前立腺癌治療後の経過観察と再発時の治療まとめ ― PSAの見方・PSMA-PET・オリゴ転移・サルベージ治療・2次癌まで徹底解説 ―

前立腺癌は、手術・放射線治療・ホルモン治療など複数の選択肢がある疾患です。
しかし本当に重要なのは、
「治療が終わったあと、どう経過をみていくか」
「再発した場合に何ができるのか」
という点です。
前立腺癌は治療後10年以上経ってから再発することもある腫瘍であり、長期的な視点が必要になります。
本記事では、
-
治療後のPSAの見方
-
経過観察期間はいつまで?
-
PSAバウンスとは何か
-
再発時の治療選択肢
-
PSMA-PETの役割
-
オリゴ転移に対する定位照射
-
放射線治療後のサルベージ治療
-
2次癌の問題
まで、体系的にまとめます。
1. 前立腺癌治療後の経過観察で最も重要なもの:PSA
前立腺癌において、治療後再発の最も鋭敏な指標はPSAです。
画像よりも早く変化します。
放射線治療後6か月のPSAは予後予測因子になりうる
532例を対象とした研究では、
-
3D治療またはIMRT
-
78Gy/39Fr または 70Gy/28Fr
-
全例ADT併用
という条件下で検討されています。
結果:
治療6か月後のPSAが0.1 ng/mlより高い群は予後不良
と報告されています。
すぐに臨床へ適用できるわけではありませんが、
一つの重要な指標になりうると考えられます。
2. SBRT後のPSAの特徴
SBRT(体幹部定位照射)は、
-
通常照射;35〜39回
-
SBRT;5〜7回で終了
という短期照射法です。
研究では、
-
35〜40Gy / 5回
-
ホルモン治療なし症例のみ
を対象としています。
nadir PSA(最も低いPSA)までの期間
最もPSAが低くなるまで
平均40か月(約3年)
つまり、
SBRT後のPSA低下はゆっくりである
ことが分かります。
nadir PSAは再発予測因子
-
平均nadir PSA:0.2 ng/ml
-
nadirが低いほど再発しにくい
十分にPSAが下がらない症例では
より注意深い経過観察が必要です。
PSAバウンスとは?
治療後、一時的にPSAが上昇する現象。
-
約26%で発生
-
平均18か月後に出現
重要なのは、
PSA上昇=即再発ではない
ということ。
慌てて治療を開始すると、
不要な治療をしてしまう可能性があります。
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3. 経過観察はいつまで必要か?
一般的な癌では「5年」が一区切り。
しかし前立腺癌では事情が異なります。
研究では、
-
治療後10〜12年までは再発が一定数見られる
-
それ以降は頻度が減少
つまり、
一つの現実的な区切りは「10年」
もちろん10年以降も再発はありますが、
頻度としては低下します。
実際の観察期間は、
-
年齢
-
初期リスク
-
医療体制
によって個別判断になります。
4. 放射線治療後再発の問題点
放射線治療後は、
-
組織の癒着
-
治癒不良
により、
手術が極めて困難
このため、従来は
ホルモン治療が中心
となってきました。
5. サルベージ小線源治療という選択肢
低リスク前立腺癌において、
放射線治療後再発に対し
小線源治療が検討されています。
結果:
-
局所コントロールは良好
-
ただし生物学的再発は徐々に増加
理由は明確で、
小線源治療は局所治療だから
遠隔再発は制御できません。
しかし将来的に
-
ホルモン治療
-
放射線治療
と組み合わせることで
より良い成績が期待されます。
6. サイバーナイフによる再照射
50例の研究:
-
初回75.6Gy
-
再発まで中央値8年
-
サイバーナイフ 6.8Gy ×5回(34Gy)
結果:
-
5年非再発生存率 60%
-
Grade3以上泌尿器副作用 8%
-
消化管重篤副作用なし
放射線後再発に対する
有望な選択肢の一つです。
放射線治療の副作用
放射線治療は有効な治療法ですが、副作用について正しく理解しておくことも重要です。排尿症状や消化管症状、長期的な影響について詳しくまとめていますので、気になる方は以下の記事をご参照ください。
7. PSMA-PETとは何か?
PET検査は核医学検査の一種。
通常はFDG(糖代謝)を使用します。
PSMA-PETは、
前立腺癌特異的マーカーPSMAを可視化する検査
従来検査よりも鋭敏です。
※日本では現時点で保険適応外
8. PSMA-PETの有用性(再発診断)
79例の再発症例比較:
| 従来検査 | PSMA-PET | |
|---|---|---|
| 病変不明 | 33% | 10% |
| リンパ節再発 | 11% | 27% |
| 遠隔転移 | 15% | 30% |
| オリゴ転移 | 10% | 27% |
つまり、
見逃しが大幅に減少
特にオリゴ転移検出率向上は
積極治療につながります。
オリゴ転移について
「転移がある=全身治療しかない」と思っていませんか?
転移が少数に限られる“オリゴ転移”では、定位照射などの局所治療が有効な可能性があります。オリゴ転移の考え方と最新エビデンスを詳しく解説しています。
術後症例での予後予測
PSMA-PETでリンパ節転移があると
→ 遠隔転移リスク上昇
転移パターンは:
-
腹部リンパ節
-
骨(骨盤とそれ以外)
9. オリゴ転移に対して定位照射を行った結果
SABR-COMET試験
-
5個までの転移
-
8年OS:27.2% vs 13.6%
定位照射群で有意に結果が良好。
ORIOLE試験(前立腺癌)
-
3個まで
-
6か月進行:19% vs 61%
-
PFS中央値:未到達 vs 5.8ヶ月
有意に改善。
STOMP試験
-
PFS 21ヶ月 vs 13ヶ月
-
統計学的有意差なし(P=0.11)
PSMA MRgRT試験
-
60%でPSA低下
-
22%生物学的寛解
-
長期追跡で59.4%効果維持
注意点
他癌種では有効でない例もあり、
-
CURB試験(乳癌では無効)
-
頭頚部癌でも差なし
つまり、
オリゴ転移は一様ではない
適応は慎重に判断が必要。
10. 2次癌の問題
長期生存時代の課題。
900例弱の研究:
-
ホルモン+放射線群
-
ホルモン単独群
結果:
-
尿路系癌は放射線併用群で有意に増加
-
しかし生存期間は併用群が有意に長い
-
15.3年 vs 12.8年
-
つまり、
2次癌は増えるが、生存利益は上回る
と考えられます。
まとめ:前立腺癌治療後に本当に重要なこと
✔ PSAは最重要指標
✔ 6か月PSAとnadir PSAは予後指標
✔ PSAバウンスを理解する
✔ 経過観察は10年が一つの目安
✔ 放射線後再発には再照射という選択肢もある
✔ PSMA-PETは再発診断を変える可能性
✔ オリゴ転移には定位照射が有望
✔ 2次癌のリスクも理解しておく
今後への期待
高齢化社会において、
前立腺癌を長期的にコントロールすることは非常に重要です。
PSMA-PETの普及、
精度の高い局所治療の発展により、
再発=全身治療のみ
という時代は変わりつつあります。
医療費の問題はありますが、
日本でもPSMA-PETがより広く受けられる未来が期待されます。
よくある質問(FAQ)
Q1. 前立腺癌治療後のPSAはどのくらいまで下がれば安心ですか?
治療法によって異なりますが、放射線治療後ではPSAはゆっくり低下します。
SBRT後では最も低くなる(nadir)まで平均約40か月かかると報告されています。
また、治療6か月後のPSAが0.1 ng/mlより高い場合は予後不良であったという報告もあります。
最も重要なのは、PSAが継続して上昇していないかどうかです。
Q2. PSAが一時的に上がりました。再発ですか?
必ずしも再発とは限りません。
放射線治療後には「PSAバウンス」と呼ばれる一時的な上昇が約26%で見られます。
平均して治療後18か月頃に起こることが多いです。
その後自然に低下することが多いため、
すぐに治療を開始せず、慎重に経過を見ることが重要です。
Q3. 前立腺癌の経過観察は何年続ければよいですか?
一般的ながんは5年が一区切りですが、
前立腺癌では10〜12年までは再発が一定数見られると報告されています。
現実的な一区切りとしては「治療後10年」が一つの目安になります。
ただし、年齢やリスクによって個別判断が必要です。
Q4. 放射線治療後に再発した場合、手術はできますか?
通常は困難です。
放射線治療後は前立腺周囲に癒着が起こり、
組織の治癒も悪くなるため、手術は技術的に非常に難しくなります。
そのため、従来はホルモン治療が中心でしたが、
近年ではサイバーナイフや小線源治療などの再照射が検討されています。
Q5. サイバーナイフによる再照射は効果がありますか?
研究では、
-
5年非再発生存率60%
-
重篤な泌尿器副作用8%
-
消化管の重篤な副作用なし
という結果が報告されています。
すべての施設で可能な治療ではありませんが、
放射線後再発の有望な選択肢の一つです。
Q6. PSMA-PETとは何ですか?
PSMA-PETは、前立腺癌特異的マーカー「PSMA」を可視化するPET検査です。
従来のCTやMRIでは見つからなかった再発病変を検出できる可能性があります。
日本では現在保険適応ではありません。
Q7. PSMA-PETは何が優れているのですか?
研究では、従来検査で病変が見つからなかった33%が、
PSMA-PETでは10%まで減少しました。
特に「オリゴ転移(少数転移)」の検出率が上昇し、
積極的治療につながる可能性があります。
Q8. オリゴ転移とは何ですか?
転移が1〜3個程度など少数に限られている状態を指します。
この状態では、転移部位に対する定位照射(SBRTなど)が有効である可能性が示されています。
ORIOLE試験では、定位照射群で有意に病勢進行が抑えられました。
Q9. オリゴ転移への放射線治療は必ず有効ですか?
前立腺癌では有効性が多く報告されていますが、
他の癌種では必ずしも有効とは限らない研究もあります。
そのため、症例ごとの慎重な判断が必要です。
Q10. 放射線治療を受けると2次癌が増えますか?
研究では、尿路系癌の発生率は放射線併用群で有意に高いと報告されています。
しかし、生存期間は放射線併用群のほうが有意に長いという結果でした。
つまり、
2次癌のリスクはあるが、生存利益が上回る
と考えられています。
Q11. PSAが上昇しても画像で異常が見つかりません。どうすればよいですか?
従来検査で見つからない場合でも、
PSMA-PETでは病変が見つかる可能性があります。
現時点では保険適応外ですが、
今後診断戦略を大きく変える可能性のある検査です。
Q12. 前立腺癌は完治しますか?
前立腺癌は進行が比較的ゆっくりな腫瘍であり、
長期にわたってコントロール可能なケースも多いです。
特にオリゴ転移では積極治療により長期生存が期待されます。
ただし、10年以上経ってから再発することもあるため、
長期的な視点が重要です。
参考文献
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- PMID: 34481017
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- DOI: 10.1016/j.ijrobp.2021.08.031
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- PMID: 31730876
- DOI: 10.1016/j.ijrobp.2019.11.001
Posttreatment Prostate-Specific Antigen 6 Months After Radiation With Androgen Deprivation Therapy Predicts for Distant Metastasis-Free Survival and Prostate Cancer-Specific Mortality.
Salvage Low-Dose-Rate Prostate Brachytherapy: Clinical Outcomes of a Phase 2 Trial for Local Recurrence after External Beam Radiation Therapy (NRG Oncology/RTOG 0526)
Multi-Institutional Analysis of Prostate-Specific Antigen Kinetics After Stereotactic Body Radiation Therapy
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- PMID: 31629838
- DOI: 10.1016/j.ijrobp.2019.10.014
Second Cancers in Patients With Locally Advanced Prostate Cancer Randomized to Lifelong Endocrine Treatment With or Without Radical Radiation Therapy: Long-Term Follow-up of the Scandinavian Prostate Cancer Group-7 Trial
- PMID: 31786279
- DOI: 10.1016/j.ijrobp.2019.11.027
Metastasis-Free Survival and Patterns of Distant Metastatic Disease After Prostate-Specific Membrane Antigen Positron Emission Tomography (PSMA-PET)-Guided Salvage Radiation Therapy in Recurrent or Persistent Prostate Cancer After Prostatectomy
- PMID: 35659629
- DOI: 10.1016/j.ijrobp.2022.04.048
Stereotactic Body Radiation Therapy for Oligometastasis: GUst Do It?
- PMID: 36244387
- DOI: 10.1016/j.ijrobp.2022.07.026
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