乳がん術後の寡分割照射とは? 16回照射は安全?副作用・整容性・長期リスクまで専門医が解説

2022年10月16日

乳がんで乳房温存術を受けた場合、術後に放射線治療を行うことが標準治療です。
近年、この放射線治療は「25回」から「16回」へと短縮されるケースが増えています。

この回数を減らした治療法を「寡分割照射(かぶんかつしょうしゃ)」といいます。

この記事では、

  • なぜ16回でよいのか

  • 副作用は強くならないのか

  • 見た目(整容性)は悪くならないのか

  • 神経障害や甲状腺機能低下のリスクは?

  • 長期的な後遺症は?

という疑問に、研究データをもとに整理します。

結論(まとめ)

  • 寡分割照射は通常照射より治療期間が短い

  • 急性期副作用は最終的に少ない傾向

  • 長期的な整容性に差はない

  • 腕神経叢障害のリスクは増えない

  • 鎖骨上窩照射を行う場合は甲状腺機能低下症に注意

【図解】25回照射と16回照射の違い

通常照射 寡分割照射
1回線量 2Gy 2.66Gy
回数 25回 16回
治療期間 約5週間 約3週間
急性期副作用 後半に増える 早期にやや出るが短期で終了
長期整容性 差なし 差なし

乳癌術後の放射線治療について成績など詳しく説明した記事はこちら

乳房温存術や放射線治療の基本、最新の治療選択や将来展望については、こちらの総まとめ記事で詳しく解説しています。

1.寡分割照射とは何か?

従来の標準照射
→ 2Gy × 25回(約5週間)

寡分割照射
→ 2.66Gy × 16回(約3週間)

放射線治療は通常、月曜〜金曜の週5回行います。
そのため、

  • 25回:およそ5週間

  • 16回:およそ3週間

約2週間短縮されます。

1回線量を増やすことで回数を減らす方法です。

2.急性期副作用は強くなるのか?

「1回量が多い=副作用が強いのでは?」

これは当然の疑問です。

研究では、

  • 治療開始早期は寡分割群でやや副作用が強い傾向

  • 4〜6週で逆転

  • 8週時点では通常照射群の方が副作用が強い

という結果でした。

理由として考えられるのは:

  • 寡分割は早く治療が終わる

  • 副作用がピークに達する前に終了する

結果として、QOL(生活の質)は寡分割群の方が良好でした。

外来診療の実感としても、重度の急性期副作用は多くありません。

放射線皮膚炎の記事はこちら

なお、乳がんの放射線治療で最も多い副作用である放射線皮膚炎については、こちらの記事で詳しくまとめています。

皮膚の保湿はこちら

放射線治療中は思っている以上に皮膚が乾燥します。
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3.長期的な「見た目」は悪くならないか?

比較研究では:

  • 42.56Gy/16回

  • 50Gy/25回

で比較し、

長期的な整容性に差は認められていません。

  • 患者自己評価

  • 医師評価

いずれも差なし。

つまり、

短期間で治療しても見た目は変わらない

ということです。

ただし、

  • 乳房が大きい(Dカップ以上)

  • 肥満

これらは整容面悪化のリスク因子とされています。

4.腕神経叢障害のリスクは増える?

鎖骨上窩を含めて照射する場合、
腕へ向かう神経(腕神経叢)が問題になります。

寡分割照射
(40Gy/16回、45Gy/20回)

と通常照射を比較した研究では、

有意なリスク増加は認められませんでした。

一定の確率で起こる可能性はありますが、
寡分割だから特別増えるということは示されていません。

5.甲状腺機能低下症のリスク

鎖骨上窩を照射する場合、甲状腺が被ばくします。

43.5Gy/15回照射の研究(500例)では:

  • 26.2%で甲状腺機能低下症

  • 11.8%でホルモン補充療法

特に:

  • 鎖骨上窩照射あり → 31.5%

  • なし → 11.4%

発症ピークは治療後6〜12ヶ月。

リスク因子:

  • 治療前TSH高値

  • 甲状腺Dmean > 21Gy(ハザード比2.2)

該当する場合は6〜12ヶ月で甲状腺機能チェックが推奨されます。

6.長期副作用(晩期障害)

1613例中265例の晩期評価(中央値38ヶ月)では:

中等度〜重度の症状

  • 乳房の固さ:18%

  • 胸壁痛:14%

  • 乳房痛:10%

上肢浮腫や乳房浮腫は比較的まれ。

副作用がある場合:

  • 身体機能

  • 社会機能

が低下する傾向。

若年・追加治療あり(化学療法、ブーストなど)で増加傾向。

7.採用率は増えている

米国データ:

  • 2012年:26.2%

  • 2016年:67.0%

現在はさらに増加していると推測されます。

採用が多い傾向:

  • 高齢

  • 腫瘍が小さい

  • リンパ節転移なし

  • 化学療法なし

  • 病院から遠い

コロナ禍も普及を後押ししました。

8.医療経済・社会的メリット

  • 通院回数減少

  • 就労継続しやすい

  • 医療費減少

  • 治療中断リスク低減(感染症流行下)

特に若年女性ではメリットが大きいと考えられます。

まとめ

乳がん術後の寡分割照射は

  • 治療期間を短縮できる

  • 急性期副作用は最終的に少ない

  • 長期整容性に差はない

  • 神経障害リスクは増えない

  • 鎖骨上窩照射では甲状腺機能低下に注意

というエビデンスが蓄積されています。

今後さらに標準化が進む可能性が高い治療法です。

よくある質問(FAQ)

Q1.乳がん術後の16回照射は本当に安全ですか?

現在の研究では、従来の25回照射と比較して再発率や長期成績に大きな差は認められていません。急性期副作用も最終的には少ない傾向が示されています。適応が合えば、安全性の高い治療選択肢と考えられます。

Q2.寡分割照射は副作用が強いと聞きましたが大丈夫でしょうか?

1回の線量が多いため、治療開始早期にはやや皮膚症状が出やすい傾向があります。ただし治療期間が短いため、副作用のピークが長く続きません。8週時点では通常照射より副作用が少ないというデータもあります。

Q3.16回照射でも見た目(整容性)は悪くなりませんか?

長期的な整容性については、25回照射と比較して差は認められていません。患者自身の評価、医師の評価ともに同様の結果です。ただし乳房が大きい場合や肥満がある場合は注意が必要です。

Q4.寡分割照射で腕がしびれることはありますか?

鎖骨上窩を照射する場合、腕神経叢への影響が問題になりますが、寡分割照射によってリスクが有意に増えるという結果は示されていません。頻度は高くありませんが、一定の確率で起こる可能性はあります。

Q5.甲状腺機能低下症のリスクはありますか?

鎖骨上窩を照射する場合、甲状腺機能低下症のリスクが上がります。特に治療前のTSHが高い場合や、甲状腺への平均線量が高い場合は注意が必要です。発症は治療後6〜12ヶ月が多いため、この時期の検査が推奨されます。

Q6.長期的な後遺症はありますか?

中等度以上の症状として、乳房の固さ(約18%)、胸壁痛(約14%)、乳房痛(約10%)が報告されています。若年や追加治療を受けた症例でやや多い傾向があります。

Q7.寡分割照射は誰でも受けられますか?

全ての症例で適応になるわけではありません。腫瘍の大きさ、リンパ節転移の有無、追加治療の内容などを総合的に判断します。担当医と相談が必要です。

Q8.仕事を続けながら治療できますか?

寡分割照射は治療期間が約3週間と短いため、通院回数が少なく、就労しながら治療を受けやすいというメリットがあります。

Q9.現在は寡分割照射が主流なのですか?

米国では2012年に約26%だった採用率が2016年には約67%まで増加しています。日本でも増加傾向にあります。

Q10.将来的にさらに回数は減るのでしょうか?

寡分割照射は今後さらに広がる可能性があります。乳がんだけでなく、前立腺がんなど他のがん種でも回数短縮の流れがあります。

参考文献

Acute Toxicity and Quality of Life of Hypofractionated Radiation Therapy for Breast Cancer

Five-Year Longitudinal Analysis of Patient-Reported Outcomes and Cosmesis in a Randomized Trial of Conventionally Fractionated Versus Hypofractionated Whole-Breast Irradiation

2017 Dec 1;99(5):1166-1172. doi: 10.1016/j.ijrobp.2017.07.043. Epub 2017 Aug 3.

Hypofractionated Nodal Radiation Therapy for Breast Cancer Was Not Associated With Increased Patient-Reported Arm or Brachial Plexopathy Symptoms.

Trends in Use of Hypofractionated Whole Breast Radiation in Breast Cancer: An Analysis of the National Cancer Database

Radiation-Induced Hypothyroidism in Patients With Breast Cancer After Hypofractionated Radiation Therapy: A Prospective Cohort Study

Affiliations

Patient-Reported Symptoms of Late Toxicity in Patients With Breast Cancer Treated With Hypofractionated Radiation Therapy and the Association With Quality of Life

Affiliations

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