がん以外の病気に放射線治療は有効? ― 抗炎症作用から精神疾患まで、最新研究をわかりやすく解説 ―

2022年8月27日

放射線治療といえば「がん治療」というイメージが強いと思います。
しかし近年、がん以外の疾患に対する放射線治療の可能性が改めて注目されています。

特に、

  • 放射線の抗炎症作用

  • ピンポイントに高線量を当てる定位照射技術の進歩

  • MRIと組み合わせたMRリニアックなどの新技術

これらの発展により、従来は外科手術や薬物療法しか選択肢がなかった疾患に対して、新たな可能性が検討されています。

本記事では、現在報告されている代表的な研究を分かりやすくまとめます。

📘 放射線治療についてもっと詳しく知りたい方へ

放射線治療はがん治療のイメージが強いですが、近年では本記事で紹介したように、炎症性疾患や神経疾患などへの応用も研究されています。

「放射線治療って実際にはどんな治療なの?」
「副作用は?安全性は?」
といった基本的な疑問を、患者さんやご家族の視点でわかりやすく解説しているのが

『患者さんと家族のための放射線治療Q&A』 です。

専門的すぎず、しかし医学的に正確にまとめられており、初めて放射線治療に触れる方にも理解しやすい内容になっています。
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① 足底筋膜炎と放射線治療

― 抗炎症作用を利用した低線量治療 ―

放射線には抗炎症作用があることが知られています。
その機序は完全には解明されていませんが、骨転移の疼痛緩和に有効であることは広く知られています。

今回紹介する研究では、この抗炎症作用を利用し、足底筋膜炎の治療に応用しています。

研究内容

  • ステロイド注射のみの群

  • ステロイド注射+放射線照射群

を比較しています。

放射線治療は総線量6Gyを2〜3週間かけて照射
通常のがん治療(50〜60Gy)と比較すると、非常に低線量です。

結果

  • 放射線追加群で治療成績が良好

  • 次の治療が必要になるまでの期間が延長

ステロイドは比較的短期間の効果にとどまりますが、
放射線を追加することで症状緩和期間の延長が期待されました。

また、低線量であるため、問題となる副作用は認められませんでした

足は重要臓器が周囲に少なく、比較的安全に照射可能です。
難治性症例において、抗炎症作用を利用した放射線治療は有効な選択肢になり得ます。

② 不整脈に対する放射線治療

― カテーテルが届かない部位への新たな選択肢 ―

不整脈の治療は通常、

  • 薬物療法

  • カテーテルアブレーション

が行われます。

しかし、

  • 薬剤は長期副作用が問題

  • カテーテルは到達できない部位がある

という課題があります。

そこで検討されているのが放射線治療による非侵襲的治療です。

技術的課題

心臓は常に動いています。
拍動する臓器に正確に照射する必要があります。

近年、**MRリニアック(MRI一体型放射線治療装置)**の開発により、照射中にMRI画像を取得しながら治療することが可能になりました。

ただし、

  • 実施可能施設は限られる

  • まだ症例数が少ない

  • 長期成績は不明

という課題があります。

現時点では研究段階ですが、治療困難な不整脈に対する新たな可能性として期待されています。

③ 振戦(手のふるえ)と視床への放射線治療

振戦とは「手のふるえ」のことです。

  • 本態性振戦(65歳以上の約5%)

  • パーキンソン病関連振戦(約2%)

薬が効かない難治性例では、生活の質(QOL)を大きく低下させます。

研究内容

難治性振戦に対し、視床へ最大160Gyの高線量照射を実施。

対象:

  • 本態性振戦 23例

  • パーキンソン病 10例

結果

  • 3か月後:症状スコア約20%改善

  • 6か月後:約40%改善

  • 本態性振戦では6か月後に57%でQOL改善

パーキンソン病群ではQOL改善は有意ではありませんでした。

放射線治療は手術と比べて侵襲性が低いため、手術困難例では選択肢となり得ます。
ただし観察期間は約1年と短く、今後の検証が必要です。

④ 難治性うつ病に対する放射線治療

再発を繰り返す難治性うつ病に対する研究です。

従来、脳の一部を切除する外科治療が行われてきました。
これを放射線で代替できないかを検討しています。

治療部位

脳の「内包前脚」に高線量照射。

対象

3名(初期報告)

結果

  • 3名とも症状改善を自覚

  • 自殺企図の感情が低減

  • 認知・行動面の明らかな副作用なし

  • MRIで神経走行変化を確認

まだ症例数は少ないですが、外科治療の代替となる可能性が示唆されています。

⑤ コロナ肺炎と全肺照射

― 抗炎症作用は有効か? ―

COVID-19では、ウイルス自体だけでなく、過剰な免疫応答や炎症反応が重症化に関与すると考えられています。

そこで、放射線の抗炎症作用を利用した低線量全肺照射が検討されました。

ランダム化試験の結果

重症患者を対象とした二重盲検ランダム化試験では、

  • 全生存率の改善は認められませんでした。

システムレビュー・メタアナリシス

10研究を評価し、5研究を統合解析。

  • 挿管不要期間はわずかに延長傾向

  • 生存率の有意改善なし

現時点では、中〜重症COVID-19肺炎に全肺照射を一律に勧めるべきではないと結論づけられています。

実際の臨床的課題

  • 感染対策の徹底が必要

  • 放射線装置が1台の施設では負担が大きい

  • 肺全体への照射は肺障害リスクがある

一方で、照射方法の最適化(炎症部位への重点照射など)により、有効性が示される可能性も完全には否定できません。

今後の研究の蓄積が待たれます。

まとめ

放射線治療は「がんだけ」ではない

放射線治療は、

  • 抗炎症作用

  • 高精度定位照射

  • 低侵襲治療

という特徴を活かし、がん以外の疾患にも応用が検討されています。

疾患 現時点での評価
足底筋膜炎 有効性示唆、低線量で副作用少ない
不整脈 研究段階、今後期待
振戦 症状改善示唆、長期データ必要
難治性うつ病 初期報告で改善示唆
COVID肺炎 生存改善なし、現時点では推奨困難

今後の展望

放射線治療技術の進歩により、

  • 手術困難例

  • 薬剤抵抗性症例

  • 難治性疾患

に対する新たな選択肢が広がる可能性があります。

まだ研究段階の領域も多いですが、
がん治療で培われた技術が、他の疾患にも応用されつつあることは非常に興味深い流れです。

今後の症例の蓄積と長期成績の報告が期待されます。

参考文献

Low-Dose Radiation Therapy for Severe COVID-19 Pneumonia: A Randomized Double-Blind Study

2015 Jul 1;92(3):659-66. doi: 10.1016/j.ijrobp.2015.02.009. Epub 2015 Apr 28.

Prospective Randomized Comparison of the Effectiveness of Radiation Therapy and Local Steroid Injection for the Treatment of Plantar Fasciitis.

 

Noninvasive Thalamotomy for Refractory Tremor by Frameless Radiosurgery

Affiliations

Low-Dose Whole Lung Irradiation for Treatment of COVID-19 Pneumonia: A Systematic Review and Meta-Analysis

Affiliations

Noninvasive Capsulotomy for Refractory Depression by Frameless Stereotactic Radiosurgery

Affiliations

Radiation Therapy for the Treatment of Cardiac Arrhythmias

Affiliations

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