MRリニアックとは?MRIで腫瘍を見ながら行う次世代放射線治療を専門医が解説

MRリニアックとは

MRリニアック(MR-Linac)とは、
MRI(磁気共鳴画像)と放射線治療装置(リニアック)を一体化した最新の放射線治療装置です。

従来の放射線治療では主にCT画像を用いて治療計画を作成していましたが、MRリニアックでは

  • 治療直前
  • 治療中

リアルタイムMRI画像を取得しながら放射線を照射することが可能です。

これにより

  • 腫瘍の位置変化
  • 呼吸による臓器の動き
  • 周囲正常臓器

を確認しながら、より精密な放射線治療が行えるようになりました。

現在、世界的に導入が進んでいる次世代の画像誘導放射線治療(IGRT)の代表的な技術です。

参考


MRリニアックの仕組み

MRリニアックは以下の2つの装置を統合したシステムです。

MRI(磁気共鳴画像)

MRIは

  • 軟部組織の描出能力が高い
  • 被ばくがない

という特徴があります。

そのため

  • 膵臓
  • 前立腺
  • 肝臓
  • 骨盤内臓器

などCTでは境界が分かりにくい腫瘍を正確に可視化できます。


リニアック(線形加速器)

リニアックは

高エネルギーX線を発生させる放射線治療装置です。

多くの病院で使用されている放射線治療装置であり

  • IMRT
  • VMAT
  • SRT
  • SBRT

などの高精度放射線治療を行うことができます。

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SBRTとは


MRリニアックの最大の特徴:オンライン適応放射線治療

MRリニアックの最大の特徴は

オンライン適応放射線治療(Online Adaptive Radiotherapy)

です。

これは

毎回の治療前に新しいMRI画像を取得し、その日の患者の解剖に合わせて治療計画を再作成する技術

です。

例えば

  • 腫瘍の位置が変わった
  • 膀胱の大きさが変わった
  • 腸管の位置が変化した

といった場合でも

その日の状態に合わせた放射線治療が可能になります。

この概念は

近年の放射線治療の大きなトレンドとなっています。

参考


MRリニアックのメリット

1 腫瘍を直接確認しながら照射できる

従来のリニアックでは

  • マーカー

などを目印に位置合わせを行うことが多くありました。

しかしMRリニアックでは

腫瘍そのものをMRIで確認しながら照射

できます。

これは特に

  • 膵臓癌
  • 前立腺癌
  • 肝臓癌

などで重要です。


2 正常組織への線量を減らせる可能性

MRIは

軟部組織のコントラストが非常に高い

ため

  • 腫瘍
  • 腸管
  • 膀胱
  • 神経

などをより正確に区別できます。

その結果

正常臓器への線量を減らせる可能性があります。


3 呼吸に合わせた照射(リアルタイム追跡)

MRリニアックでは

リアルタイムMRIによる腫瘍追跡

が可能です。

これにより

  • 呼吸による腫瘍の動き
  • 治療中の位置変化

を監視しながら照射できます。

この技術は

gated radiotherapy
(呼吸同期照射)

として知られています。


MRリニアックのデメリット

1 治療時間が長い

オンライン適応放射線治療を行うため

  • 画像取得
  • 再計画
  • 確認

が必要になります。

そのため

通常の放射線治療より治療時間が長い

ことがあります。


2 導入コストが非常に高い

MRリニアックは

  • MRI
  • リニアック

を統合した非常に高度な装置です。

そのため

装置価格は数十億円規模と言われています。

このため、導入施設はまだ限られています。


3 すべてのがんで必要なわけではない

MRリニアックは非常に高度な装置ですが、

すべてのがんに必要なわけではありません。

例えば

  • 頭頸部癌
  • 乳癌
  • 固定性の腫瘍

では通常のIMRTでも十分な場合が多いです。


MRリニアックが期待されるがん

現在、研究が進んでいる代表的な腫瘍は以下です。

膵臓癌

膵臓は

  • 十二指腸
  • 小腸

など重要臓器に囲まれています。

MRリニアックにより

高線量SBRTの安全性向上が期待されています。

参考
Nature Reviews Clinical Oncology


前立腺癌

前立腺は

  • 膀胱
  • 直腸

の影響を受けて位置が変化します。

MRリニアックは

日々の位置変化に対応できる治療

として研究が進んでいます。

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前立腺癌の放射線治療


肝臓癌

肝臓は呼吸によって大きく動く臓器です。

MRリニアックによる

リアルタイム追跡照射

が有望視されています。

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肝臓癌の放射線治療


MRリニアックと他の高精度放射線治療の違い

治療装置特徴
IMRT強度変調放射線治療
SBRT少回数高線量治療
サイバーナイフロボット照射
ガンマナイフ脳専用装置
MRリニアックMRI画像を見ながら治療

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MRリニアックは保険診療?

日本では

MRリニアックは通常の放射線治療として保険診療で実施可能

です。

ただし

  • 治療方法
  • 疾患
  • 施設

によって治療内容は異なります。

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放射線治療の費用

放射線治療の保険適用


MRリニアックを受けられる日本の医療施設

MRリニアックは非常に高価で高度な装置のため、日本でも導入施設はまだ限られています。
主に大学病院やがん専門病院を中心に導入が進んでいます。

以下は日本でMRリニアックによる放射線治療が行われている主な医療機関です。


国立がん研究センター中央病院(東京)

国立がん研究センター中央病院

日本で最初にMRリニアックを導入した施設の一つで、
膵癌や前立腺癌などを対象にMRIガイド下放射線治療(MRgRT)の研究と臨床が進められています。

多施設臨床試験も主導しており、日本におけるMRリニアック研究の中心施設の一つです。


千葉大学医学部附属病院(千葉)

千葉大学医学部附属病院

1.5テスラMRIとリニアックを統合したMRリニアックシステムを導入し、
2021年から臨床治療を開始しています。

リアルタイムMRIを用いて腫瘍を確認しながら照射することで、
正常組織への影響を減らす高精度治療が期待されています。


埼玉医科大学国際医療センター(埼玉)

埼玉医科大学国際医療センター

MRリニアックを用いた放射線治療を実施しており、
膵癌や前立腺癌などを対象とした臨床研究や治療が進められています。

日本のMR画像誘導放射線治療の研究において重要な施設の一つです。


東北大学病院(宮城)

東北大学病院

次世代放射線治療としてMRリニアックを導入し、
膵臓癌などの治療への応用が研究されています。

地域医療と最先端医療の両立を目指し、
MR画像誘導放射線治療の研究・教育拠点となっています。


大阪公立大学医学部附属病院(大阪)

大阪公立大学医学部附属病院

西日本で初めてMRリニアックを導入した大学病院で、
MRI画像をリアルタイムに確認しながら腫瘍を照射する高精度放射線治療を行っています。


江戸川病院(東京)

江戸川病院

MR画像誘導放射線治療装置「MRIdian」を導入し、
リアルタイムMRIによる腫瘍追跡照射が行われてきました。

※装置の保守体制の関係で稼働状況が変更されることがあるため、受診前に確認が必要です。


MRリニアック治療を受けるには

MRリニアック治療を希望する場合は

  1. かかりつけ医に相談
  2. 専門施設へ紹介
  3. 放射線腫瘍医による適応評価

という流れになることが一般的です。

すべての患者に必要な治療ではないため、
腫瘍の種類や位置によって最適な治療法が判断されます。


 MRリニアックを導入している施設はなぜ少ないのか

MRリニアックは非常に高度な放射線治療装置であり、日本でも導入施設はまだ限られています。
その主な理由は以下の3つです。


1 装置価格が非常に高い

MRリニアックは

  • MRI装置
  • 放射線治療装置(リニアック)
  • 専用シールド施設

を一体化したシステムであり、装置価格は数十億円規模とされています。

さらに

  • MRI対応放射線治療室
  • 電磁干渉対策
  • 特殊な遮蔽構造

などが必要なため、施設整備にも大きなコストがかかります。

そのため導入できるのは

  • 大学病院
  • がん専門病院
  • 研究施設

などの大規模医療機関が中心となっています。


2 治療に高度な専門チームが必要

MRリニアック治療では

  • 放射線腫瘍医
  • 医学物理士
  • 診療放射線技師

などが連携して治療を行います。

特にMRリニアックでは

オンライン適応放射線治療(Online Adaptive Radiotherapy)

が行われるため、

  • 毎回のMRI画像取得
  • 当日の再治療計画
  • 線量評価

などをリアルタイムで実施する必要があります。

このため、通常の放射線治療よりも高度な専門チーム体制が求められます。


3 すべてのがんに必要な装置ではない

MRリニアックは非常に高性能な装置ですが、
すべてのがん治療で必須というわけではありません。

例えば

  • 頭頸部癌
  • 乳癌
  • 固定性の腫瘍

では

IMRTやSBRTなどの既存の高精度放射線治療でも十分な治療が可能

な場合が多くあります。

そのため現在は

  • 膵臓癌
  • 前立腺癌
  • 肝臓癌
  • 腹部腫瘍

など臓器の動きが大きい腫瘍を中心に研究と臨床応用が進められています。


専門医からの補足

MRリニアックは世界的にもまだ導入施設が限られており、日本でも数施設レベルです。
今後は

  • 膵癌
  • 前立腺癌
  • 肝臓癌
  • オリゴ転移

などで臨床研究が進み、導入施設が増える可能性があります。


MRリニアックと通常のリニアックの違い

MRリニアックは、従来の放射線治療装置であるリニアック(線形加速器)を発展させた装置です。

最大の違いは、MRIを使って腫瘍をリアルタイムに確認しながら放射線を照射できる点にあります。

従来の放射線治療でも高精度化は進んでいますが、MRリニアックはさらに一歩進んだ次世代の画像誘導放射線治療(IGRT)と考えられています。


通常のリニアック(従来の放射線治療)

一般的な放射線治療では、以下のような流れで治療が行われます。

  1. CTを用いて治療計画を作成
  2. 治療前に位置合わせ(IGRT)
  3. 計画に基づいて照射

この方法でも現在は

  • IMRT(強度変調放射線治療)
  • VMAT
  • SBRT

などの技術により、非常に高精度な放射線治療が可能になっています。


MRリニアック

MRリニアックでは、MRIを用いることで

  • 腫瘍の位置
  • 周囲臓器
  • 治療中の動き

リアルタイムで確認しながら照射することができます。

さらに

オンライン適応放射線治療(Online Adaptive Radiotherapy)

により、毎回の治療前に

  • 新しいMRI画像を取得
  • その日の解剖に合わせて治療計画を修正

することが可能です。

これは従来の放射線治療にはない特徴です。


MRリニアックと通常リニアックの比較

項目通常リニアックMRリニアック
画像装置CTMRI
軟部組織の描出限界あり非常に高い
治療中の画像基本なしリアルタイムMRI
治療計画治療開始前に作成毎回修正可能
適応放射線治療限定的可能

MRリニアックが特に有用と考えられる状況

MRリニアックは特に以下のような状況で有用と考えられています。

  • 呼吸で動く腫瘍
  • 周囲に重要臓器が多い腫瘍
  • 腫瘍と正常臓器の境界が不明瞭な場合

具体的には

  • 膵臓癌
  • 前立腺癌
  • 肝臓癌
  • 腹部腫瘍

などで研究が進んでいます。


すべての患者にMRリニアックが必要なわけではない

MRリニアックは非常に高度な装置ですが、
すべての放射線治療で必要なわけではありません。

例えば

  • 頭頸部癌
  • 乳癌
  • 固定性腫瘍

などでは

通常のIMRTやSBRTでも十分に高精度な治療が可能

な場合が多くあります。

そのため、放射線治療では

腫瘍の種類・位置・治療目的に応じて最適な治療装置を選択することが重要です。


専門医コメント

MRリニアックは、近年の放射線治療の中でも最も革新的な技術の一つです。

従来の放射線治療では
「治療前の画像」を基に治療計画を作成していました。

しかしMRリニアックでは

治療当日の解剖に合わせて毎回治療計画を修正する

ことが可能になります。

これは

「個別化放射線治療」

の重要な一歩と言えるでしょう。

一方で、MRリニアックはすべての患者に必要なわけではなく、

  • 腫瘍の位置
  • 臓器の動き
  • 治療目的

によって最適な放射線治療は異なります。

そのため、放射線治療専門医と相談しながら
患者ごとに最適な治療法を選択することが重要です。


放射線治療について詳しく知りたい方へ

放射線治療の基本や副作用、費用については以下の記事で詳しく解説しています。


FAQ(よくある質問)

MRリニアックとは何ですか?

MRIと放射線治療装置を組み合わせた次世代の放射線治療装置です。


MRIを使うと何が良いのですか?

腫瘍や正常臓器をより正確に可視化できるため、精密な放射線治療が可能になります。


MRリニアックは日本にありますか?

はい。日本でも複数の大学病院・がん専門病院で導入が進んでいます。


MRリニアックはどんながんに使われますか?

特に

  • 膵臓癌
  • 前立腺癌
  • 肝臓癌

などで研究が進んでいます。


MRリニアックは保険適用ですか?

はい。通常の放射線治療として保険診療で実施されます。


MRリニアックは安全ですか?

通常の放射線治療と同様に安全管理のもとで行われます。


MRIなので被ばくは増えますか?

MRI自体には放射線被ばくはありません。


治療時間はどのくらいですか?

通常の放射線治療より長く、30〜60分程度かかる場合があります。


すべての病院で受けられますか?

導入施設はまだ限られています。


MRリニアックは従来治療より優れていますか?

すべてのがんで優れているわけではなく、腫瘍の種類や位置によって適応が異なります。

  この記事の執筆者

放射線治療専門医
放射線腫瘍学を専門とし、がんの放射線治療に従事。
患者さんやご家族に向けて、放射線治療の情報を分かりやすく発信しています。

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