オリゴ転移(オリゴメタスタシス)とは何か ― 少数転移に対する「根治を目指す治療」という新しい選択肢 ―
がんに「転移」があると聞くと、多くの方は「もう治らないのではないか」と感じるかもしれません。かつては、転移=ステージ4=根治困難、という考え方が一般的でした。
しかし近年、「オリゴ転移(オリゴメタスタシス)」という概念が広まり、転移があっても“条件がそろえば長期生存を目指せる”可能性があることが分かってきました。
この記事では、オリゴ転移の定義、治療法、最新の研究結果、効果が期待できる症例、注意点までを体系的に整理します。一般の方にも分かりやすく、かつ医学的根拠をもとに詳しく解説します。
オリゴ転移とは何か
「オリゴ(oligo)」は「少数」という意味です。
オリゴ転移とは、転移が少数に限られている状態を指します。
この概念は1995年に提唱されました。
従来、転移がある場合の治療は「延命を目的とした全身治療」が中心でした。しかし、
すべての転移巣を局所的に徹底的に治療すれば、長期生存が得られるのではないか
という仮説が生まれました。
明確な定義はあるのか?
厳密な統一定義はまだありませんが、一般的には以下が目安とされています。
原発巣が制御されている
転移数が3~5個以下(研究によっては10個まで)
転移巣が局所治療可能
重要なのは、「転移がある=すべて同じではない」という点です。転移の“量”や“性質”によって病態が異なる可能性があるという考え方です。
なぜ今、オリゴ転移が注目されているのか
この概念自体は以前からありましたが、近年急速に注目された背景には以下があります。
1. 放射線治療技術の進歩
高精度照射(IMRT、VMAT)
定位放射線治療(SRT、SBRT、SABR)
1~5回で高線量を投与可能
以前は転移巣にピンポイントで強い線量を当てることが困難でしたが、現在は可能になっています。
2. 画像診断の進歩
PET
MRI
PSMA-PET(前立腺癌)
微小転移の早期発見が可能になりました。
3. 全身治療の進歩
抗がん剤や分子標的薬、免疫療法の進歩により、全身制御が向上しています。
オリゴ転移の治療戦略
局所治療とは何か?
転移巣を直接たたく治療です。
手術
放射線治療(特にSBRT/SABR)
放射線治療の最大の利点は、
侵襲が少ない
複数臓器でも治療可能
短期間で終了
という点です。
SABR-COMET試験:代表的エビデンス
フェーズ2のランダム化比較試験(99例、転移5個まで)。
結果
8年全生存率
SABR群:27.2%
対照群:13.6%
無増悪生存率
SABR群:21.3%
対照群:0%
5年以上生存した症例が25例、そのうち11例は無再発でした。
少数転移に対する積極的局所治療が生存を延ばす可能性が示されました。
前立腺癌におけるオリゴ転移
ORIOLE試験
6か月時点での進行率
定位照射群:19%
経過観察群:61%
有意に進行抑制。
STOMP試験
無増悪生存期間延長傾向(有意差なし)。
PSMA MRgRT試験
PSA低下:60%
生物学的寛解:22%
追跡で約27%が寛解維持。
前立腺癌では比較的一貫して良好な結果が報告されています。
前立腺癌の治療について
前立腺癌治療における、放射線治療、ホルモン治療、小線源治療などを広く解説しています。
乳癌ではどうか? NRG-BR002試験
高レベルのランダム化比較試験。
結果:有効性は示されず
局所治療群も良好でしたが、全身治療群の成績が想定より良好で差が出ませんでした。
→ オリゴ転移治療は「すべての癌で有効」ではない可能性。
予後を左右する因子
研究から示唆される良好因子:
年齢65~70歳以下
KPS70以上(元気である)
進行が遅い癌
転移が少ない・小さい
早期再発リスク因子(SABR-5解析)
PS不良
前立腺癌・乳癌以外
Oligoprogression
リスク0個 → 3年OS 93%
リスク3個 → 3年OS 0%
全例に強力治療が適切とは限りません。
DMVという新しい指標
DMV=再発個数 ÷ 再発までの月数
DMV<0.5 → OS 37.1ヶ月
DMV>1.5 → OS 16.8ヶ月
再発の「速さ」と「数」は予後と強く関連。
全病変照射の重要性
401例解析:
手術可能かどうか → 有意差なし
治療可能病変をすべて照射したかどうか → 有意に予後改善
「取りこぼさない」ことが重要。
臓器別オリゴ転移
肺転移
1回28Gy vs 4回48Gy
呼吸機能低下に差なし
影響因子は「病変数」
骨転移
疼痛改善は通常照射と同等
再照射率:
通常照射33%
SBRT 5%
長期予後が期待できるならSBRTが望ましい。
脊椎転移
再発率は定位照射で有意に低下
再照射までの期間も延長。
長管骨転移
3年骨折率 約10%
局所再発率 13.5%
骨外浸潤が骨折のリスクとなる。
20個・30個の転移は?
定義上はオリゴではありませんが、
数か月の延命効果があるなら有効か?
副作用は許容範囲か?
費用対効果は?
今後の研究課題です。
オリゴ転移は誰に向いているのか?
有望なケース:
原発巣制御済み
少数転移
全身状態良好
ゆっくり進行
全病変治療可能
慎重にすべきケース:
PS不良
Oligoprogression
急速進行癌
全身治療で十分制御可能
今後の展望
Phase III試験の進行
遺伝子解析による選別
免疫療法との併用
多数転移への応用
オリゴ転移はまだ発展途上の領域です。
まとめ
オリゴ転移とは、転移が少数に限られた状態であり、
適切な症例では転移巣を積極的に治療することで長期生存が期待できる可能性があります。
ただし、
すべての癌で有効ではない
症例選択が極めて重要
ランダム化比較試験の結果を重視する必要がある
という点も忘れてはいけません。
がん治療は「転移がある=終わり」ではない時代に入っています。
しかし同時に、「誰にでも効く魔法の治療」でもありません。
だからこそ、正確な情報と冷静な判断が重要です。
オリゴ転移という概念は、
がん治療における“希望”であると同時に、
“慎重な選択が求められる戦略”でもあるのです。
姑息照射、緩和照射とは
姑息照射、緩和照射について詳しく解説しています。
脳転移に対する定位照射のはなし
少数の脳転移であれば定位照射という根治を目指せる治療が有効です。
多発脳転移に対する全脳照射はこちら
脳転移が多数存在する場合には全脳照射が適応になります。
書籍のおすすめ
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オリゴ転移に関するよくある質問(FAQ)
Q1.オリゴ転移とは何ですか?
オリゴ転移とは、がんが他の臓器へ転移していても、その数が限られている状態を指します。一般的には3~5個程度までの転移が該当するとされます。すべての病変を局所治療できる場合には、長期生存や根治を目指せる可能性があると考えられています。
Q2.転移があっても治る可能性はあるのですか?
従来、遠隔転移がある場合は根治が難しいとされてきました。しかしオリゴ転移では、すべての転移巣を手術や定位放射線治療で制御できる場合、長期生存が期待できる可能性が示されています。ただし、すべての患者さんに当てはまるわけではありません。
Q3.オリゴ転移の定義は決まっているのですか?
明確な国際統一基準はまだありません。多くの研究では「3~5個以内」とされていますが、10個まで含める研究もあります。個数だけでなく、「すべての病変を安全に治療できるかどうか」が重要です。
Q4.どのような治療が行われますか?
主な治療は以下の通りです。
定位放射線治療(SBRT/SABR)
手術
焼灼療法(ラジオ波など)
全身治療(ホルモン療法、抗がん剤、分子標的薬、免疫療法)
多くの場合、局所治療と全身治療を組み合わせて行います。
Q5.定位放射線治療とは何ですか?
高精度に腫瘍へ放射線を集中させる治療法で、通常1~5回程度の少ない回数で治療が完了します。体への負担が比較的少なく、肺・肝臓・骨・リンパ節など様々な部位に適応されます。
Q6.どの癌でも効果がありますか?
すべての癌で同じ効果が得られるわけではありません。研究では、前立腺癌では比較的良好な結果が示されています。一方で、乳癌や頭頸部癌では明確な有効性が示されていない試験もあります。癌種による違いが重要です。
Q7.最近の研究ではどのような結果が出ていますか?
代表的なSABR-COMET試験では、定位照射を行った群で長期生存率が改善しました。また前立腺癌の臨床試験(ORIOLE試験など)では、病勢進行の抑制効果が示されています。ただし、癌種ごとに結果は異なります。
Q8.オリゴ転移治療後に再発することはありますか?
あります。再発の「数」と「速度」が予後に影響することが報告されています。再発が少なくゆっくり進行する場合は比較的予後が良好ですが、短期間に多発する場合は予後が不良とされています。
Q9.手術と放射線治療はどちらがよいのですか?
一概には言えません。重要なのは「すべての治療可能な病変を制御できるかどうか」です。近年の研究では、手術が可能かどうかよりも、すべての病変を局所治療できたかが予後に強く関係することが示されています。
Q10.免疫療法との併用は有効ですか?
放射線治療が免疫を活性化する可能性(アブスコパル効果)が注目されていますが、現時点では明確な結論は出ていません。今後の臨床試験で検証が進められています。
Q11.オリゴ転移は誰でも対象になりますか?
以下の条件が重要です。
原発巣が制御されている
転移が少数である
すべての病変を治療可能
全身状態(PS)が良好
これらを満たさない場合は、局所治療の利益が小さい可能性があります。
Q12.今後の課題は何ですか?
主な課題は以下の通りです。
定義の統一
癌種ごとの適応の明確化
免疫療法との併用戦略
多数転移への応用可能性
予測バイオマーカーの開発
今後、より精密な患者選択と個別化治療が目標となります。
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