放射線治療の下痢|原因・いつまで続く?対処法を専門医が解説

患者

放射線治療を始めてから、
下痢が続いていて心配です…。
治療の副作用なのでしょうか?

放射線治療医

腹部や骨盤の放射線治療では、
腸が一時的に影響を受けて下痢が起こることがあります。
多くは一時的なものなので、
原因や対処法を知っておくと安心ですよ。

放射線治療では、下痢(軟便・水様便)が副作用として起こることがあります。
特に腹部や骨盤の放射線治療
では腸が影響を受けやすく、治療中に下痢が出ることがあります。

この記事では、

  • 放射線治療で下痢が起こる理由
  • いつから始まり、いつまで続くのか
  • 自宅でできる対処法
  • 医療機関へ相談すべき症状

について、放射線腫瘍専門医の視点でわかりやすく解説します。

なお、放射線治療の副作用の全体像は
放射線治療の副作用まとめ
で詳しく解説しています。


放射線治療で下痢が起こる理由

患者

放射線はがんだけを攻撃すると思っていました。
どうして腸に影響するんですか?

放射線治療医

放射線は分裂の速い細胞に影響しやすいんです。
腸の粘膜細胞は入れ替わりが早いため、
一時的に炎症が起きて下痢になることがあります。

放射線治療の下痢は、腸粘膜が一時的に炎症を起こすことで発生します。

腸の内側には、栄養や水分を吸収するための腸粘膜細胞があります。
放射線はがん細胞を攻撃しますが、分裂の早い正常細胞にも影響するため、腸粘膜が傷つくことがあります。

その結果、

  • 水分吸収が低下する
  • 腸の動きが過剰になる
  • 腸粘膜に炎症が起こる

といった変化が起こり、下痢や軟便として現れます。

この状態は医学的に

放射線腸炎(radiation enteritis)

と呼ばれます。

参考
NCI Radiation Therapy Side Effects
https://www.cancer.gov/about-cancer/treatment/types/radiation-therapy/side-effects


放射線治療で下痢はどのくらい起こる?

放射線治療による下痢の頻度は、治療部位や放射線量によって異なります。

一般的には

  • 骨盤放射線治療:20〜50%程度
  • 腹部放射線治療:10〜30%程度

の患者さんで下痢がみられると報告されています。

ただし現在は

  • IMRT(強度変調放射線治療)
  • IGRT(画像誘導放射線治療)

などの高精度放射線治療が普及し、
重症の下痢は以前より大きく減少しています。

参考文献
Andreyev HJ et al. Gastrointestinal symptoms after pelvic radiotherapy. Lancet Oncol.


下痢が起こりやすい放射線治療

特に以下の治療で下痢が起こることがあります。

骨盤の放射線治療

  • 前立腺がん
  • 子宮頸がん
  • 子宮体がん
  • 膀胱がん
  • 直腸がん

骨盤には小腸や大腸の一部が近くにあるためです。


腹部の放射線治療

  • 膵臓がん
  • 胃がん
  • 肝臓がん
  • 胆道がん

腹部の腸管が放射線の影響を受けることがあります。


放射線治療で下痢が起こりやすいがん

下痢は特に骨盤や腹部の放射線治療で起こりやすくなります。
これは腸が放射線の影響を受けやすい位置にあるためです。

下痢が比較的起こりやすいがんには次のようなものがあります。

前立腺がん

前立腺は直腸のすぐ前にあるため、
放射線治療では直腸や小腸の一部が影響を受けることがあります。

そのため

  • 軟便
  • 下痢
  • 排便回数の増加

などが起こることがあります。


子宮頸がん・子宮体がん

婦人科がんの放射線治療では骨盤全体に放射線を照射することがあり、
小腸や大腸が影響を受ける可能性があります。


直腸がん

直腸がんでは

  • 術前放射線治療
  • 術後放射線治療

が行われることがあり、
腸の炎症により下痢が起こることがあります。


膀胱がん

膀胱も骨盤内にあるため、
放射線治療では周囲の腸管が影響を受けることがあります。


膵臓がん・胆道がん

腹部放射線治療では、小腸が照射範囲に含まれることがあり
下痢が起こることがあります。


下痢はいつから始まる?

多くの場合、

治療開始から2〜3週間頃

に出始めます。

理由は、腸粘膜の細胞が入れ替わる周期が
約3〜5日程度だからです。

放射線の影響が徐々に積み重なり、
ある時点で症状として現れます。


下痢はいつまで続く?

患者

この下痢、治療が終わってもずっと続くのでしょうか…?

放射線治療医

多くの場合は治療終了後2〜4週間ほどで改善します。
腸の粘膜は回復力が高いので、
時間とともに良くなることが多いですよ。

多くの場合は

治療終了後2〜4週間程度で改善

します。

腸粘膜は再生能力が高く、
放射線治療終了後は徐々に回復していきます。

ただしまれに

  • 数か月以上続く
  • 血便が出る
  • 腹痛が強い

場合は、慢性放射線腸炎の可能性があり、医療機関での評価が必要です。

詳しくは
放射線治療後の排便症状
でも解説しています。


長期間続く下痢(慢性放射線腸炎)

ほとんどの下痢は治療終了後数週間以内に改善しますが、
まれに数か月〜数年後に腸症状が出ることがあります。

これは

慢性放射線腸炎(chronic radiation enteritis)

と呼ばれる状態です。

症状としては

  • 慢性的な下痢
  • 腹痛
  • 血便
  • 体重減少

などがみられることがあります。

発生頻度は

約5%未満

とされており、現在の高精度放射線治療ではさらに減少しています。

症状が続く場合は

  • 消化器内科
  • 放射線腫瘍科

で評価を受けることが重要です。

参考
ASCO survivorship guidelines
https://www.asco.org


自宅でできる下痢対策

刺激の少ない食事にする

腸への刺激を減らすことが大切です。

おすすめ

  • おかゆ
  • うどん
  • バナナ
  • 白身魚
  • ヨーグルト

避けたい食品

  • 脂っこい食事
  • 香辛料
  • アルコール
  • カフェイン

食欲がないときはおかゆなど消化の良い食事を

下痢があるときは、腸への負担が少ない食事がすすめられます。

・おかゆ
・うどん
・バナナ
・白身魚

レトルトのおかゆなどを利用すると、体調が悪いときでも食事をとりやすくなります。


水分補給をしっかり行う

下痢では脱水になりやすいため、

  • 経口補水液
  • スープ

などでこまめに水分を補給します。

脱水を防ぐために経口補水液を利用する

下痢があるときは水分だけでなく、電解質(ナトリウム・カリウム)も失われます。
そのため、水だけではなく経口補水液
を利用すると効率よく水分補給ができます。

例:
・OS-1(経口補水液)
・経口補水ゼリー
・経口補水パウダー

少量ずつこまめに飲むことがポイントです。


整腸剤や止痢薬を使用する

症状に応じて医師が

  • ロペラミド
  • 整腸剤
  • 消化管粘膜保護薬

などを処方することがあります。

ガイドラインでも、症状に応じた薬物治療が推奨されています。

参考
MASCC Supportive Care Guidelines
https://mascc.org

整腸剤を使うと症状が改善することも

放射線治療による下痢では、腸内環境の変化が関係することがあります。
そのため、乳酸菌を含む整腸剤を使用すると症状が改善することがあります。

市販の整腸剤の例

・ビオフェルミン
・乳酸菌製剤

※使用前には主治医に相談することが大切です。


放射線治療中の生活のポイント

患者

食事で気をつけることはありますか?

放射線治療医

脂っこい食事や刺激の強い食品は下痢を悪化させることがあります。
おかゆやうどんなど、消化の良い食事にすると腸への負担を減らせます。

下痢があるときは、日常生活でも少し工夫すると症状を軽くできます。

食事は少量ずつ分けて食べる

一度に大量に食べると腸への負担が大きくなります。
少量を1日4〜5回に分けて食べると消化しやすくなります。


乳製品で症状が悪化する場合がある

放射線治療中は一時的に

乳糖不耐症

になることがあります。

牛乳で下痢が悪化する場合は

  • ヨーグルト
  • 乳糖分解乳

などに変更するとよいことがあります。


腸を刺激する食品は控える

以下の食品は症状を悪化させることがあります。

  • 香辛料
  • 揚げ物
  • アルコール
  • カフェイン

すぐ医療機関に相談すべき症状

次の症状がある場合は、早めに主治医へ相談してください。

  • 水のような下痢が1日5回以上
  • 強い腹痛
  • 発熱
  • 血便
  • 脱水(めまい、口の渇き)

これらは感染症や重度腸炎の可能性もあります。

放射線治療による下痢の重症度(Grade分類)

放射線治療による下痢の重症度は、がん治療の研究や臨床で広く使用されている
Common Terminology Criteria for Adverse Events(CTCAE)
という基準で評価されることがあります。

これは副作用の強さを Grade1〜Grade5 に分類するものです。

Grade1(軽度)

  • 排便回数が普段より1〜3回増える
  • 軽い軟便

日常生活への影響はほとんどありません。


Grade2(中等度)

  • 排便回数が4〜6回増える
  • 腹部不快感
  • 整腸剤や止痢薬が必要

日常生活に多少の影響が出ることがあります。


Grade3(重度)

  • 排便回数が1日7回以上増える
  • 水様下痢
  • 脱水の可能性
  • 点滴などの治療が必要になることがある

この場合は医療機関への相談が必要です。


Grade4(生命に関わる状態)

  • 重度脱水
  • 循環不全
  • 緊急治療が必要

非常にまれですが、入院治療が必要になることがあります。


Grade5

死亡に関連する状態
(放射線治療による下痢でここまで重症になることは極めてまれです)


多くの下痢は軽度です

放射線治療による下痢の多くは

Grade1〜2(軽度〜中等度)

であり、

  • 食事調整
  • 整腸剤
  • 止痢薬

などで改善することがほとんどです。

現在は

  • Intensity-Modulated Radiation Therapy
  • Image-Guided Radiation Therapy

などの高精度放射線治療により、
重度の腸障害は以前より大きく減少しています。


放射線治療で下痢を予防できる?

完全な予防は難しいですが、現在の放射線治療では

  • IMRT
  • IGRT
  • 高精度治療

などにより、腸への線量をできるだけ減らす工夫がされています。

そのため、昔と比べて
重い下痢はかなり減少しています。


患者

下痢があると、放射線治療を続けて大丈夫なのか不安です…。

放射線治療医

軽い下痢であれば治療を続けられることがほとんどです。
整腸剤や止痢薬で症状をコントロールできる場合も多いので、
つらいときは遠慮なく主治医に相談してください。


専門医コメント

放射線治療による下痢は、骨盤照射で比較的よくみられる副作用の一つですが、多くの場合は一時的で、治療終了後に改善します。

現在はIMRTなどの高精度放射線治療により腸への影響は大きく減っています。また、症状が出ても整腸剤や止痢薬でコントロールできることがほとんどです。

ただし、

  • 水様下痢が続く
  • 血便が出る
  • 強い腹痛がある

場合は、感染症や炎症が強い可能性もあるため、早めに主治医へ相談することが大切です。


まとめ

放射線治療では、腸粘膜の炎症により下痢が起こることがあります。

多くの場合

  • 治療開始 2〜3週間 で出現
  • 治療後 2〜4週間 で改善

します。

症状がつらい場合は、

  • 食事調整
  • 水分補給
  • 薬物治療

で改善することが多いため、遠慮せず主治医へ相談しましょう。

放射線治療の副作用の全体像は
放射線治療の副作用まとめ
をご覧ください。


FAQ(よくある質問)

放射線治療で下痢はよく起こりますか?

骨盤や腹部の放射線治療では比較的よくみられる副作用です。ただし多くは軽症で、一時的なものです。

放射線治療の下痢はいつから始まりますか?

多くの場合、治療開始から2〜3週間頃に症状が出始めます。

放射線治療の下痢はいつまで続きますか?

多くの場合、治療終了後2〜4週間程度で改善します。

放射線治療中に下痢が出たら治療は中止になりますか?

軽度の場合は治療を続けられることがほとんどです。症状が強い場合は一時的に調整することがあります。

下痢のときに食べてよいものは?

おかゆ、うどん、バナナ、白身魚など消化のよい食事がおすすめです。

避けた方がよい食べ物はありますか?

脂っこい食事、香辛料、アルコール、カフェインは腸を刺激するため避けたほうがよいです。

止痢薬は使ってよいですか?

医師の判断でロペラミドなどの止痢薬が処方されることがあります。

水分はどのくらい摂るべきですか?

脱水を防ぐため、少量ずつこまめに水分補給することが重要です。

血便が出た場合はどうすればよいですか?

血便は腸炎が強い可能性があるため、早めに主治医へ相談してください。

放射線治療の下痢は後遺症になりますか?

ほとんどは一時的ですが、まれに慢性放射線腸炎として長く続くことがあります。


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  この記事の執筆者

放射線治療専門医
放射線腫瘍学を専門とし、がんの放射線治療に従事。
患者さんやご家族に向けて、放射線治療の情報を分かりやすく発信しています。

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