺癌治療の将来展望までまとめました。

自宅での肺炎チェックに

放射線治療後の肺炎や息切れが気になる方へ。
自宅で酸素飽和度(SpO₂)と脈拍を簡単に測定できるパルスオキシメーターは、体調変化の早期発見に役立ちます。日々の体調管理の目安として活用できます。

栄養状態の改善に

放射線治療中、治療後で食事量が落ちている方に。
メイバランスミニは少量で高カロリー・高たんぱくを補える栄養補助飲料です。無理なく栄養を補いたいときのサポートとして活用できます。

非小細胞肺癌の放射線治療 FAQ

Q1. III期の非小細胞肺癌の標準治療は何ですか?

III期非小細胞肺癌では、化学放射線療法(抗がん剤+放射線治療)が標準治療となることが多いです。
さらに、治療後にDurvalumab(イミフィンジ)による維持療法
を行うことで、生存率の改善が示されています。

Q2. IMRTやVMATとは何ですか?従来の放射線治療と何が違うのですか?

IMRTやVMATは高精度放射線治療です。

従来の3次元照射と比べて、

  • 腫瘍に十分な線量を集中できる

  • 心臓や正常肺など重要臓器への線量を減らせる

という特徴があります。

大規模研究では生存期間延長の傾向はありましたが、統計学的な有意差は示されていません。ただし、副作用軽減やQOL改善への寄与が期待されています。

Q3. 放射線の線量は高いほど効果がありますか?

必ずしもそうではありません。

III期非小細胞肺癌で60Gyと74Gyを比較したRTOG 0617試験では、74Gyの高線量群で治療成績が悪化しました。

現在は60Gyが標準線量とされています。

Q4. では治療成績を改善する方法はありますか?

以下の方法が検討されています。

  • 陽子線治療:正常組織線量を抑えながら高線量投与が可能

  • IMRT+寡分割照射:1回線量を増やし治療効果を高める

これらの方法では治療成績改善の報告があります。

Q5. 「no fly zone」とは何ですか?

中枢型肺癌(縦隔に近い腫瘍)は、かつて高線量照射が危険とされ「no fly zone」と呼ばれていました。

現在は技術進歩により「fly-with-caution zone(注意して照射可能な領域)」と考えられています。

ただし、近位気管支(PBT)の線量は処方線量100%以内が目安とされています。

Q6. SBRT(定位放射線治療)では最大線量が高いほうが良いのですか?

報告では、腫瘍内の最大線量が高い群で再発率や生存率が良好でした。
副作用の増加は認められませんでした。

ただし局所制御では有意差は示されていません。

Q7. 5cm以上の大きな肺癌にも定位照射は可能ですか?

5cm以上の腫瘍に対するSBRTの研究では、

  • 隔日照射のほうが副作用が少ない

  • 中枢・末梢で副作用差はなし

と報告されています。

巨大腫瘍では隔日照射が望ましいと考えられます。

Q8. 縦隔病変にもSBRTは可能ですか?

35Gy/5回程度の照射では、

  • Grade3以上の副作用:約11%

  • 1例でGrade5

  • 局所制御は良好

という結果でした。

慎重な適応判断が必要ですが、現実的な選択肢と考えられます。

Q9. 放射線治療後の再発はどのように判断しますか?

■ CTで再発を疑う所見

  • 辺縁膨隆

  • 12か月以降の増大

  • 新規腫瘤

  • リンパ節増大

  • 不均一造影 など

3項目以上該当すると再発の可能性が高いとされます。

■ PETで再発を疑う所見

  • 12か月後SUVmax低下5%未満

  • SUVmax 5以上

  • SUVmean 3.44以上

炎症との鑑別に注意が必要です。

Q10. Durvalumab(イミフィンジ)は肺炎のリスクを高めますか?

約2000例の解析では、

  • Grade2肺炎は1.45倍に増加

  • Grade3-5肺炎は有意差なし

Grade3肺炎は予後悪化因子ですが、Grade2は予後に影響しませんでした。

Q11. PD-L1の発現は予後に関係しますか?

PD-L1発現は予後と有意に相関しました。

  • 50–100%:ハザード比 0.44

  • 1–49%:ハザード比 0.64

  • 1%未満:有意差なし

PD-L1が高いほどDurvalumabの効果が期待されます。

Q12. 非小細胞肺癌でも予防的全脳照射(PCI)は有効ですか?

ハイリスク群(若年・腺癌・EGFR/ALKなど)では、

  • 脳転移発生率減少

  • 生存率改善

  • QOL・認知機能低下に有意差なし

という結果でした。

認知機能低下を避ける目的で海馬を避けた照射が行われています。

Q13. nimotuzumab併用は有効ですか?

局所進行肺扁平上皮癌で、

  • 生存率に差なし

  • 脳転移減少

  • 副作用に差なし

という結果でした。
現在はフェーズ2段階であり、今後の研究結果が待たれます。

参考文献

A Comparison of Radiation Techniques in Patients Treated With Concurrent Chemoradiation for Stage III Non-Small Cell Lung Cancer

Performing SBRT in the Fly-With-Caution Zone: Are We Heeding the Advice of Daedalus?

Affiliations

Prognostic and Predictive Role of PD-L1 Expression in Stage III Non-small Cell Lung Cancer Treated With Definitive Chemoradiation and Adjuvant Durvalumab

Affiliations

Moderately Hypofractionated Proton Beam Therapy for Locally Advanced Non-Small Cell Lung Cancer: A New Way Forward for Dose Escalation?

Affiliations

A Systematic Review Into the Radiologic Features Predicting Local Recurrence After Stereotactic Ablative Body Radiotherapy (SABR) in Patients With Non-Small Cell Lung Cancer (NSCLC)

Affiliations

Pneumonitis After Chemoradiotherapy and Adjuvant Durvalumab in Stage III Non-Small Cell Lung Cancer

Stereotactic Body Radiation Therapy With a High Maximum Dose Improves Local Control, Cancer-Specific Death, and Overall Survival in Peripheral Early-Stage Non-Small Cell Lung Cancer

Prophylactic Cranial Irradiation in Patients With High-Risk Metastatic Non-Small Cell Lung Cancer: Quality of Life and Neurocognitive Analysis of a Randomized Phase II Study

Prophylactic Cranial Irradiation Reduces Brain Metastases and Improves Overall Survival in High-Risk Metastatic Non-Small Cell Lung Cancer Patients: A Randomized phase 2 Study (PRoT-BM trial)

2017 Mar 15;97(4):778-785. doi: 10.1016/j.ijrobp.2016.11.049. Epub 2016 Dec 2.

Influence of Fractionation Scheme and Tumor Location on Toxicities After Stereotactic Body Radiation Therapy for Large (≥5 cm) Non-Small Cell Lung Cancer: A Multi-institutional Analysis.

Concurrent Chemoradiation Therapy With or Without Nimotuzumab in Locally Advanced Squamous Cell Lung Cancer: A Phase 2 Randomized Trial

Stereotactic Body Radiation Therapy for Mediastinal and Hilar Lymph Node Metastases

※当サイトはAmazonアソシエイトとして、適格販売により収益を得ています。

広告