乳房温存術後の放射線治療は寡分割照射の先へ
まとめ
解説
最近は日本においても乳癌の温存術後の放射線治療において寡分割照射が根付いてきたような印象がある。
寡分割照射とは通常照射(25回)の治療よりも回数を少なくし(16回)、その分1回の照射量を少し多くする治療法である。
特に昨今のコロナ禍により、治療期間の短縮の意義がより大きくなってきているようで、これまで採用されていなかった病院でも寡分割照射を行うようになってきているようである。
まだガイドライン上は若年女性には適応できないが、今後知見がより集積されてくれば適応も拡大していくものと思われる。
いっぽうで、海外ではより先進的な乳癌術後の放射線治療も広まってきているので紹介したい。
まずひとつはAPBIと呼ばれるもので、通常の放射線治療であれば乳房全体に照射を行うが、これは病変部に絞る形で照射をするものである。
APBIは通常のX線治療装置を用いて行うもののほかに、小線源治療といって、乳房に一時的に針を刺して、その中に放射線が出る線源を通すことで組織内部から照射をするという方法も行われている。
APBIはおもに5回~10回程度で治療が終了し、局所の治療成績も治療後の美容面についても、これまでの通常照射と遜色ないことが多くの研究で示されている。
APBIについてはこれまでにも多くの研究でその有効性が示されているが、最近、新たに報告されるようになってきているのがAWBIである。
APBIが病変部に限局して照射をするのに対して、AWBIはこれまでの通常照射と同様に、乳房全体を照射するものである。
通常照射であれば50Gyを25回にわけて照射するが、AWBIでは26-30Gy程度を5回で照射する。
FAST studyでは5回治療ではあるが、週1回のみの照射であったため、結果的には5週間かかる治療であった。
FAST-Forward studyでは通常照射と同様の5回、5日間の治療となっている。
最近になり、これらの照射の長期的な成績が報告され、良好な局所成績が示されたことでより注目が集まっている。
特にイギリスでは、コロナ前のAWBIの採用率は0.2%であったが、コロナ禍となり短期照射の需要が急激に上がったことで、採用率は60.6%まで達したと報告されている。
この状況はコロナ感染の落ち着きとともに、また下がっていくとは思われるが、APBIやAWBIといった超短期照射の需要はそれなりにあると考えられる。
以上のほかにIORTという方法も報告されている。
IORTは術中照射と言われるもので、手術の際に同時に放射線も照射してしまうというものである。
ある意味で、最も短期間に照射が終了してしまうものではあるが、実は治療成績はそこまで良くなく、通常の照射と比較して局所再発が高くなることが報告されている。
術中照射は通常の照射に比べて準備も大変であり、照射の正確性を担保するのもなかなか難しいという面があるのかもしれない。
日本ではようやく寡分割照射が広まってきた状況ではあるが、海外においてはAPBIやAWBIといったより短期の治療に向けてすでに進み始めているのである。
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