放射線治療の副作用:放射線宿酔
この項目では、放射線治療における副作用のひとつである、放射線宿酔について解説します。
放射線宿酔は放射線が体に照射されることによっておこる副作用で、基本的にはどの放射線治療でも起こる可能性のある症状です。
このため、放射線治療を受けるすべての人が経験する可能性があり、放射線治療中の体の不調はもしかしたら放射線宿酔によるものかもしれません。
(※放射線治療以外でも、例えば放射線被曝といった状況でも宿酔は出現しますが、ここでは治療に限定して記載しています)
目次
1:原因(機序・リスク因子)
機序
じつは放射線宿酔の原因は良く分かっていない部分もあります。
放射線宿酔の具体的な症状は下で説明していますが、これは放射線治療以外の原因でも起こりえるものです。たとえば、化学療法や貧血でも同様の症状は起こります。
このため、症状の原因を特定するのが難しく、厳密にその機序を解き明かすのも難しくなるのです。
また人によっては様々な要因が複合的にからみあった結果として症状が出ている場合もあります。
そういった意味では放射線治療のみに限定した症状と捉えるよりも、癌治療において出現しうる症状と解釈したほうが適当な場合もあるかもしれません。
ここでは宿酔の原因と考えられているものをいくつか挙げておきます。
放射線照射に伴う細胞死
放射線照射に伴う炎症反応およびサイトカインの放出
放射線治療は腫瘍細胞を死滅させる目的で行いますが、腫瘍細胞と同様に正常組織の一部も治療によって死んでいきます。
正常な細胞が死ぬことによって、それ自体が組織の機能低下の原因となります。
同時に周囲の残存する細胞に対しても影響し、残存した細胞の機能も低下させます。
また、放射線が照射された組織には炎症が起こります。
炎症では様々なサイトカインと呼ばれる炎症物質が放出されます。
サイトカインは本来、炎症に対する体の防御機構のようなものですが、症状の原因にもなります。
このような炎症物質が血中に放出されることで、宿酔の症状が出てくると考えられています。
リスク因子
放射線宿酔のリスクは以下のようなものになります。
頭部、乳腺、腹部への照射
広い範囲への照射(全身照射など)
照射量が多い治療
宿酔の症状は、他の治療や原因でも起こることがあります。
たとえば、化学療法との併用や、治療に伴う貧血、摂食不良、甲状腺機能低下などは同様の症状をきたしえます。
これらの要因が複合的に影響して宿酔となる場合もあるため、こういった要因もひとつのリスクと言えるかもしれません。
2:症状
時期
放射線宿酔は放射線治療に付随した症状であり、基本的に症状が出現するのは治療を受けている間だけになります。
症状じたいは比較的早期から出現する可能性があります。
皮膚炎や粘膜炎などは治療開始から2週間程度で出てきますが、宿酔は初回の治療後から出る場合もあります。
治療後は症状は比較的すみやかに消えていきます。
治療終了の翌日から症状が改善することも珍しくありません。
逆に治療後も長期にわたって症状が継続するようであれば、宿酔ではない可能性があります。
症状
放射線宿酔のおもな症状は以下のとおりです。
頭痛
悪心
嘔吐
めまい
全身倦怠感 など
これらはすべての症状が起こるわけでは無く、また個人差もあります。
照射される部位によっても出やすい症状が異なります。
頭部への照射では頭痛や悪心、めまいなどの症状が出る可能性があります。
逆に乳腺や腹部の照射で頭痛やめまいが出ることは少ないです。
重要なことは、放射線宿酔の症状には様々な程度がありますが、日常生活に影響するような症状を経験する頻度はそこまで高くないということです。
また、仮に症状が出現しても、治療後に比較的速やかに消失していきます。
このような症状が起こるかもしれないということを知っていることは重要ですが、必要以上に不安に感じないことも大事だと思います。
3:治療
放射線宿酔への対応はその症状の程度によって異なります。
比較的軽度な症状であれば、治療中であっても徐々に改善していくことも多いため、経過観察する場合が多いです。
また、上でも書いたように、放射線以外の貧血や化学療法といった原因でも同様の症状をきたすため、そういった要因が無いかどうか確認する必要があります。
もし放射線治療以外の要因があるようであれば、それに対する治療を行うことになります。
放射線宿酔で強い症状が出る場合には、それぞれに対する対症療法となります。
頭痛が強ければ鎮痛薬、嘔気が強ければ吐き気止め、といった感じになります。
症状によっては漢方薬を使用する場合もあります。補中益気湯や十全大補湯などが処方されますが、実際に漢方薬が処方される場面は少ないと思います。
4:放射線治療後に注意すること
基本的に宿酔の症状は、治療が終了すれば比較的すみやかに改善していきます。
このため、治療後長期にわたって症状が持続することはほとんどありません。
また放射線宿酔じたいがなんらかの後遺症を残すことも稀です。
もし治療後も症状が持続する場合には、放射線治療以外の原因の可能性が高いです。そのような場合には主治医に相談し、適切な検査・治療を受けるようにしてください。
5:参考文献
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Hofman M, Ryan JL, Figueroa-Moseley CD, Jean-Pierre P, Morrow GR. Cancer-related fatigue: the scale of the problem. Oncologist 2007; 12 Suppl 1:4-10
UpToData○R Treatment of radiation injury in the adult
がん・放射線療法2017 秀潤社
放射線治療計画ガイドライン2016年版 金原出版
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