放射線治療後の血尿・血便は治る?原因・治療法(APC・高圧酸素)と予後を専門医が解説
放射線治療のあとに血尿や血便が出て心配になる方は少なくありません。
多くの場合は軽症であり、時間とともに自然に改善することが多い副作用です。しかし一部の患者さんでは、治療から時間が経ってから慢性的な出血が起こることがあります。
これは
- 放射線性膀胱炎(radiation cystitis)
- 放射線性直腸炎(radiation proctitis)
と呼ばれる状態で、放射線治療の晩期副作用のひとつです。
ただし現在では
- APC(アルゴンプラズマ凝固)
- 高圧酸素療法
など、症状を改善させる治療法も存在します。
この記事では
- 放射線治療後に血尿・血便が起こる理由
- どのくらいの時期に起こるのか
- リスクファクター
- 検査
- 予後
について、専門医の立場からわかりやすく解説します。
なお、放射線治療の副作用全体については
「放射線治療の副作用まとめ」でも解説しています。
放射線治療後に血尿・血便が起こる理由
放射線治療では、がん細胞だけでなく周囲の正常組織にも一定の影響が及びます。
特に膀胱や直腸の粘膜では、時間が経ってから出血が起こることがあります。
その主な原因は血管障害です。
放射線による血管障害
放射線は細胞のDNAを傷つけることでがんを治療しますが、同時に微小血管にも影響を与えます。
主な変化は次の3つです。
微小血管障害
毛細血管がダメージを受けることで、血流が不安定になります。
この状態では粘膜がもろくなり、少しの刺激でも出血しやすくなることがあります。
粘膜虚血
血流が低下すると、組織に十分な酸素が届かなくなります。
これを虚血と呼びます。
虚血状態では粘膜の修復能力が低下し、慢性的な炎症や出血が起こることがあります。
線維化
放射線の影響を受けた組織では、時間とともに線維化(組織が硬くなる変化)が起こります。
線維化した組織では
- 血流低下
- 血管のもろさ
- 粘膜障害
が続くため、慢性的な出血の原因になることがあります。
放射線性膀胱炎と放射線性直腸炎
このような変化により起こる代表的な病態が
- 放射線性膀胱炎(Radiation cystitis)
- 放射線性直腸炎(Radiation proctitis)
です。
放射線性膀胱炎
膀胱の粘膜が放射線の影響で障害され、
- 血尿
- 頻尿
- 排尿時痛
などの症状が起こることがあります。
詳しくは
【内部リンク予定】
放射線性膀胱炎の記事で解説します。
放射線性直腸炎
直腸粘膜の血管が障害されることで
- 血便
- 粘血便
- 排便時出血
などが起こることがあります。
詳しくは
【内部リンク予定】
放射線性直腸炎の記事で解説しています。
急性障害と晩期障害の違い
放射線の副作用は、大きく
- 急性障害
- 晩期障害
に分けられます。
急性障害(治療中〜数ヶ月)
治療中から治療後数ヶ月以内に起こる副作用です。
例えば
- 下痢
- 排尿時違和感
- 軽い出血
などがみられることがありますが、多くは時間とともに改善します。
晩期障害(数ヶ月〜数年)
一方、治療から時間が経ってから起こる副作用を晩期障害と呼びます。
血尿や血便の多くはこの晩期障害として発生します。
放射線治療の副作用の発生時期については
【内部リンク予定】
放射線治療の副作用はいつ出る?
の記事でも詳しく解説しています。
血尿・血便はいつ起こるのか(発生時期)
血尿や血便は、放射線治療の典型的な晩期副作用です。
そのため、治療直後ではなく、時間が経ってから発生することが多いという特徴があります。
治療中〜数ヶ月以内(急性期)
治療中から治療後数ヶ月以内にも、軽い出血がみられることがあります。
この時期の症状は
- 粘膜の炎症
- 一時的な血管障害
によるもので、比較的軽症で自然に改善することが多いとされています。
治療後1〜2年で出ることが多い
放射線性膀胱炎や放射線性直腸炎の多くは、治療後1〜2年頃に発症します。
これは
- 血管障害
- 組織の線維化
などの変化が徐々に進行するためです。
臨床研究でも、晩期出血の発症時期のピークは1〜3年程度と報告されています。
5年以上経ってから起こることもある
まれではありますが、放射線治療から5年以上経過してから血尿や血便が出現することもあります。
これは放射線による血管障害が非常にゆっくり進行するためです。
そのため、放射線治療後に新たな出血が起こった場合には、
- 放射線の影響
- 別の病気
の両方を考えて評価することが重要になります。
血尿・血便のリスクファクター
すべての患者さんに血尿や血便が起こるわけではありません。
研究では、いくつかのリスクファクターが知られています。
放射線線量
最も重要なリスクファクターのひとつが放射線線量です。
- 高線量照射
- 広い照射範囲
では、膀胱や直腸への影響が強くなる可能性があります。
また、再照射では組織の耐容線量を超えることがあるため、晩期副作用のリスクが高くなります。
糖尿病
糖尿病ではもともと
- 微小血管障害
- 血流障害
が起こりやすいため、放射線による血管障害が強く出ることがあります。
その結果、出血リスクが高くなる可能性があります。
抗凝固薬・抗血小板薬
次のような薬を服用している場合
- 抗凝固薬
- 抗血小板薬
粘膜からの出血が起こりやすくなることがあります。
ただし、これらの薬は心臓や脳の病気の予防に重要なことが多いため、自己判断で中止することは危険です。
喫煙
喫煙は
- 血管障害
- 組織虚血
を引き起こすため、放射線治療後の晩期障害のリスクを高める可能性があります。
高齢
高齢になるほど
- 組織の修復能力
- 血管再生能力
が低下するため、出血が長引くことがあります。
治療部位
血尿や血便は、特に次のがんの放射線治療後にみられます。
- 前立腺がん
- 子宮頸がん
- 直腸がん
例えば、前立腺がんの放射線治療後には血尿や血便がみられることがあります。
詳しくは
の記事でも解説しています。
血尿・血便が出たときの検査
放射線治療後に出血がみられた場合、必ずしも放射線の影響とは限りません。
そのため、必要に応じて検査を行い、原因を確認することが重要です。
内視鏡検査
出血の原因を調べるために、内視鏡検査が行われることがあります。
膀胱鏡
血尿がある場合は、膀胱の中を直接観察する膀胱鏡検査を行うことがあります。
放射線性膀胱炎では
- 拡張した血管
- 粘膜出血
などの特徴的な所見がみられることがあります。
大腸内視鏡
血便がある場合は、大腸内視鏡検査で直腸粘膜を確認します。
放射線性直腸炎では
- 毛細血管拡張
- 粘膜出血
などがみられることがあります。
他の病気との区別
出血がみられた場合には、次の病気との区別が重要です。
再発
がん治療後に出血がある場合、がんの再発が原因となることもあります。
新しいがん
膀胱がんや大腸がんなど、別のがんが見つかることもあります。
感染
膀胱炎や腸炎などの感染症でも出血が起こることがあります。
多くは自然に改善する(経過観察)
血尿や血便がみられると心配になる方が多いですが、軽症の場合は自然に改善することが多いとされています。
特に
- 少量の出血
- 貧血がない
- 日常生活に大きな支障がない
場合には、まず経過観察となることがあります。
軽症は保存的治療
軽い症状では
- 生活指導
- 薬物療法
- 経過観察
などの保存的治療で対応することが一般的です。
数ヶ月で改善することが多い
急性期の出血や軽症の晩期障害では、数ヶ月以内に自然に改善することも少なくありません。
一方で、出血が長く続く場合には
- 内視鏡治療
- 高圧酸素療法
などの治療が検討されることがあります。
血尿の治療(放射線性膀胱炎)
放射線治療後に起こる血尿の多くは、放射線性膀胱炎(radiation cystitis)によるものです。
症状の程度によって
- 保存的治療
- 内視鏡治療
- 高圧酸素療法
などの治療が行われます。
詳しくは
【内部リンク予定】
放射線性膀胱炎の記事でも解説しています。
尿漏れパッド
血尿がある場合、下着や衣服への付着が気になることがあります。
外出時などには男性用尿ケアパッドを使用すると安心です。
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薬物療法
軽症の場合は、まず薬物療法が行われることがあります。
止血薬
出血がある場合には
- トラネキサム酸などの止血薬
が使用されることがあります。
ただし、血栓症のリスクなどを考慮する必要があるため、医師の判断のもとで使用されます。
膀胱内注入療法
膀胱内に薬剤を直接注入する治療が行われることもあります。
代表的なものとして
- ヒアルロン酸
- コンドロイチン硫酸
などがあります。
これらは膀胱粘膜の保護や炎症改善を目的として使用されます。
内視鏡治療
出血が続く場合には、膀胱鏡を用いた治療が行われることがあります。
電気凝固
出血している血管を
電気凝固
によって止血する治療です。
膀胱鏡で出血部位を確認しながら処置を行うため、比較的確実に止血できることがあります。
高圧酸素療法
保存療法で改善しない場合には、高圧酸素療法が検討されることがあります。
組織の再血管化
高圧酸素療法では、通常より高い気圧の環境で100%酸素を吸入します。
これにより
- 組織の酸素供給が増える
- 新しい血管が形成される(再血管化)
といった効果が期待されます。
有効率
放射線性膀胱炎に対する高圧酸素療法の有効率は、
多くの研究で60〜80%程度の症状改善が報告されています。
そのため、難治性の出血に対しては重要な治療選択肢のひとつとされています。
詳しくは
【内部リンク予定】
高圧酸素療法の記事で詳しく解説しています。
血便の治療(放射線性直腸炎)
放射線治療後の血便の多くは
放射線性直腸炎(radiation proctitis)
によるものです。
治療には
- 保存療法
- 内視鏡治療
などがあります。
詳しくは
【内部リンク予定】
放射線性直腸炎の記事でも解説しています。
円座クッション
直腸の炎症がある場合、長時間座ると症状が悪化することがあります。
円座クッションを使用すると肛門周囲への圧迫を減らすことができます。
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保存療法
軽症の場合には、まず保存療法が行われます。
整腸剤
腸内環境を整えることで
- 下痢
- 腸粘膜の炎症
を改善することがあります。
腸内環境を整えることが、直腸粘膜の炎症改善につながる場合があります。
市販の整腸剤を使用する人もいます。
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ステロイド坐剤
直腸の炎症を抑えるために
ステロイド坐剤
が使用されることがあります。
炎症が原因の出血では、症状が改善することがあります。
APC(アルゴンプラズマ凝固)
慢性的な出血が続く場合、現在もっとも広く行われている治療が
APC(アルゴンプラズマ凝固)
です。
第一選択
多くのガイドラインやレビューでは、慢性放射線性直腸炎による出血に対して
APCが第一選択の内視鏡治療
とされています。
APCでは、アルゴンガスを用いて出血している血管を凝固させます。
有効率
APC治療では
70〜90%程度の症例で出血が改善
すると報告されています。
多くの場合、数回の治療で出血がコントロール可能です。
その他の内視鏡治療
APC以外にも、いくつかの治療法があります。
RFA
RFA(Radiofrequency ablation)
は高周波エネルギーで粘膜を焼灼する治療です。
APCが難しい場合などに検討されることがあります。
formalin療法
ホルマリンを局所的に使用して
- 出血血管を凝固させる
治療法です。
ただし合併症のリスクがあるため、慎重に行われます。
高圧酸素療法とは
高圧酸素療法は、放射線による晩期障害の治療として世界的に使用されている治療法です。
特に
- 放射線性膀胱炎
- 放射線性直腸炎
などで使用されることがあります。
治療の仕組み
高圧酸素療法では
高気圧環境で100%酸素を吸入
します。
これにより
- 組織の酸素濃度上昇
- 新しい血管の形成
- 組織修復の促進
が起こると考えられています。
有効率
国際的なレビューでは、放射線による慢性出血に対して
約60〜80%で症状改善
が報告されています。
そのため、難治性の症例では重要な治療選択肢とされています。
治療回数
高圧酸素療法は
- 1回約60〜90分
- 20〜40回程度
行われることが多い治療です。
症状の程度によって回数は調整されます。
血尿・血便は治るのか(予後)
血尿や血便が起こると心配になりますが、多くの場合は重症になることはまれです。
症状の程度によって予後は異なります。
軽症例
軽症の場合は
- 保存療法
- 経過観察
で自然に改善することも少なくありません。
中等症
出血が続く場合でも
- APC
- 内視鏡止血
- 高圧酸素療法
などの治療によって、症状がコントロールできることが多いとされています。
重症例
輸血が必要なような重症例はまれです。
しかし難治性の場合には、専門施設での治療が必要になることがあります。
すぐ受診すべき症状
次のような症状がある場合は、早めに医療機関を受診してください。
- 大量出血
- めまい・動悸などの貧血症状
- 血の塊で尿が出なくなる(血塊尿閉)
これらの場合には、緊急治療が必要になることがあります。
予防できるのか
現在では、放射線治療の技術の進歩により、晩期副作用は以前より減少しています。
最新放射線治療
近年は
- 照射精度の向上
- 正常組織の保護
が進んでいます。
IMRT
IMRT(強度変調放射線治療)
では、放射線の強さを細かく調整することで
- 膀胱
- 直腸
への線量を減らすことができます。
画像誘導放射線治療
画像誘導放射線治療(IGRT)
では、毎回の治療時に位置確認を行うことで、照射の精度がさらに向上しています。
これにより、副作用のリスク低減が期待されています。
よくある質問(FAQ)
血尿はいつ治りますか?
軽症の場合は、数週間〜数ヶ月で改善することがあります。
ただし慢性的な出血では、治療が必要になることもあります。
APC治療は痛いですか?
通常は内視鏡検査と同様の方法で行われるため、大きな痛みを伴うことは多くありません。
高圧酸素療法は保険適用ですか?
放射線による晩期障害の一部では、保険適用となる場合があります。
適応については医療機関での判断になります。
放射線治療から何年後に出血しますか?
多くは1〜3年以内ですが、数年経ってから出現することもあります。
放射線治療は危険な治療ですか?
現在の放射線治療は、精度が大きく向上しており、多くの患者さんで安全に行われています。
専門医コメント
放射線治療後の血尿や血便は、晩期副作用として一定の頻度でみられる症状です。
しかし近年は
- IMRT
- 画像誘導治療
などの技術の進歩により、重症例は以前より少なくなっています。
また、
- APC
- 高圧酸素療法
などの治療法も確立されており、多くの場合は症状をコントロールすることが可能です。
過度に心配する必要はありませんが、出血が続く場合には医療機関で相談することが大切です。
まとめ
放射線治療後には、まれに血尿や血便が起こることがあります。
多くの場合は軽症であり、自然に改善することも少なくありません。
一方で、慢性的な出血が続く場合でも
- APC
- 高圧酸素療法
などの治療法が存在します。
気になる症状がある場合は、自己判断せず、担当医に相談することをおすすめします。
この記事の執筆者
放射線治療専門医
放射線腫瘍学を専門とし、がんの放射線治療に従事。
患者さんやご家族に向けて、放射線治療の情報を分かりやすく発信しています。


















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