リキッドバイオプシーの治療への応用

リキッドバイオプシーとは

「リキッドバイオプシー」という言葉をご存知でしょうか?

バイオプシーというのは生検という意味で、本来は手術などで腫瘍の組織を採取することを指します。

このバイオプシーをリキッド、要は血液などを用いて行うことを指します。

つまり、一般的な血液検査のように血液を採取することで、腫瘍の特徴を解析する手法のことです。

日本語では「液体生検」というようですが、「血液生検」といったほうが実態に即しているかもしれません。

このリキッドバイオプシーは血液中に存在する微量の腫瘍細胞や腫瘍に関連した細胞成分を解析するものです。

リキッドバイオプシーの利点は、通常の生検のように組織を採取する必要が無く、血液検査と同様の手法で検体を採取できるため、負担が少ないことです。

さらには、血液検査と同等のため、治療前、治療中、治療後といった、治療の経過に合わせて解析をすることも可能です。

いっぽうで、通常の生検では多量の組織を採取することが可能であり、多くの項目についてより詳細に解析できるのに対して、リキッドバイオプシーでは腫瘍細胞やそれに関連した成分が血液中に存在しなければ解析することができません。

リキッドバイオプシーで得られる情報と言うのはある程度限定されるということです。

しかしながら、簡便に腫瘍の情報を取得できるという点は非常に有用であり、治療に対する効果も期待されています。

リキッドバイオプシーによる予後予測

それでは、実際にリキッドバイオプシーの有用性について紹介したいと思います。

リキッドバイオプシーは比較的最近になって注目されるようになってきた技術ではありますが、実は1980年代からその技術については検討されてきています。

2000年代にはいると血液中の腫瘍細胞の有無が遠隔転移の発生についての予測因子であることがいくつかの研究で報告されています。

733例の乳癌を対象とした前向きのコホート研究では、血液中の腫瘍細胞が検出された群で遠隔転移の発生が有意に高率に見られ、予後も不良であったことが報告されています。

また、ヨーロッパとアメリカで行われた10000例を超える早期乳癌患者を対象にした研究では、骨髄中の腫瘍細胞の有無が有意な予後予測指標であったことが示されています。

これらの研究は主に、血液や骨髄中の腫瘍細胞の有無と、転移の相関を評価したものですが、その後の研究では、転移の有無にかかわらず、血液中の腫瘍細胞の有無が予後と相関することを報告しています。

転移を有する乳癌あるいは炎症性乳癌では約40%に血液中の腫瘍細胞が検出されると報告されています。

いっぽうで、転移を有しない乳癌患者においても、約20%程度で血液中に腫瘍細胞が微量ながら検出されます。

そして、この微量の腫瘍細胞の有無が予後に相関することは、様々な研究で明確に示されているのです。

リキッドバイオプシーの治療への応用

またリキッドバイオプシーの結果がどのように治療に影響を与えるかが様々な研究により評価されています。

乳癌の治療では、NACと呼ばれる、手術などに先行する化学療法を行う場合があります。

このNACを行うことで、血液中の腫瘍細胞が減少することが報告されていますが、いっぽうで腫瘍細胞の減少が予後と相関するのかどうかはまだはっきりとはわかっていません。

別の研究では、手術後に化学療法を行った場合、化学療法の前後でともに血液中に腫瘍細胞が検出された群では、予後が有意に不良であったことが報告されています。

治療後の経過観察では、治療後1年、2年、3年の経過観察中に血液中の腫瘍細胞が検出された群は、検出されなかった群に比較して、再発までの期間が短く、予後も不良でした。

また、治療後5年という長期の観察研究では、腫瘍細胞が検出された群では再発リスクが約13倍になったと報告されています。

これらの研究から、治療後の経過観察においては、血液中の腫瘍細胞の有無は予後予測に非常に重要であると考えられます。

リキッドバイオプシーと放射線治療

リキッドバイオプシーを放射線治療に応用したいくつかの研究を紹介します。

ある研究では、血液中の腫瘍細胞が検出された群では、広範囲のリンパ節領域への照射が予後改善に有用であったと報告しています。

また、別の研究では、血液中の腫瘍細胞が検出された群では追加の放射線治療が有効であったのに対して、血液中の腫瘍細胞が検出されなかった群では、放射線治療の有無は予後に影響しなかったと報告しています。

まとめ

リキッドバイオプシーはまだまだ新しい技術であり、今後の研究によって、さらに多くの腫瘍、項目を評価できるようになる可能性があります。

そして、それらの結果が、予後や治療方針に大きな影響を与えることが予測されます。

リキッドバイオプシーは通常の生検と比較して簡便で身体的負担の少ない治療であり、より多くの患者に適応が可能です。

リキッドバイオプシーで得られた情報を用いて、より患者個人に適した治療法が提案できるようにあることが期待されます。

参考文献

The Role of Circulating Tumor Cells in Breast Cancer and Implications for Radiation Treatment Decisions

Affiliations

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