重症COVID-19肺炎に低線量の放射線照射は有効か
まとめ
解説
COVID-19感染が始まってからそれなりに長期間が経過しているが、まだまだ感染が落ち着いた感じはなく、相変わらず流行を繰り返している状況である。
COVID-19のパンデミックにおいては世界各国でも様々な取り組みが行われているが、その中のひとつに重症肺炎患者の肺に対する低線量の放射線照射がある。
COVID-19感染においては、ウイルス感染じたいだけでなく、過剰な免疫応答や炎症反応がその病態に大きく関係している可能性がこれまでの研究でも報告されている。
そして、人工呼吸器管理が必要な重症のCOVID-19感染においてはまだまだ致死率が高い現状である。
このため、このような過剰な免疫応答、炎症反応を抑えることで、重症患者の救命につなげようという様々な試みが行われている。
そのうちの一つが低線量の全肺照射である。
放射線照射の効果として、照射部の炎症反応を抑えるという現象は以前から報告されている。
良く知られているのは骨転移に伴う姑息照射においてであり、骨転移に対して放射線を照射すると、腫瘍縮小のみではなく腫瘍に伴う炎症を抑制することで疼痛改善の効果が得られることは以前からよく知られていた。
そして、COVID-19感染においても、検体に対して放射線を照射することで、検体内の炎症を抑制することができ、治療効果があるのではないかと示唆されていた。
今回の報告では、実際に重症患者を対象として2重盲検のランダム化試験という比較的信頼性の高い方法で割り付けし、効果を検証したものである。
結果としては、低線量の全肺照射を行っても全生存の改善は認められなかったというものであった。
今回の研究では、有意な結果が得られなかったが、検体においての研究では有効性が示唆されていることから、照射方法や治療対照群を検討することで、有効性を示すことができる可能性は十分にあると考える。
筆者らは、画像上肺炎を認める部分により重点的に放射線を照射することで治療成績が改善しないかを今後検討していくようである。
日本でもCOVID-19感染は依然継続しているが、なかなかこのような踏み込んだ研究は行えていないのが現状である。
実際問題としてCOVID-19感染の患者に対して放射線照射を行うためには、スタッフおよび他のがん治療患者に対する厳密な感染対策など、越えなければならないハードルが多く日常臨床で行うのはなかなか厳しい現実があるであろう。
特に、放射線治療装置が1台しかないような病院であれば、通常はがん治療に使用されているはずなので、そのうえでCOVID-19感染患者の照射を行う際の負担は相当である。
しかしながら、重症のCOVID-19感染に対する有効な治療法もなかなかない現状であり、放射線治療の分野でも貢献できる領域があるのであれば積極的に関わりたいと考える。
今後の続報が待たれる領域である。
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