全脳照射において海馬を避けることで将来的な認知症を回避する
まとめ
解説
多発脳転移をきたした場合に行われる放射線治療として全脳照射がある。
個人的には全脳照射については消極的な意見ではあり、少数の転移であれば定位照射やガンマ照射などを積極的に採用してよいと考えている。
しかしながら、多数の転移が存在する場合など、全脳照射を選択せざるを得ない場合も当然存在する。
全脳照射を行った場合に問題となるのが、将来的な認知機能障害の出現である。
症状としては通常の認知症と大きく変わらない。一般的な認知症と同様に、以前の記憶については比較的保たれる傾向にあるが、直近の記憶があいまいになる。
これは日常生活を送るうえで影響が大きく、同居家族への負担も大きくなるため、できれば避けたい副作用である。
放射線治療に伴う認知機能障害は治療後すぐに出現するわけではなく、治療後1年前後で出てくることが多い。
厳しい話をしてしまえば、多発脳転移を有する症例では予後じたいも厳しい場合が多く、治療後の生存期間を考慮するとどこまでこの副作用が影響するのかわからないという面もある。
しかしながら、より早期に認知機能障害が出現する場合も十分あるわけであり、避けられるのであれば避けたい副作用である。
この認知機能障害のリスクを下げる試みとしてなされているのが、海馬を避けて、それ以外の脳に照射をするという方法である。
これは、普通に脳を照射した場合には海馬を避けることはできないため、強度変調放射線治療(IMRT)という特殊な手法を用いて海馬を避けて治療する方法である。
海馬はよく知られているように記憶の中枢をつかさどる領域であり、この部分を避けることで、認知機能を保とうというものである。
様々な研究でその効果は報告されており、海馬を避けることで認知機能を保持することができることが示されている。
いっぽうで問題点もあり、それは海馬周囲が照射されないため、その領域において脳転移が出現しやすいという点である。
特に、髄膜播種のように、脳表面に転移病変が広がっているような病態では、海馬を避けるような治療法というのは好ましくないといえるであろう。
また、この治療法はどこの施設でも実施できるというわけではなく、上記のようにIMRTという治療法を採用している施設でしか実施できない。
さらに言えば保険適応の問題もあるため、現時点で実際にこの治療を受けるというのはさらにハードルが高いものと考えられる。
海馬を避けて全脳照射を行うのは、認知機能の保持という点において有用であり、治療効果についても、通常の照射と比較して大きな差異はないが、適応症例の検討や実際に治療を受けられるかどうか(施設要件や保険)といった問題も存在する。
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