小細胞肺癌に対する予防的全脳照射の費用効果を評価する
目次
1:小細胞肺癌における予防的全脳照射
2:予防的全脳照射の費用効果
3:まとめ
4:参考文献
小細胞肺癌における予防的全脳照射
小細胞肺癌の治療において、化学療法あるいは化学放射線治療によって腫瘍が制御された場合、その後に予防的全脳照射を行うことがあります。
これは予防的と書いてありように、脳転移が存在するわけではないのですが、今後出てくる可能性があり、それを事前に抑制するという目的で行われるものです。
これまでの多くの臨床研究において、予防的全脳照射の有効性は示されており、現在もしばしば行われる治療です。
いっぽうで、予防的全脳照射に伴うデメリットも存在します。
全脳照射における重要な副作用としては認知機能低下があります。
全脳を放射線で照射した場合、海馬と言われる記憶領域も照射されることになるのですが、それに伴い照射後に認知機能障害が発生することがあり、それが治療後のQOLに大きく影響する場合があります。
放射線治療の副作用は一時的なものも多いですが、一度発生すると改善しない副作用もあり、認知機能障害も改善しない副作用の一つです。
今回紹介する研究では、この予防的全脳照射の費用効果について検討したものになります。
予防的全脳照射の費用効果
この研究では、小細胞肺癌に対する予防的全脳照射と、MRIを用いたサーベイランスを比較検討しています。
結果として、MRIでのサーベイランスのみを行った場合、期待される全生存期間は10ヶ月であったのに対して、予防的全脳照射を行った場合は12.5ヶ月でした。
いっぽうで、予防的全脳照射群では認知機能低下が有意に多いという結果でした。
この結果から、期待される生存期間は予防的全脳照射群で長くなるものの、認知機能低下の点を考慮され、予防的全脳照射は費用効果で劣るという結論でした。
また、この研究では、予防的全脳照射において、海馬を避けた照射を行うことで、この認知機能低下を避けることが期待され、費用効果についても改善する可能性があると言及されています。
海馬を避ける照射は認知機能低下を避けることが期待されますが、いっぽうで周囲の脳組織は充分に照射されなくなるため、その領域に脳転移が発生するリスクがあり、本当に有効であるのかどうかはまだ議論のある領域です。
まとめ
予防的全脳照射は小細胞肺癌において有効な治療法ではありますが、費用効果の面からすると、MRIを用いたサーベイランスに比べて劣る可能性があります。
海馬を避けた予防的全脳照射の有効性が大規模試験で示されれば、予防的全脳照射の費用効果も改善することが期待されます。
参考文献
Cost-Effectiveness of Prophylactic Cranial Irradiation Versus MRI Surveillance for Extensive-Stage Small Cell Lung Cancer
- PMID: 33984410
- DOI: 10.1016/j.ijrobp.2021.04.049
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